文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
やはり異世界カオスはどうやってもカオスな展開にしたいらしい。乙女ゲームをハッピーエンドで終わらせる気は更々ないようだ。……ロゼッタの知る乙女ゲームは始まる前に終わっていたようだ。
やはり異世界カオスはどうやってもカオスな展開にしたいらしい。乙女ゲームをハッピーエンドで終わらせる気は更々ないようだ。……ロゼッタの知る乙女ゲームは始まる前に終わっていたようだ。
異世界生活十七日目 場所エリシェラ学園
衝撃の事実が判明した……というか、まあよくよく考えてみたらそうなんだけど。
既に発見されているんだから調査もされているよね。それも何回も。エルフじゃあるまいし、取り零しは無いだろう。
だが、それでも何か残っているかもしれない。行ってみる価値はあるだろう。まあ、ジルフォンドも許可をくれた訳だし。
「……ところで、一つお伺いしても。何故、遺跡ジグラートを調査したいのですか?」
そんなことを考えていたらジルフォンドがそんなことを聞いてきた……ああ、気になっちゃうか。
仕方ない。……昔話をしよう。
「昔々あるところに……といってもそこまで昔じゃないんだけど。一人の少年がいました。その少年は特殊な性癖のせいでクラスからも孤立し、独りぼっちになってしまいました。しかし、そんな独りぼっちな少年にも遂に理解者が現れたのです。少年は歓喜しました、理解者も歓喜しました。どっちにとっても最高で幸せな関係です。その時から、少年の居場所は理解者達のいる場所になりました」
「……あの、昔話をして欲しい訳ではないのですが」
「ジルフォンド様。草子様は自分のことを昔話として話しているのですよ」
「なるほど、そういうことでしたか。ありがとうございます、ロゼッタ」
あの、ラブラブな雰囲気を出さないでくれませんか、王子様。どうせアンタ裏切るんだろ? 主人公のプリムラの方にころっといっちゃうんだろ。
「しかし、その少年の幸せは唐突に幕を閉じてしまいました。少年はクラス召喚という儀式に巻き込まれ、真っ白な部屋に飛ばされてしまったのです。これから、少年は簡単に命を奪われてしまう危険な世界で生きていかなくてはなりません。しかし、そのために必要なスキルやアイテムはほとんどいいものをクラスメイトに取られてしまい、ほとんど何も残っておりません。……それでも少年は異世界に放り出され、挙句迷宮に飛ばされ……でも、なんとか生き延びました。幸運があったのか何かは分かりませんが、きっと少年には役割があったのでしょう。クラスメイトの糧になれというところでしょうか? クラスメイトと面識すら無かったのに、着火剤になれる訳がありませんよね。まあ、召喚した神様も老害だったみたいですし、きっと大して何も考えていなかったのでしょう。……その世界はかつて少年がいた世界と同じキャッチコピーでした。『何にでもなれる』――魔王を討伐する勇者にでも、人々を救う聖女にも、軍を指揮する将軍にも、伝説に名を残す魔法使いにも、それこそ何にでもなれます。それなのに、何故元の世界に帰ることだけが許されないのでしょうか? 無理矢理呼び出された挙句帰りのない切符だったとか言われても納得できる訳がありません。誰も教えてくれないのなら、自力で探すしかない。当然、暗闇の中を手探りで探すようなもの……まあ、ようするに人生と一緒ですね。思い切って一歩を踏み出さなければ何も変わらないのですから。可能性が低いとしても、たとえ間違っていたとしても、そこに可能性があるのであれば検証するしかありません……それ以外に目的を達成する手段がないのですから」
うん、我ながらいい纏め方だ。とりあえず、人生って言っておけば深みが増すよね。でも付け焼き刃だから樽で熟成されて木の匂いが移ったカルヴァドスには重厚感が劣るかな?
「分かりました。そういうことでしたら、思う存分探してください。少しでもお力になれるのであれば幸いです」
よし、調査権確保。やはり俺の語りが上手かったのだろう。……副業で噺家でも始めてみようかな。
……いいか、一度で憶えるんだぞ。「アジャラカモクレン キューライソ テケレッツノパ」このあとパン、パンッ……と、手を二つ叩くんだ。これをやられると死神は離れなきゃぁならねぇ決まりになってる。死神がいなくなれば病人はすぐに治る。お前さんは礼金をたっぷりと貰えるってぇ寸法だ……途中だけ引き抜いたからよく分かんないな。古典落語の演目の一つで幕末期から明治期にかけて活躍して多数の落語を創作した初代三遊亭圓朝がグリム童話の第二版に収載された『死神の名付け親』を聞いて翻案したものだとされる『死神』って作品だよ。
えっ、落語も分かるんかって? 文学好きを名乗るのなら、これくらいは教養だよ!
「そういえば、ロゼッタ。満点おめでとうございます」
……へぇ、満点か。俺も現文と古典以外だととったことなかったな。……って、満点って(全教科)満点のことだろうけど。
「さて、生徒会の役員を決めましょうか」
本題は生徒会の役員を決めることだったようだ。……まあ、ほとんど身内だから気兼ねなく決められそうだけど。……あっ、終わったみたいだ。
ジルフォンドは前年から引き続き生徒会長。前年から引き続きフィードと新任でヴァングレイが副委員長。ノエリアとプリムラが書記で、シャートとロゼッタが会計らしい……。
ちなみに、ジルフォンドがロゼッタを生徒会長にしようとしていたようだが、全力でロゼッタが断り、ならば副委員長にしようとしたもののまたしてもロゼッタが拒否し、最終的に会計に落ち着いたようだ……どうやら目立ちたくない系令嬢らしい。まあ、美華さんって実力があるのに極力隠すタイプみたいだからね。能ある鷹は爪を隠す的な?
「そういえば、皆様はどこに泊まられる予定ですか?」
話し合いが終わったところで、ロゼッタがそんなことを聞いてきた。気配りができる素晴らしい女性のようだ。まだ人となりは知らないけど、ジルフォンドには勿体無いと思う。
まあ、俺にはもっと釣り合わないけど。所詮モブキャラに人のことはとやかく言えねえな。
「……学生寮には学生じゃないから泊まれないし、 職員寮だと先輩教員が新人いびりしてきそうだし、宿に泊まるのは……泊まる? どうしよう? 学内でテント張れるか後で学園長に聞いてみよう。まあ、どこかの乙女ゲーム系異世界ラノベだと、畑を耕しても問題なかったし、問題ないんじゃないかな? あっ、俺は耕したりしないよ。買ったほうが安いじゃん。どこかの電気屋のキャッチコピーじゃないけど」
あれ? なんか変なこと言った? みんな絶句しているんだけど。
いや、テント張って寝ればタダだし、学内の食堂を使えば職員割引効くんじゃないって思って。経費節約だよ、節約。全ては本を買うために……って節約になってない!? 寧ろ大量浪費してるって? いやいや、文字通り骨肉になっていますから。
◆
学生寮は豪華だった。それこそ、豪邸かと錯覚するほどに。
フルール・ド・リス寮、か。なかなか素晴らしいネーミングセンスではないか! って何キャラだよ!?
ちなみに、プリムラはもう一つの寮暮らしらしいので、途中で別れた。……ってか、俺達までなんで同行しているんだろう? ……場の雰囲気? 逃げられなかった。
途中、教師らしき人を見かけたが一人だった。財前教授の総回診的なものは無いようだ。……ってあれは学び舎は学び舎でも大学病院だった。
まあ、入り口で別れたんだけどね。俺はもう一度学園長室に行かないといけないし、白崎達は受けた依頼をこなしてこないといけないらしいし。
ちなみに、「黄金の林檎があったら採ってきてね」と言ったら「あったら採ってくるよ」と“天使様”からお言葉を賜った。もしかしたら、“天使様”手製のアップルパイが……な訳ないか。
後でどこかで料理人を捕まえて作ってもらおう。
【白崎華代視点】
「…………次、ブレスが来る。柴田さんと朝倉さんの方。飛んですが回避して!!」
「分かったわ!」
「了解!!」
朝倉さんと柴田さんが左右に飛び、立っていたところをブレスが焼き尽くす。
温度が高過ぎて、一種のプラズマへと変化した息――かなり厄介だけど、【完全掌握】のおかげでラドゥーンの動きは読めているから、そこまで苦戦は強いられていない。
リーファさんが雷を纏わせた【魔法剣】で、岸田さんが聖剣デュランダルとオレイミスリルの
流石に強敵だけあって
残念ながら黄金の林檎はどこにもなかった。……まあ、それもそうよね。洞窟の中に林檎の森があったらそれはそれでびっくりだわ!
【完全掌握】のおかげで【不意打ち】、【回避】、【疾駆】、【怪力】、【全属性魔法】、【加速】、【威圧】、【覇気】、【爆縮地】のスキルを獲得することができた。
これで少しは戦えるようになったかな? 使い方の分からないスキルについては後で草子君に聞いてみよう。……って、草子君は講師の仕事があるから、そんなに時間を割いてもらうことはできないかな。
【鑑定】のスキルは無いから分からないけど、ラドゥーンはそこそこの強敵だったんだと思う。
そんなラドゥーン相手にも連携を保ったまま危なげなく戦えるようになったのはかなりの進歩だと思う。
……だけど、まだ足りない。この程度じゃあユェンと戦っても勝てない。ユェンより強いヴァパリア黎明結社にはもっと勝てない。
もっと強くなりたい。そのためには、少しでも多くのことを吸収するのが一番だ。
そして、エリシェラ学園には【宵闇の魔女】セリスティア様がいる。
セリスティア様からご教授頂けるのは今しかない。私は学園に戻った後に、弟子にしてもらえるように頼むつもりだ。……よし、どうせならみんなにも聞いてみよう。
【高野聖視点】
白崎さんの名案に私達も賛同した。このままだと、草子君の足手纏いにしかならないからね。……まあ、草子君は白崎さん達の方が強いと思っているみたいだけど。
「おっ、戻ってきたか。どうだった? 依頼は」
「達成したよ。……ごめんなさい、黄金の林檎は無かった。代わりにラドゥーンの死体を持ち帰ってきたよ」
「おっ……おう。また不味そうな死体だな。だけどいくつか使えそうなスキルがあるみたいだし、ありがたく頂戴するよ」
……草子君って相当な数のスキルを持っていた筈だけど、まだ持っていないスキルってあったんだ。上位互換とかかな? サイクロプスとかケルベロスとかヨルムンガンドの肉を食べて、今更上位互換って言われてもって思うけど……まあ、草子君が戦っているヴァパリア黎明結社の全体像が把握できていないし、きっと強化するに越したことはないんだと思う。
「それで? これからどうするんだ?」
「今からちょっと学園長室に行こうと思って」
「そうか。俺は学園内にテントを張る許可はもらったから、後は明日の講義の計画を立てることかな? 図書館は結構蔵書が豊富だったから今度ゆっくり味わいたいし」
「草子君……普通は味わうではなく、楽しむだと思うぞ」
草子君は通常運転みたいだ。……流石に学園のものを食べないだろうから、写本の方だよね。
あたし達は慣れたからいいけど……学園の人達はどうだろう? うん、あんまり受け入れられないと思うな。
「あっ、そうだ。聖さん、この後ちょっといいか?」
あたしが草子君に付きまとうことはあっても今まで草子君から同行を申し出られることは無かった。
どうしよう。今から学園長室に行かないといけないけど……すぐに済むのかな?
『用事ってすぐに済むのかな?』
「――ああ、すぐに終わるよ」
なら良かった。
『みんなは先に行ってて。ちょっと草子君と行ってくるよ』
草子君の後ろについていく。……なんだろう? 用事って。
【セリスティア視点】
その日学園長室にやって来た少女達はその目に並々ならぬ覚悟を湛えていた。
少女達は一名を除き、草子殿のクラスメイトであるらしい。もう一人のエルフの少女も含め全員が草子殿に助けられており、その借りを返したいそうだ。
私には彼女達にそれ以上の想いがあるようにも見えたが、彼女達が明言しないのであれば、こちらから聞くのは野暮だというものだろう。
――草子殿は、強過ぎる。恐らく、彼女達の力などは必要ないだろう。
だが、強過ぎるということは同時にある問題を抱えることに繋がる。
……孤立。それは、かつての私も経験したことだ。
まあ、所詮は御山の大将気取りで、井の中の蛙大海を知らずだった訳だが……。
強い者にこそ、一緒に戦える仲間が必要だ。
たった一人で進む道ならば、挫折することもあり得る。道を違えることもあり得る。
この少女達には確かに素質がある。今はまだ私よりも弱いが、私がこれまで積み上げてきたものを教えれば、私よりも遥かに強くなるだろう。
この世界でもトップクラスの実力者に――。
だが、それでも草子殿には遠く及ばない。そこから先は彼女達が自ら切り拓いていくしかないだろう。
さて、彼女達の願いを受けることは決定したが……草子殿には非常勤講師として働いてもらうことを交換条件にした。
彼女達にも何かしらの条件を呑んでもらわないと釣り合いが取れない……どうしたものか。
「……分かった。君達に私の知る魔の真髄を教えよう。……といっても草子殿には遠く及ばないがね」
「「「「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」」」」
うん、いい返事だ。
「その代わりにだ。君達には私から教授を受ける間にやってもらいたいことがある。それは――」
少女達の表情が固まった……やっぱり、無理か。
「分かりました。よろしくお願い致します。セリスティア先生!!」
ほう、根性があるようだな。それほどまでに草子殿のことを想っているということか。……いいね、青春って奴だ。
さて、そうと決まれば早速彼女達には
【高野聖視点】
草子君が連れていったのは、学園の一角に建てられたテントの中だった。……本当に作ったんだ。
「〝音を遮れ、風の防壁〟――〝インシュレーション・サウンドエリア〟」
防音魔法だ……【風魔法】のオリジナル魔法だね。
でも、こんなものを使ってまで、しかもあたしだけにしないといけない話ってなんなんだろう。なんだか……嫌な予感がする。
「まず、このことは他言無用ということにして欲しい。白崎さん達にも内緒だ」
……まあ、あたしだけを呼んだんだから、そういうことだってことはなんとなく分かるけど。
しかし、白崎さん達にも内緒か。そこまで秘匿しないといけないことなの?
『分かった。白崎さん達にも内緒にするよ』
「ありがとう……本当は俺一人で抱えるべき問題だけど、生憎と手が離せないところもありそうでね。……すまない、巻き込んでしまって」
『いいよ。あたしは草子君の守護霊だから。草子君のためにできることがあるのなら、なんだって協力したい』
「……さて、話の本筋に入るまでに前提を話しておかなければならない。この自由諸侯同盟ヴルヴォタットの一部地域だが、ロゼッタ様の前世、薗部美華さんがやっていた乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』と共通点がいくつか見られるらしい。ロゼッタ様は乙女ゲームの悪役令嬢であり、寮で出会った四人は攻略対象、ノエリア様はライバルキャラ、プリムラさんが主人公という立ち位置だったそうだ」
……うん、異世界だし、もしかしたら悪役令嬢もの展開が来るかなって思ったけど、予想を裏切らずに来たね。
でも、それに何か問題があるのかな? 乙女ゲームの展開通りになるかどうか分からないし、例えなったとしても、それは当事者同士の問題であってあたし達には直接的な関係はない。まあ、ロゼッタさんが危機に瀕したら助けたいとは思うけど。
「まあ、ここまでは一応予測はしていた。……ただの悪役令嬢ものであれば、どれほど良かったことか。いや、これは俺の早とちりかもしれない。そうであればいいと、今でも思っている。凶器を隠し持っていたとしても、それで殺人を犯すか犯さないかはまた別の話だ」
……要点が全く掴めない。だけど、ロゼッタさんが転生したこの世界が乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』を元にした世界ではないことは分かる。
この世界は異世界カオス。異世界ものとしてはあまりに詰め込み過ぎた、混沌とした世界。
その世界を乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』を元にした世界と一言で結論付けることはできない。
『……つまり、どういうことなの?』
「乙女ゲームは終わった……いや、終わるかもしれないということだ。場合によっては前提すら崩壊する。そうなれば、ロゼッタ様が死ぬだけでは済まない……ゲームにはなかったであろう史上最悪のバッドエンドが訪れることになる。……もう、勿体ぶらずに言おう。乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の登場人物の中に、ヴァパリア黎明結社のメンバーがいる。それを、【看破】で見抜いた」
……どういうこと。ねえ、どういうことなの。
『……それって、誰なの?』
「それは、██████だ」
『……嘘、でしょ。そんなの、酷すぎるよ!! 嘘だと言ってよ!!!』
「……俺はありのままに視たことを口にしているだけだ。██████がヴァパリア黎明結社のメンバーだとしても、敵対する気がないのであれば、放置するつもりだ。だが、万が一██████が敵対するというのであれば、容赦無く叩き潰して今度こそ情報を引き出す。……とはいえ、こちらから何も手を打っておかないというのも後々のことを考えると悪手だ。……そこで、聖さんに頼みたいのは――」
なるほど、そういうことか。それが、今回あたしに与えられた役回り。
ならば、それを精一杯行うのがあたしのすべきこと。結果を心配するのはあたしの仕事じゃない。
『分かった。その役目、あたしが引き受ける!!』
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