季節短編<クリスマス>
『氷雪の森に聖夜の願いを 前編』
クリスマス……高校生になるまで万年ぼっち。非リア充(世間でいうところので、決して生活が充実していなかった訳ではない)の俺にとっては全く縁もゆかりもないイベントだった。
元々はイエス・キリストの誕生を祝う祭が、商業主義によって変質したものが現在俺達日本人が考える一般的なクリスマスと言えるだろう。
それに対し、俺が第265代教皇のように「慎ましく過ごしなさい」というつもりは更々ない。
俺がしたかったのは、日本という国におけるクリスマスとは一体どのようなものかということを確認したかっただけである。
さて、ここで対比に出されるのは元初のクリスマスではない。
異世界カオスにおけるクリスマスだ。
といっても、異世界カオスには大きく分けて二つのクリスマスがあり、その日時も異なる。
一つがミント正教会の聖人ニコラウス=リュキアの生誕を祝う誕生祭であり、その日はこの世界の暦における十二月九日。こちらの祭りは元初のクリスマスに近く、宗教臭が強い。ミント正教会を信仰しているミンティス教国とその周辺を中心に行われているものの、その範囲はそれほど広いとは言えない。
そして、もう一つが「サパン・ド・ノエルの伝承」にどこぞの日本人転生者だか転移者だかが広めた日本におけるクリスマスの風習が融合し生まれたもので、主に「サパン・ド・ノエルの伝承」の風習が伝わっている自由諸侯同盟ヴルヴォタットを中心にその風習が広まっている。
この「サパン・ド・ノエルの伝承」というのは、別に織女と牽牛が天の川で引き裂かれたとか、そのようなロマンチックなエピソードがある訳ではない。
ただ、「サパン・ド・ノエルと呼ばれる樅の木に願いを書いた紙を入れたオーナメントを掛けるとその願いが叶う」という、淡白な言い伝えがあるのみだ。
それが、日本におけるクリスマスの風習――赤い服の不法侵入者とか、哺乳綱鯨偶蹄目シカ科の馴鹿とか、仲のいい友人とプレゼント交換だとか、意中の人とデートとか……まあ、ぶっちゃけ非リア充には心底どうでもいいものと融合し、結果的に現在の自由諸侯同盟ヴルヴォタット版クリスマスが形作られたそうだ。ちなみに、その日付は十二月二十四日、十二月二十五日とこちらの方が地球におけるクリスマスと日付が同じだったりする。
さて、非リアぼっちの俺がこんな関係のないクリスマスのことをつらつらと語っているかというと。
「草子先生! 私達、『サパン・ド・ノエル』に挑戦したいですわ!!」
えー、絶賛ノエリア達貴族令嬢に囲まれております。
彼女達の要求は「サパン・ド・ノエルの伝承」に挑戦したいというもの。
……うん、なんで他人の恋愛を応援しないといけないのだろうか? 俺、その日はエリシェラ学園の食堂に行って予約していたホールケーキを紅茶を飲みながら堪能するつもりだったんですけど!!
「……そういうのって俺じゃなくてセリスティア学園長に言うことじゃないの? あの人がここのトップだし。一客員教授を捕まえて懇願することじゃないと思うけど?」
「……セリスティア学園長に言ったら絶対に止められますわ」
「サパン・ド・ノエルの伝承」……ただ、クリスマスツリーにオーナメントを一つぶら下げることが、何故そんなに困難な試練のようになっているか……まあ、端的に言えば困難だからである。
この時期、サパン・ド・ノエルのある氷雪の森には、強力な魔獣が発生する。レベル的にはスノーマン=ロードとそんなに変わらない?
ちなみに、参考までに。
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NAME:スノーマン=ロード
LEVEL:120
HP:99999/99999
MP:0/0
STR:1000
DEX:0
INT:-10000
CON:99999
APP:60
POW:99999
LUCK:99999
SKILL
【氷魔法】LEVEL:120
→氷属性の魔法を使えるようになるよ!
【絶対零度】LEVEL:120
→絶対零度の冷気を操るよ!
【凍える伊吹】LEVEL:120
→凍える息を吐くのが上手くなるよ!
【雪達磨爆弾】LEVEL:120
→爆発する雪達磨を作るのが上手くなるよ!
ITEM
-----------------------------------------------
まあ、この雪達磨と同じものからもっと違うものまで幅広くいらっしゃるようです。
まあ、ジェルバルト山を単独踏破できるくらいの実力があれば問題ないってことか。
ちなみに、出現する魔獣が強力な理由はその二日間のみに降る魔力を大量に含んだ雪が原因とされている。もっと言えば、サパン・ド・ノエルに願いを叶える力があるのもこの雪が理由だと言われている。
だから、この二日間以外に樅の木にオーナメントを掛けても意味がない。
期間限定の強敵イベみたいだな……もしくはクリスマスイベ?
「噂を総合すると挑戦にはレベル100は欲しいようだけど……その辺り大丈夫?」
「大丈夫じゃないですわよ……でも、それでも挑戦したいのです!!」
だ、そうだ。お熱いことだね。愛の力があればレベルの壁を越えることだってできるのだろうか? ……いや、無理だと思うけど。愛と勇気じゃヴァパリア黎明結社は倒せないだろうし。
とはいえ、この貴族令嬢達を止めるほどの力は俺にはない。なんたって、向こうは名門の貴族令嬢、方やこっちは雇われのモブキャラ……どっちが立場が上かは一目瞭然です。
「……まあ、仕方ない。俺からセリスティア学園長に相談してみるよ」
「ありがとうございます」
……その結果。
「エリシェラ学園特別実践、サパン・ド・ノエルに願いを 八単位贈呈」……ナンジャコリャ!!
挙句「草子殿が協力してくださるなら、我々も安心して学生達を参加させられる。いい実践になるだろう」だと! セリスティア学園長、まさかと思ったが。そこは期待を裏切るところだろッ!!
ということで、俺は当日担当クラスを森の前で集合させ、注意事項を説明する羽目に陥っている。……結局、ケーキはお預けになった。
「という訳で、俺を低血糖にして苛つかせたい諸君。ぶっちゃけ、ここは皆様にはキツイんでちゃんとパーティを組むこと。間違っても『
そして、何故かいる聖、リーファ、白崎、ロゼッタ、アイリス、朝倉、北岡、柴田、岸田、八房、高津、常盤、志島、
「……それは……その、私にも叶えたい願いがあるから」
白崎にもサパン・ド・ノエルの力で叶えたい願いがあるようだ。あれか! 世界平和か!! 流石は“熾天大天使地母勇者之神”様だ!
「……ふふふ、艶やかな髪がいっぱい」
『アイリス、欲望が剥き出しになっているリプ。……まさか、貴族令嬢の髪を堪能したいから森に来たってことはないよね?』
「まさか? 私は全ての素晴らしい髪を好きなだけ合法に堪能できますようにって願いに来たんだよ?」
……ヤバイ人が紛れていた。というか、元々ヤバイ人だけど。
「そういえば、ヤバイ変態二巨頭はいるけど、もう一人の変態はどこ行ったの?」
「誰がヤバイ変態ですか! BLは崇高です!!!」
「「「「「「そうですわ! BLは崇高なのですわよ!!」」」」」」
リーファの追い風になる貴族令嬢……お前らか、噂の腐女子令嬢というのは。大丈夫か? お隣の
「……すみません、草子君。イセルガには逃げられてしまいました。今、レーゲン君が追っています」
……マジですか。お疲れ様です、レーゲン。
ということは、あの脳筋共以外全員来たのか。
「んじゃ、予定変更。世界平和のために、幼女、髪、BL関連の願いを叶えようとしている奴は全力で阻止するんで、よろ」
「「「「「「さりげなく私達の夢が潰されることが確定したわ!!」」」」」」
かくして、腐女子令嬢達の夢は破れてしまったようだ。
「……聖さんも、変な願いを叶えようとするなよ。特に爆破に関する願いとか」
「そんな勿体無いことしないわよ。あたしには他に叶えないといけない願いがあるから。……それに、ロゼッタさんは流石に無理だけどその辺りの貴族子女に気配を消して近づいて爆破するくらい、流石にできるわ!」
貴族子女達が揃って青褪めたのは言うまでない。
「……そういえば、聖さんと出会った時って、迷宮の中で後ろから近づかれて危うく爆破され掛けたんだったっけ? 『あたしセイちゃん。今ダイナミテーに着火したの!!』……うん、流石にビックリしたよ。異世界に来て初めて遭遇したのが女子中学生の幽霊で、しかも手に爆弾を持っているなんて」
「あたしもびっくりしたわ。まさか、冷静に【水魔法】で爆弾の火を消されて、英語とフランス語で尋問されるとは思っていなかったから」
「Comment vous appelez-vous?」
「……ごめん。今でもフランス語は話せない」
まあ、分かってて質問したからね。ここで、「Je m'appelle Takano Sei.」って返したら流石にびっくりだよ!!
「んじゃ、俺はそろそろ中に入って適当に屠って数減らしてくるんで。後はよろしく」
聖達もいるなら安心だろう。俺は、先に氷雪の森の中に入ることにした。
-----------------------------------------------
NAME:
LEVEL:150
HP:120000/120000
MP:0/0
STR:10000
DEX:0
INT:-10000
CON:99999
APP:60
POW:99999
LUCK:99999
SKILL
【氷魔法】LEVEL:150
→氷属性の魔法を使えるようになるよ!
【絶対零度】LEVEL:150
→絶対零度の冷気を操るよ!
【凍える伊吹】LEVEL:150
→凍える息を吐くのが上手くなるよ!
【雪達磨爆弾】LEVEL:150
→爆発する雪達磨を作るのが上手くなるよ!
ITEM
-----------------------------------------------
……うん、スノーマン=ロードとほとんど同じだ。
まあ、この程度なら一撃でいけそうだな。
【黒焔】と【プラズマ操作】を併用して、
【黒焔爆熱陣】とでも呼ぼうか? うむ、凄い威力だ。雪達磨が溶けていく……まあ、特別なものであるとはいえ、所詮は雪だし。
-----------------------------------------------
NAME:
LEVEL:300
HP:350000/350000
MP:300000/300000
STR:500000
DEX:200000
INT:10000
CON:200000
APP:200000
POW:200000
LUCK:10000
SKILL
【薙刀術】LEVEL:500
→薙刀を上手く使えるよ!
【袈裟斬り】LEVEL:500
→袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の左肩から右脇腹を斬るよ!
【逆袈裟斬り】LEVEL:500
→逆袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の右肩から左脇腹を斬るよ!
【薙ぎ払い】LEVEL:500
→薙ぎ払いが上手くなるよ!
【振りかざし】LEVEL:500
→振りかざしの威力が上がるよ!
【氷魔法】LEVEL:500
→氷属性の魔法を使えるようになるよ!
【絶対零度】LEVEL:500
→絶対零度の冷気を操るよ!
【凍える伊吹】LEVEL:500
→凍える息を吐くのが上手くなるよ!
ITEM
-----------------------------------------------
和装風の衣装を纏った雪の女将軍? コイツは雪達磨以上に厄介そうだな。
薙刀を振りかざしてきたか……さてと、どうしますかな?
「【黒雷収束壱式砲】……的な?」
【雷操作】と【黒雷】を発動して黒雷をビームのように収束して解き放った。火でも雷でも関係なく氷雪の森の魔獣は倒せるようだ。
「さて……そろそろ見回りに行きますか」
【叡慧ヲ窮メシ者】で座標を割り出す……おっ、早速囲まれてんな。ちょっと見に行くか。
『――〝真紅の炎よ、槍となって貫け〟――〝
『ちっ、僕に僕の頭脳をフル活用できる強さがあれば』
『ぎ、ギンフィール様……今ある力でできることをするのが、今、必要だと思いますわ』
『そんなこと分かっている!!』
あれは、ギ…………なんとかと、ヴィクティーヌ=アントワーフか。
うちのクラスのインテリ君の像がチラつく自意識過剰な天才と、気弱だけど実力はピカイチのアントワーフ男爵家令嬢か。
そういえば、ギ…………なんとかってパルムドーレとかいう侯爵家の出身だったっけ?
ああ、そりゃ逆らえんわ。それに、ギ…………はプライドの塊だし。
『あまり、僕を舐めるなよ! 〝雷光よ、紫電の速さで、敵を撃て〟――〝
ほう、その年で
まあ、初級魔法だからあんまり
「〝真紅の炎よ。無数の槍となりて、我が敵を貫き焼き尽くせ〟――〝
おっ、ヴィクティーヌは中級魔法を使えるのか。しかも、かなりの練度だ。
ヴィクティーヌは、人知れずコツコツと確実に努力できるタイプだからな。そりゃ、上達も早い。
こういう時に歴然の差というものができるのだよ。ギ…………なんとか。
『……〝雷よ、槍となって貫け〟――〝
えっと……誰だっけ? クラス一の傲慢令嬢…………っ、思い出した。エカテリーゼ=ヴォフフェアン侯爵令嬢だ。
ああ、うちのクラスの問題児Ⅱ。高飛車で実力はあるが、肝心なところでドジを踏む天性のドジっ子。
で、今回のドジは。……ああ、完全に今ので
背後から
『〝紅煉の世界の灼熱よ! その熱で全てを焼き尽くせ! 一切合切を焼き尽くして浄化せよ〟――〝
……と、その必要は無かったか。
魔法を撃ったのはエリシェラ学園美女・美少女ランキングのトップ10入りを果たしたマイアーレ。……と、その隣にいるのは、同じくトップ10入りを果たした男装の麗人、シャンテル=パトリヴォール。
噂の演劇部の二大女優様のお出ましか。というか、確か付き合っているって噂もあったっけ?
メアリさんかと思ったら、まさかのティオネだった! いや、別に俺は両者合意なら別にいいと思うよ。ただ、他人に迷惑を掛けることだけはやめてくれって思うけど。
しかし、今の魔法……上級魔法か。エリシェラ学園でもそんなに使える人は多くなかった筈。確か、ロゼッタも使えたっけ?
「なかなかの火力だった。流石は才色兼備の令嬢様だ」
「…………能因先生、いつから?」
ん? シャンテルとは初対面な気がするけど。
「はじめまして、シャンテル様。お噂はかねがね。俺は、能因草子、ただのモブキャラです」
「能因先生のお話はマイアーレや、友人達から伺っています。色々なところでお噂をお聞きします……とんでもなく規格外なお人だとか?」
「まさか? 俺はただのモブですよ。
「……あ、あの。能因先生……能因先生は、普通じゃないと思います」
「いやいや、普通だから。ごく平凡。英才教育なんて受けたことないし。文学が好きだから独学で学んでいたら大学教授にゼミに入るように勧誘されたことはあるけど、それくらいだから」
「……草子様。それは普通とは言いませんわ」
言わないそうだ。比較対象が地球と異世界カオスだから認識の相違が生まれているのだろうか?
「ところで、草子様はいつからこちらにいらしたのですか? というより、どの段階から見られていたのですか? 全く気づきませんでしたわ」
「……えっと、そこにいるギ…………なんとか君が〝
「僕の名前はギンフィールだ!!」
「い、今のは油断しただけですわ! 私一人でも倒せましたわよ!!」
たく、少しは自分の非を認めて謝れよ。プライドの鎌足……じゃなかった塊ども。
「まず、ギ……なんとか。ぶっちゃけお前の名前はいつまでたっても覚えられないんだよ。ハーなんとか先輩と同じだ。それと、俺のクラスにいたインテリの像が被るからウザい。刎ね飛ばすよ? 何をとは言わないけど。それから、エカテリーゼ。少しは非を認めなさい。自意識過剰は自分の伸び代を潰すし敵ばかりつくる。少しは打ち解けるように努力しろよ? まあ、侯爵家っていう肩書きが邪魔するかも知れないけど。でも、それだってロゼッタさんを見れば分かるように、偉い貴族が百パーセント偉く振舞っている訳じゃないからな。寧ろ、真の偉い人は低姿勢だったりするんだ。ということで、まあ将来のためにも性格を軟化させる努力をした方がいい。じゃないと、本当にぼっちになるぞ。ぼっちは生き甲斐を見つけないと辛いぞ。俺はクラスから村八分にされたことがあるから、その辺り詳しく話せるよ? まあ、俺には浅野ゼミという心のオアシスがあったから良かったけど」
青褪めるエカテリーゼとギ…………なんとかを放置して、俺は次の仕事に向かおうとしたんだが。
「ところで、能因先生はどうして私達に気配を悟られず現れることができたのですか?」
シャンテルがそんなことを質問してきた。
「ああ、あれのことね。俺が昔読んだことのあるライトノベルにこんな記述があったんだ。『人には姿を見る力があると同時に、姿を見られる力がある』と。俺はその見られる力を無くすスキル――【不可視】を使ったって訳さ」
「……草子様、自分で何を仰っているのか分かってますか? つまり、誰にも悟られることなくいつでも寝込みを襲って暗殺できると、そう仰っているんですよ!!」
「えっ、そうだけど? そもそも、このスキルの元は暗殺者の技だし」
マイアーレ達まで顔を真っ青にしてしまったが……俺は別に貴族子女の寝込みを襲わないよ!!
「んじゃ、俺はそろそろ他の生徒を見に行ってくるから」
「お仕事お疲れ様ですわ」
マイアーレ、よく気が回るな。そういう些細な言葉がやる気に影響したりするんだよ。
「そういえば、この森には出るらしいぞ」
「「「「「……出る?」」」」」
「ま、まさか、お化けとかではないですわよね!!」
「あれ? エカテリーゼって意外と怖がり?」
「……わ、私が怖がりで何か問題がありますか!!」
ああ、オカルト系の話ダメなタイプか。アンデッドが普通に出てくる異世界カオスだと生活するの、苦しいぞ。
まあ、折角だし脅かしてやるか……えっと、スマホ、スマホ。スマホのライトを起動して、顎付近で上に向けて。
「出るんだよ? 真っ赤な服の小父さんが」
「――ギャャャャャャャャャャャャャ!!」
エカテリーゼの絶叫が氷雪の森に響き渡った。
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