文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
【リーファ視点】この“精霊王”の試練巡りが全て終わった時に私はどれだけ草子さんに近づけているのかな?
【リーファ視点】この“精霊王”の試練巡りが全て終わった時に私はどれだけ草子さんに近づけているのかな?
異世界生活六十日目 場所
『……な……何が起こったんだ!』
身体のほとんどが消し飛ばされ、今にも消えそうなアオスブルフが、驚愕の表情を浮かべている。
「さっき説明しただろう? 明らかに脳筋なお前に説明したところで無駄だろうから、言わねえよ。……“精霊王”の試練を受けに来たのは俺じゃなくてリーファだ。お前が貧弱と決めつけた彼女が相手だ。……まあ、もう結果は見えたも同然だけど。驕る脳筋は久しからず、ただでさえ蝉より短い命を短絡的な思考で呆気なく落とす、と。……まあ、このままじゃ流石に戦いにならないだろうし、試練ってのはお互い最高の状態で行うべきだよね? さあ! 回復してやろう! もてる力のすべてでかかってこい! ……リーファに」
私とアオスブルフを淡い光が包み込む。無詠唱で〝
『つくづく馬鹿にしやがって!! 俺を回復させたこと、後悔させてやるわ!!』
「……ファンテーヌ、力を貸してくれるかしら?」
『勿論だ。私はリーファ様の剣であり盾――リーファ様には指一本触れさせん。それに、アイツのことは昔から嫌いなんだ。この機会に鬱憤を晴らさせてもらおう』
……うん、相当ストレスを溜めていたんだね。
いつも冷静なファンテーヌが、怒筋を作っているよ。……折角の凛々しい顔が台無しだ。
『リーファ様、戦い方は指示を貰ってから攻撃するのか、自由に動いていいのか、どちらでしょうか?』
「自由に動いて欲しいな。私の指示を聞いてからだったら不便だろうし、ファンテーヌさんは自分で動いた方が強いと思うから」
『了解しました。――では、早速飛ばしていこうと思います。
ファンテーヌが剣を掲げると同時に猛烈な雨が降り始めた。
『ふん、相変わらず芸がない騎士だな! そんな雨粒程度で我が炎は消せん! ――
アオスブルフが炎を纏い、一直線に移動してファンテーヌに向かって右ストレートを放つ……芸がないのはどっからどう見てもお前だよ!!
「〝凍てつく女王よ! 戯れに吹くその息吹であらゆるものを凍らせておくれ! この世界を凍てつかせておくれ〟――〝
『――心得た!!』
ファンテーヌが消えるのを見計らい、抑えていた魔法を解放し、猛烈な吹雪をアオスブルフに向けて放つ。
『なっ、なんだと!!』
アオスブルフはファンテーヌとは違い、私の技を見たことがない。
知っているという
消滅は免れたものの、アオスブルフの消耗はかなりのもの。実際、身体の所々は消滅してしまっている。
「……そろそろ負けを認めてくれませんか?」
『……おっ、俺はま、まだ、負けてなどない!!』
身体が崩れ掛けている。アオスブルフが無理矢理身体を動かすと、炎の身体が一部崩れ落ち、地面を焼いた。
アオスブルフは苦痛で顔を歪めるが、それでも動きを止めない。
満身創痍の身体で、それでも戦闘態勢を取るアオスブルフの諦めの悪さは本当に尊敬する。
……そして、その強固な意志を破るのは厄介だ。そのまま頑なに負けを認めなければ、本当に殺してしまうことにもなりかねない。
『……リーファ様、躊躇なさらずにやっちゃってください。この頑固な脳筋はそれくらいやらないと負けを認めませんので』
「ありがとう、ファンテーヌさん」
ファンテーヌに背中を押され、覚悟が決まった。
「〝凍てつく氷よ。槍の形持つ無数の氷塊へと姿を変え、汝の敵の身体を貫け〟――〝
氷属性中級魔法、〝
無数の氷の槍に貫かれ、アオスブルフの身体の崩壊が更に早まる。
だが、ここまでしてもアオスブルフが試練達成を認めることは無かった……一体どんだけ頑ななのよ!!
『……我、は、負け、ん!!! ――
うそ、このタイミングで!!
足元に赤い魔法陣が生まれ、炎が燃え上がる。
『――リーファ様! ――
私は諦め掛けていたのに、ファンテーヌは諦めずに〈
……ファンテーヌが諦めていないなら、当事者の私が諦めちゃダメだ!! このまま終わりになるなんて、そんなの許容できる訳がない!!
「〝風よ、解き放て〟――〝
〈
〝
その風に半ば強引に吹き飛ばされるようにしながら私は〈
『……くっ、
〈
◆
『改めて、“火の精霊王”アオスブルフ=フィアンマだ。“精霊王”の試練に打ち勝った勇敢なる者よ! 我は汝に従属することを誓う』
「よろしくお願いします、アオスブルフさん。私はリーファ=ティル・ナ・ノーグです」
私は“火の精霊王”と契約を交わし、試練に打ち勝った私とその前の戦いで勝利した草子さんは【火の精霊王の加護】を獲得した。
草子さんは【火魔法】や【爆裂魔法】をたまに使っているし、きっと持っていて損じゃないスキルだと思う。
「〝嗚呼、惨き戦場よ! 戦に身を投じ、生命を散らした殉教者達よ! 戦火に焼かれ焦土とかした大地よ! せめて、せめてこの私が祈りましょう! いつまでも、いつまでも、祈り続けましょう〟――〝
戦闘終了後、草子さんは私達に【回復魔法】を掛けてくれた。……今回の“精霊王”の試練巡り、草子さんが居なかったら私って何回くらい死んでる計算になるのかな? 本当に草子さんがついてきてくれて良かったと思う……ってそれだと草子さんに頼りっきりで私自身は強くなれていないってことだよね。もっと頑張らないと……まずは、草子さんに迷惑を掛けないことを目標にして。
「しかし、思い切ったことをしたな。自分に魔法を使うってのはテンプレだと言われるほどありふれた選択肢だが、実際に踏み切るためには強い覚悟が必要だ。例えこのままだったら死ぬって状況でもなかなか踏み切れない……それに、一刻を争う危機的状況だと急に頭が真っ白になるものだ。的確な判断と寸分の狂いない魔法操作――それが揃ってこそできる芸当だ。……本当に凄いな、リーファさんは」
草子さんなら何の躊躇もなく一瞬で、しかも完璧に成し遂げちゃうと思うけどね。
でも、草子さんに褒められたのは素直に嬉しい。もっと精進しないといけないな。
「えっと、次は“風の精霊王”だっけ? 属性相性的にはアオスブルフだけど……どうする?」
「正直、今日の今日でアオスブルフさんと組んでも連携とかできなさそうだから……ごめんなさい、またファンテーヌさん、お願いできませんか?」
『草子さんに回復してもらったから、大丈夫だ! 任せて下さい、リーファ様』
頼りにしてます、ファンテーヌさん!!
焦土となった森を離れて北上すると、急に風が強くなった。
まるで私達の行く手を阻むように吹き荒む風の中を少しずつ進んでいくと、金色の髪の少女が風を弄んでいる姿が見えた。
『お久しぶりです、ファンテーヌ様、アオスブルフ様。そして、先輩方と契約を交わしたのが貴女ですね? はじめまして、私はシュタイフェ=ブリーゼ――“精霊王”の中で一番の未熟者ですので、どうかお手柔らかにお願い致します』
可憐な容姿通り性格が弾けているのかと思ったら、そうでもないらしい。
礼儀正しく、真面目。そして、他人に左右されない強い芯を持っているのが窺える。……この人、ファンテーヌ並みの強敵だ。
『私の試練のルールは単純――私に勝つことです。ただ精霊の力は借りず、一人で戦って頂きます。契約者様の、純粋な力量を見せて頂きたいのです』
これは、“精霊王”と契約する試練であると同時に、私自身が強くなるための試練でもある。
いくら“精霊王”と契約できたとしても、私自身が強くなれなければ意味がない。
「……分かったわ。私の力だけで貴女に勝ち、認めてもらう」
かなりキツイ戦いになると思う。最悪の場合は、“精霊王”の試練巡りはここで終わりになるかもしれない。
「……今回はファンテーヌさんの時みたいに援護はできないし、アオスブルフの時みたいにファンテーヌから力を借りることもできない。純粋に、リーファさんの実力が試される。――精一杯戦ってこい」
「はい……草子さん!」
オレイミスリルの
『――では、始めましょう。
シュタイフェの手に竜巻が生まれ、解き放たれる。
地面に降りると同時に巨大化し、森を削りながら私に迫った。
「〝凍てつく女王よ! 戯れに吹くその息吹であらゆるものを凍らせておくれ! この世界を凍てつかせておくれ〟――〝
私はその竜巻越しにシュタイフェを狙い、猛烈な吹雪を解き放った。
吹雪は竜巻を吹き飛ばし、シュタイフェにダメージを与える。
『……なかなかやりますね。ですが、これならどうでしょう?
シュタイフェの手に三つの風の刃が生まれ、不規則な軌道を描きながら私に向かって飛んで来た。
「魔法剣・
風の刃の中心を狙い、三連続の突きで的確に破壊する。
『風の刃を的確に突き、破壊してしまわれるとは……途轍もない技倆ですね』
「
『途轍もない技倆が求められる技に見えるが……そうか、使える者も多いのか。私も精進しなければならないな。そういえば、私の
「あれも似たようなものですね。今回は火が風を呑み込み、前回は火が水を瞬間的に水蒸気に変えた……属性を利用して、相手の攻撃を無効化しているという点では共通しています」
……確かにみんな自然に使っていたからそんなに凄いことだとは思わなかったけど、改めて考えると凄い技よね。
でも、草子さんなら攻撃を無効化するどころかそのまま敵に一撃浴びせちゃうと思う……うん、草子さんの近くにいると何が凄いことなのか感覚が麻痺してくるよね。
『単発攻撃では通用しないようですね。――では、怒濤の攻撃を仕掛けてみましょう。
シュタイフェの姿が掻き消えた……と思ったら、目の前にシュタイフェの姿があった。
このパターン、既視感がある。……そうだ、ファンテーヌの試練の時。
「魔法剣・
【魔法剣】の蒼焔を瞬時に広げ、シュタイフェの前に展開する。
風が炎を強くすることあっても、炎を消すというのはなかなか無い。そよ風程度の攻撃なら焼け石に水……作戦を誤ったわね! シュタイフェ!!
『……私が何も考えずに接近戦を仕掛けると思いましたか?
ッ! 背後に回られた!
そうか! 〈
……でもそれなら、吸い込んだ空気と一緒に敵の身体に入って、内部から破裂させるって手もあるよね? なんでしないの!? ……もしかして、私の考えが物騒になっている!!
『トドメです!
……マズい! 今から背後を向いて守っても間に合わない!!
敵の方を向かずに魔法を使った経験はない。でも、今はそれしか方法がない。
やらずに後悔するなら、例え失敗したとしてもやった方がいい。
「〝真紅の炎よ。無数の槍となりて、我が敵を貫き焼き尽くせ〟――〝
『ッ! まさか背後に向かって魔法を!!』
後ろに向き直ると、シュタイフェが苦悶の表情を浮かべていた。
炎の槍そのものは形を失ったが、槍を形作っていた炎はそのままシュタイフェに絡みつき、その身体を燃やしている。
「〝清き水よ、球となって襲い掛かれ〟――〝
『――
私はファンテーヌと協力して鎮火に乗り出した。
ずぶ濡れになったシュタイフェは小さな竜巻を作り出して身体についた水を吹き飛ばし――。
『……どうやら、私は貴女を甘く見過ぎていたようですね。まさか、向き直ることなく見えない背後に向かって魔法を放ち、的確に命中させてしまうとは予想もしませんでした。……私の中に貴女を侮る心があったこと、謹んで謝罪致します』
今回勝てたのは、相性が良かったからに過ぎない。
もし、シュタイフェが風属性じゃなかったらファンテーヌの試練の時みたいに死ぬ可能性があったと思う。
それだけの
『それでは、約束通り契約を結びましょう。改めて、“風の精霊王”シュタイフェ=ブリーゼです。“精霊王”の試練に打ち勝った勇敢なる者よ! 私は貴女に従属することを誓います』
これで三体目……残るは後二体か。
この試練が全て終わった時、私はどれだけ草子さんに近づけているのかな?
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