下げてから持ち上げるって俺の好感度を上げようとしているのだろうか! 俺、イケメンでも男に攻略されるなんて御免被るんだけど! というか、俺はそんなにチョロいチョロいんじゃねぇ! ついでにヒロインでもねぇ

 異世界生活十一日目 場所エルフの里


 え〜、アルルの町を出て西南西に歩いて約六時間、遂にエルフの里に到着しました。……ぶっ通しで歩けると仮定して普通に歩けば四時間十六分(二百五十六分)で到着できるところを約二時間もオーバーしてるけど、これってあの戦い方指南のせいだよね。あれで二時間も取られたのか……まあ、そのおかげで白崎達も強くなったし、これで後腐れなく置いていける訳だから怪我の功名って奴だけど。


 ……ところで、さっきから里のエルフ達がこっちを睨んでるんだけど――俺まだ何もしてないよね! いや、いつも問題ごとを起こしている訳じゃないけど。

 もしかして、この世界のエルフはイメージ通り自然を崇拝し、俗世から離れた生活を送っているのだろうか? ……修行僧的な? でも確か果実酒は飲む筈だし、イメージ的には酒だけは飲むことを許された僧侶的な感じかな?

 イメージ通りなら他の種族を排斥し、ハーフを迫害するけどその辺りはどうなんだろう? って今は関係ないか。


「なあ、リーファさん。エルフって人間に対して差別観を抱いていたりするのか?」


「いえ、全く? 人間や亜人種とも普通に交流していますし、エルフの中には冒険者として活躍している方もいらっしゃるみたいですから。人間との間に子供が生まれることだってありますよ。……確か、この里全体で五十人くらいのハーフエルフが居たと思いますが……深緑図書館で住民台帳を閲覧すれば詳しい人数が分かるとは思いますが、今はそこまで詳しい数は言えませんね」


 どうやら、異世界ものの作品のようにハーフが忌み嫌われているということは無いようだ。……聞いてもないのに教えてくれるとか、リーファって超能力者エスパーだったのか? ……いや、ただの偶然か。

 しかし、深緑図書館ってのがあるのか。後で足を運んでみるか。エルフに伝わる物語とか読んでみたいし。食べてみたいし……って食べたら出禁にされそうだな。複写してから食うか。


 ……さて、話を戻して。となると、俺達が人間だから睨まれているってことでは無さそうだな。

 他に理由は……あれか、女子達に囲まれてハーレム見せつけている奴に「リア充爆発しろ!」的な視線を向けているってことなのか? 俺、別にハーレム作ってるつもり無いし! 作りたいと思ったこともないし! ソロプレイ目指しているのになんかぞろぞろ着いてくるだけだし!! ここでこいつら置いていくから無罪放免な筈だし!! 風評被害も甚だしいよ!!!


 ……まあ、その勘違いも甚だしい視線も確かにちらほらあるみたいだけど、中には女性エルフの視線も混ざっているみたいだし、「ハーレム主人公め、爆発して氏ね」の線は薄そうだな。……ハーレムでも無いし、主人公じゃなくてモブだし、氏ねがネットスラングになってるけど。


 となれば、一番可能性が高いのはリーファに理由があるということか。……エルフ達の視線が集中してるからまず間違いないだろう。えっ、これまでの仮説の説明いらなかったんじゃないかって? ……ノーコメントで。


 ……まあ、これでなんとなくパターンは見えてきたけど、テンプレ通りなら最悪だな。関わると面倒だけど一応リーファを親元までは届けた方がいいだろう……ああ、面倒なことが起こる予感しかない。…………今すぐ帰っていいですか? こいつら置いて。


 森の中を開拓したというか、ほとんど森のまんまで辛うじてツリーハウスとか木の家があるような光景がどこまでも続いていく。やっぱり、エルフといえば森との共存――この部分は例えカオスな世界でも共通しているんだな。……まあ、森を焼き尽くせ、都市部最高だぜ! ヒャッハー!! ってエルフがいたら、それはもうエルフじゃなくてただの耳長ブーチ族になっているけど。ってか三角耳族か。


 結構歩いた気がする。辿り着いたのは他の家とは明らかに違う豪邸……いや、オール木製なのは変わらないんだけど、なんというか広さというか、雰囲気というか、なんとなく豪邸なんだよ。メイド服着たエルフの姿が数人見えるし……うん、俺の嫌な予感的中の可能性、かなり上がったな。――本当に帰っていいですか!!

 ……【礼儀作法】のスキルを使えばなんとかなるか? というかよくよく考えたらこいつら預かってもらうのを頼むだけだから別に【礼儀作法】とか必要ないよね。よし、面倒ごとに巻き込まれそうな雰囲気が出たら逃走一択で。……というか、【撤退】のスキルがあればなんとかなりそうだよね。――すみませんでしたッ、ステータス選びのところでいらない子とか言って。こいつらより、今は君が必要ですッ!!


「お帰りなさいませ、リーファお嬢様。……そちらの皆様は?」


「こちら、ウィルヴァルドの森から戻る途中で出会った方々です。草子さんと聖さんには、ウィルヴァルドの森でジャイアント・ヒールパンダに襲われているところを助けて頂きました」


「草子様、聖様、リーファお嬢様をお助けくださりありがとうございます。――今、ご当主様に知らせて参りますので、それまで応接間にてお待ち下さい」


 一人のメイドが屋敷の中に消えていき、別のメイドが俺達を応接間に連れて行く。

 部屋に着きメイドがカーテシーをして部屋を後にしたのを確認した俺は、単刀直入に事実確認をすることにした。


「……リーファさん、もしかしてエルフ族の族長の血縁者とかだったりするの?」


「えっ、話していないのにどうして分かったんですか? 私はエルフの族長の娘です」


 ……やっぱりか。ティル・ナ・ノーグ辺りから嫌な予感がしていたんだよ。

 まあ、これでなんとなく全体像が見えてきた。これ、ガチで帰らないと面倒ごとに巻き込まれるパターンじゃん! というか、もう既に引き返せないところまで来てる!?


 いや、今からでも遅くはない。ここでこいつら全員を押し付けてとっととエルフの里を出ればいいだけだ。

 【全マップ探査】を発動……ここから一番近いのはジェルダの町。そこからいくつかの町を経由すれば自由諸侯同盟ヴルヴォタットの首都ファルオンドに行ける。そこで超古代文明マルドゥークに関連する情報を集めれば、少しは地球への帰還に繋がるだろう。


「お客様、エルフ族の族長オーベロン=ティル・ナ・ノーグ様が到着いたしました」


 さあ、時は来た。準備はできている。いつでも来い!!


「私がエルフ族の族長オーベロン=ティル・ナ・ノーグだ。娘を死地から救ってくれたこと感謝しても仕切れない」


「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから。――そんなことより単刀直入に言わせて頂きます」


 オーベロンの双眸が鋭くなった。……何か勘違いしているんじゃない?


「娘さんを引き取って下さい!!」


 あれ? オーベロン絶句してる。いや、なんでリーファとかまで絶句してるの? 事前にちゃんと通告したよね! ここに置いて行くって宣言したよね!! 全く【報連相】ができていないよ! それとも何か淡い期待でも抱いたのかな? だからその幻想をぶち壊すために「娘さんを僕に下さい!!」を捩ったんだけど。



「ふふふ……わはははは!! てっきり『娘さんを僕に下さい!!』というかと思って、『こんなに女の子を大勢侍らせているような男に大切な娘をやる訳にはいかん!!』と返そうとしていたら、まさか『娘さんを引き取って下さい!!』とは、いやはや驚きだ」


「……いや、頼まれてもリーファさんを引き取って養うなんて御免被るですよ! 言葉が通じないけど本を食べれば文字が分かるので『その持っている本を下さい』ってジェスチャーしたら、BL本を差し出してくるなんてあり得ますか!!」


「私だって好きで渡した訳じゃないですよ! あれはBL普及用にと用意した最高傑作だったんですから!! それをいきなり本を寄越せと言われて、渡したら『腐女エルフ、なんてもんを食わせてくれたんだよ! 俺の頭の中にBLが刻まれちまったじゃねえか!!』とキレられ、挙句の果てに『……よし、腐っている奴は土に埋めてやろう。きっと汝は自然に還ってこの地を実り豊かにするだろう。森の民森と友達のエルフだし、腐葉土のマブダチみたいだし、きっとすぐに栄養になれるさ』って土の中に埋めようとしたんです。絶対横暴ですよ!! 私は悪くありません!!」


「開き直って『あっ、貴方もBLを理解したなら同志じゃないですか。一緒にBL文化を広めましょう。それが世界のためなのです!! ……嫌なら別にいいんですよ、私を埋めるならBLを理解して腐った貴方も土に還るのが道理。さあ、一緒に埋まりましょう!』って返している時点でお前の方が悪いのは明らかだ。悪い奴ほど追い詰められると開き直るものだからな」


 俺vsリーファの戦争勃発。勝つのがどちらかはやる前から明らかだ。だって俺無実だもん! どう考えても被害者じゃん!! 一生あのBLの絵が頭から消えないんだよ!! 一生ものの傷を刻まれたんだよ!! それなのになんで俺が責められないといけないんだよ!! 普通の本を出せば良かったんじゃないの!! というか、そんなに大切なら持ち歩くなよ!! ……えっ、持ち歩かないと布教できないし、あれ以外に本を持っていなかったらあのBL本を差し出す以外の選択肢は無かったって? 悪いのはきっちり確認しなかったお前だって? ……ステータス欄になんて書いてあったか覚えてる?


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・本

→本だよ!

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 いや、分かるか!! これのどこでこの本がBL本だって分かるんだよ!! 俺は悪くない、リーファも悪くないのなら悪いのはこの検索結果だ。よし、決まりだ!!


「よくよく考えたら、俺もリーファさんも悪くないな。悪いのはBL本だと表示しなかった【看破】スキルだな。……えっ、それから訂正ついでにもう一つ。俺は女の子の侍らせているハーレム男じゃ断じてありません! リーファさんを引き取って頂くついでにこちらの女子達も纏めて引き取って頂きたいと思っています。問題はありません、背後から現れて爆弾を投げつけてくる気狂い幽霊は居ますがそれ以外は正常ですし、いつまでも預かってもらうつもりもありません。彼女達がエルフの里を訪れた頼れるイケメン勇者と一緒に旅に出るまでです。……いや、白崎さんが既に勇者だから三人か聖さんを入れて四人で旅に出るのもあり得るのか、まあどうでもいいけど。なんと、今なら四人分の生活費と謝礼金として金貨30枚を進呈致します。もう少しお支払いした方がいいとは思いますが、生憎俺も生活していくためにお金は必要なので、ご勘弁下さい」


 ――よし、言ってやったぜ! 族長ならこいつらをしばらくお世話することもできるだろう。

 白崎達に相応しい者達がエルフの里に訪れるのがいつになるかは分からないが、きっといつかは訪れる筈だ。そして、白崎達は激戦の末に見事魔王を討伐し、白崎は勇者と結ばれる……これ以外に完璧なルートがある筈がない。これぞ王道! 変態過ぎるモブと一緒に旅をするなんてイレギュラーにもほどがあるよね! うん、こんな拗らせとの旅なんて絶対楽しくない。とっととパーティを解散するか、俺を追放するべきだ。……元々俺の居場所にこいつらが来たのになんで俺が追放されるのかは甚だ疑問だけど。


「……この男、最低だな。この少女達がどれほど信頼を寄せているのか気づいていないのか? 初対面でも分かるぞ」


「草子さんは『俺なんかといるよりも、相応しい仲間と一緒にいるべきだ』って思い込んでいますから。……聖さんと私は『一緒にいると変態が感染るから』という理由で置き去りにされ掛けていますが……」


「確かに、お前のBL好きには私もティターニアもドン引きだし、聖さんは聖さんで聞くからにヤバそうだが……」


 なんだろう、俺の株が急暴落している気がする。当然のことを全うに言っている筈なのにいつも俺の評価がだだ下がるのは何故だ! まあ、浅野教授と浅野ゼミ生以外の好感度なんで心底どうでもいいけど。

 というか、途中でフォローが入った? 急暴落させると見せかけてフォローするって、なんなの! 下げてから持ち上げるって俺の好感度を上げようとしているの! 俺、イケメンでも男に攻略されるなんて御免被るんだけど!! というか、俺はそんなにチョロいちょろインじゃねぇぇぇぇ! ついでにヒロインでもねぇぇぇぇ!!

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