【進藤臨視点】体力馬鹿達は異世界でも地球でも気合と根性で生き抜いていくようだ。

 教室で来週行われるサッカーの大会について作戦会議をしていたら、突然奇妙な幾何学模様? が現れ、瞬く間に教室を埋め尽くしてしまった。

 そのままよく分からないまま光に包まれ、気づいた時には一緒に昼食を摂っていた久嶋くじま康弘やすひろ大門だいもん龍次郎りゅうじろうと共に真っ白な部屋に居た。他のクラスメイトもこのよく分からない現象に巻き込まれたのか見える範囲に大体居た。他のクラスの奴らも居た。……うむ、さっぱり分からん。


 この現象について知っていたらしい織田達はこの状況について話せるだけのことを話してくれたが……うむ、さっぱり分からん。

 まあ、地球とは違う世界に飛ばされたことくらいは分かったが、後はさっぱりだ。なんだ、魔獣って? なんだ、魔法って? 魔獣と魔法は同じ魔だから親類なのか? 魔獣で魔法を殺すって共食いじゃないのか? ……ん? 逆だって? 魔法で魔獣を殺すんだって?


 称号やらスキルやら職業やら一通り訳の分からないことを、それでも必要だと思って聞いたがさっぱりだ。

 織田達にもう一度分かりやすい説明してもらおうと思ったが、その織田達はとっととやるべきことを終えたようで出口に向かってしまった。それを追うように佐伯達も扉の中へと消えていった。

 ……うむ、さっぱりだ。なんで奇妙な場所で鬼ごっこをしているんだろう。


 織田達が消えた後の空気は最悪だった。……えっ、お前空気読めるのって? 流石に空気くらいは読める。馬鹿にしているのか? 「空気は読むものじゃない吸うもんだ」とか意味の分からん洒落は言わないぞ。

 柴田達は「ぎゃあつかぎゃあつか」喚いている。……煩い。


「あの、皆さん。ボクもそろそろ行こうと思います。正直、こんな奴らのために・・・・・・・・・何かをしてあげたいとは露ほども思いませんから。志島さん達もこんな奴ら放っておいてスキルを選んだ方がいいですよ。早い者勝ちみたいですし」


 そんな険悪な雰囲気の膠着状態を膠着だけ打ち破ったのは、梓だった。それに続き志島達のグループも部屋を後にしていく。

 俺達三人もここを出て行く算段を立て始めた。ここにいたところで何も変わらない。


「……ここに残ったみんなだけでも、一緒に協力しないと。だって、どんな場所かも分からないのよ。……なのに、なんでみんな躊躇せずに行っちゃうの!! 一番結束しないといけない時なのに、なんでみんな勝手な行動をするの!!」


 そんな中で委員長が突如叫んだ。まあ、彼女の気持ちも分からなくはない。だけど、その行為は無駄だ。

 柴田達と一緒に行けば崩壊することは目に見えている。俺に分かるなら誰にだって分かる筈だ。


「委員長、貴女がクラスを纏めようと必死なのは分かっている。でも、肝心なクラスメイトが纏まる気がないのなら、纏まれるものも纏まれない。……すまんな、俺達も行くよ。こんな高慢ちきと一緒にはいられない。そんな生活はごめんだ」


「……進藤君」


 委員長に断りを入れ、俺達も動き出した。

 志島達が置いていったタブレットを拾い上げ適当に選ぶ。ああ、適当だ。よく分からんのが羅列されているのに、そこから何を考えて選べというのだ。

 俺は頭脳労働は苦手だ。そういうのは能因とか白崎とか相沢とか、そいつらの領分だろう。


 とりあえず格好良さそうな五叉槍ブリューナクを選んだ。ん? 一つで良かったのかって? そんないくつも選んでも仕方ないだろう。職業とか称号とか効果の分からない薬とか選んだところで何の意味があるんだ?


「康弘、龍次郎、選んだか?」


「選び終わったぜ。俺は天之尾羽張アメノオハバリとかいう奴を……よく分からんけど」


「こっちは天叢雲剣アマノムラクモって剣だ。なんか強そうだし、実際に強いんだろう。……アメノとアマノって一体何が違うんだ?」


 そんなこと聞かれたって俺は知らん。能因とか織田達辺りがよく知っているんじゃないか? ……まあ、能因は依然行方不明だし、織田達はもう扉を潜った後だが。


「とりあえず、俺達も行くとするか」


 異世界でもなんでも大体気合を出せばなんとかなるだろう。能因も気合と根性で結界を破壊した。俺達には能因以上の筋力と体力がある。明らかにこちらの方が恵まれている。

 扉を潜って俺達は異世界に飛び出す。俺の武器は五叉槍ブリューナクという名らしい槍一本。だが、小細工ができない俺にとってはこれで十分だ。


 さあ、勝負だ――異世界!!!



 異世界生活一日目 場所???山、???合目付近、?????


 扉を潜った先はどこかの山だった。雲が下に見える……随分と標高が高いようだ。

 だが、息は苦しくない。俺達は体力づくりのために休日に集まって近くの山で登山していたから、その時の経験が役立ったのだろう。


 地面には無数のキノコが生えている。そして、そのキノコを食べている人型の毛むくじゃらな獣がこっちを見た。

 ――あっ、これ戦闘だな。


「康弘、龍次郎。どうする? 逃げるか戦うか?」


「「勿論、戦うぜ!!」」


 俺は五叉槍ブリューナクを、康弘は天之尾羽張アメノオハバリを、龍次郎は天叢雲剣アマノムラクモを、それぞれ構える。


「勝負だ、毛むくじゃらな野郎!!」


 三人で囲んで戦闘開始。先に攻撃を仕掛けのは俺達の誰かではなく毛むくじゃらだったが。

 棍棒のように太い腕を振りかざして攻撃を仕掛けてくる――狙いは龍次郎か!!


 毛むくじゃらの攻撃に技と呼ばれるような洗練された部分は見当たらない。ただ有り余る力を振りかざしているだけだ。


 龍次郎はドリブルで鍛えた軽快な動きで毛むくじゃらの攻撃を回避――すれ違いざまに一太刀浴びせる。

 毛むくじゃらが苦悶の表情を見せる――攻撃が効いてるぞ。


 槍を持った経験はない。見様見真似で槍を構え、毛むくじゃらに突きを放つ。

 今度の攻撃も毛むくじゃらにダメージを与えられたようだ。だが、急所を外してしまったようでこれで終了という訳にはいかないらしい。


 毛むくじゃらが再び腕を振り上げた。……コイツ、ワンパターンな攻撃しかできないのか? 狙いは俺――槍で突かれた恨みを晴らすつもりなのか?


 俺は槍のもう一つの使い方――払いを見様見真似で実践してみる。狙いは毛むくじゃらの足元。あっ、うまく足を引っ掛けられた。毛むくじゃら、転倒。


「今だ、畳んじまおう!」


 起き上がろうとする毛むくじゃらに三人で一斉攻撃。無事撃破した。


「さて、コイツどうする?」


「流石に食いたくないなぁ。毛むくじゃらだし、絶対に不味そう」


「それよりも、コイツが食べていたキノコの方が安全なんじゃない?」


 生えているキノコは毒々しい色をしているが、毛むくじゃらが食べていたのだから食べられないことはないのだろう。

 とりあえず、生えているキノコを拾って三人一斉に口に放り込んだ。うん、キノコ味だ。……あれ、不思議と力が漲ってくる。それ以外に特に変わった様子はない。


「とりあえず、食糧は確保した。次はどうする? とりあえず、この山を降りる?」


「そうだな……まあ、どちらにするにせよ。まずは確認した方がいいことがあると思うけど」


 ん? 確認することって何かあったか? 康弘の言うことに全く心当たりがない。


「ほら、織田達がなんか言っていたじゃん。ステータスがどうとかって……って、言ってたら何か出た」


 康弘は「何か出た」って言っているが、それらしいものは何一つ出ていない。

 康弘が嘘をつくとは思えないし、康弘の視線は空中の一箇所に釘付けになっていることを考えると、そこに何か出ているのだろう。


「試しに『ステータス』って言ってみたら? それで俺が嘘をついているかはっきりすると思う」


「それもそうだな。「ステータス!」」


 俺と龍次郎がステータスと叫んだ瞬間、俺の目の前に何かが現れた。これが、康弘が言ってたステータスって奴か。


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NAME:進藤臨 AGE:16歳

LEVEL:8 NEXT:800EXP

HP:150/150

MP:120/120

STR:120

DEX:155

INT:1

CON:100

APP:30

POW:100

LUCK:6


JOB:-


SKILL


ITEM

・五叉槍ブリューナク

・学生服

・HP茸

・MP茸

・力茸

・敏捷茸

・守茸

・精神茸

・幸運茸


NOTICE

・通知一件

→未使用のポイントが後180あります。

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 レベルとキノコの名前は分かったが、それ以外はさっぱりだ。

 HPとかMPとかアルファベットを羅列されても分からん。HP、ホームページの略なのか? 後ろにアドレスとかついて無いぞ。


 案の定、ステータス情報はスッカスカだった。見る必要、本当にあったのか? これ?


 康弘と龍次郎も似たような感じだったらしい。持ち物のキノコの種類は全く一緒だった。……この七種しかないのか?


 キノコを食べてステータスを確認した俺達はこの山を少し探索することにした。

 とりあえず、下山の目処を立てるために下へ下へと探索範囲を広げていく。

 まあ、当面はここでキノコ生活になりそうだ。……肉食べたいけど、流石にあの毛むくじゃらは食いたくない。こんなんしか居ないのか? 異世界には。


 あっ、下の方に毛むくじゃらを何匹か発見。殺られる前に殺ろう。

 ――戦闘開始だ!

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