文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
やはり神様と言えど老いと痴呆には敵わないようだ。だって老害だしね。期待する方が愚かだよね。痴呆以上に愚かだね。ってブーメランだった!
やはり神様と言えど老いと痴呆には敵わないようだ。だって老害だしね。期待する方が愚かだよね。痴呆以上に愚かだね。ってブーメランだった!
迷宮第五十一層は洞窟を改装した秘密基地のような場所だった。
部屋のほとんどを埋め尽くす本棚には難解そうな(表紙の文字は時間を掛ければなんとか読めるレベル)分厚い本が並び、小さな机には白骨死体が伏す形で崩れ落ちている。
……へんじがない。ただの しかばね のようだ。
うん、手記のようなものがある。が、こっちも、読むのに時間が掛かりそうだ。こちらも難解なのかもしれない。……いや、単に異世界の文字だからなのか。この翻訳は【書誌学】のおかげなのだろうか?
しかし、迷宮の中で本から離れていた生活をしていたせいなのか、本が愛おし過ぎる。肌触りは少しザラザラだな。匂いは……おっ、古書の匂いだ。この匂いがいいんだよ。口に含むと蕩けそうだ。うん、蕩けた。
『草子君、いくらなんでもキモいわよ。ってか、手記食べちゃった』
「キモいは余計だよ。……いや、これが正解だったようだ」
頭の中に手記の内容が刻みつけられる。痛みはない。ただごく自然に記憶領域に刻まれていくようだ。
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「ヴァルジャ=ラ迷宮の最深部に到達した異次元の力を有する者よ。汝は
「私は、かつてヴァパリア黎明結社に所属していた。今考えると実に愚かだった。彼らの思想は危険だ。彼らはこの世界を完全に手中に収めるべく各国にスパイを派遣することで意のままに操り、そしてこの世界の全てを記録した〈
「彼らにYGGDRASILLが渡るのは危険だ。ただでさえ強大な彼らが更なる力を手に入れれば、この世界が滅ぶことになるだろう」
「サイクロプス、ケルベロス、ヨルムンガンドの三体は対ヴァパリア黎明結社のために作り出したが、最高傑作たるあの三体の魔獣を作り出すまでには至ったものの、その時の私にヴァパリア黎明結社と戦うほどの力は残されていなかった」
「名も知らぬ勇ましき者よ。実に身勝手な願いであることは承知している。この世界――カオスを救ってくれ」
Masato.T
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おい、そんなこと一言も老害は書かなかったぞ。さてはあの老害、表面上のことしか知らなかったな。
それよりも、問題は〈
◆
『なるほど、つまりコンピュータYGGDRASILLを手に入れさえすれば、元の世界に帰る方法が見つけられる訳ね』
俺の説明を聞き終えた聖は小さく頷いた。うん、理解が早くて助かる。これで変態性さえ無ければ完璧なのに……えっ、お前が言うなって?
「まあ、確定では無いけど。でも、可能性は高いと思う。まあ、可能性が低くても少しでも可能性があるなら行くけどね」
『分かったわ。……その旅、あたしも連れて行ってくれないかしら』
「そう言うと思った。だが、断る!」
『……ジ●ジョ立ちしなくて良いわよ。……本当に駄目なの?』
「後ろから迫ってきて爆弾を投げるのに快感を覚える変態さんは御免被る。怖すぎて安眠できないじゃないか!」
『草子君に喧嘩売ったりしないわよ。……だって、あなた。容赦なく〝ピュリファイ〟を使うでしょ? あたしだって浄化されて昇天したくないもの』
「……本当に?」
『本当よ』
「……本当の本当に?」
『本当の本当よ!』
……まあ信用できないし、寝るときは結界を張ってから寝ればいいか。
しかし、まさか【書誌学】と【異食】を組み合わせると、食べた本の内容を完全理解して完全記憶することができるとはな。
暗●パンの上位互換かな? いや、ただの知識チートか。
「……うん、棚にある魔法書。片っ端から食うか」
『草子君。あなたは、あたしのこと変態扱いできる立場じゃないと思うけど』
五月蠅いな。俺はいたって無害だ。本を食べているところを見たくなければ目を瞑っていればいい訳だし、特に誰かに迷惑を掛けることをしているつもりはない。
聖のことは構わず、置いてあった魔法書を片っ端から口に入れていく。……うん、これが原本だったら流石に躊躇するけど、全部伝本だったみたいだし。まあ、忠実に写してあったみたいだけど。
伝本といえば、『源氏物語』や『土佐日記』などの古典の書写・注釈に携わった人として藤原定家の名前がよく上がるけど、あの人も晩年には結構誤写をしていたみたいだし、基本的に古典籍はとにかく誤写や改変が多い。そのことを考えると、この魔法書は相当凄いってことになるな。印刷技術が発達している現代生まれの俺にはよく分からない感覚だけど、この辺りも大学に入ったらしっかり学ぶ必要があると思う。
【書誌学】と【異食】を使用して魔法書を食べていたらスキルが変化したようだ。
まず、ステータスから【全属性魔法】と【時空魔法】が消えた……いや、最高ランクの魔法スキルだろッ! なんで消えるんだよ!!
代わりに【魔術学最終研究(火)】、【魔術学最終研究(水)】、【魔術学最終研究(風)】、【魔術学最終研究(土)】、【魔術学最終研究(氷)】、【魔術学最終研究(雷)】、【魔術学最終研究(木)】、【魔術学最終研究(金)】、【魔術学最終研究(聖)】、【魔術学最終研究(闇)】、【魔術学最終研究(精神)】、【魔術学最終研究(影)】、【魔術学最終研究(重力)】、【魔術学最終研究(天体)】、【魔術学最終研究(時空)】、【魔術学最終研究(破壊)】、【魔術学最終研究(契約)】を獲得したようだ。
……うん、魔法系じゃなくて、学術系のようだ。後で【看破】を使おう。……俺のスキルがだんだん大学の講義になっている気がするが。
そうこうしながら本棚を物色し続けた俺は、見つけてしまった。この世で最も忌むべき装丁を――。
古の時代から多くの本が生み出されてきた。和装本を一つとっても巻子装、折本、粘葉装、綴葉装、袋綴じの五つが存在する。
その中の粘葉装こそが、人類最大の汚点というべき装丁だ。糊などという栄養価の高いもので紙を張り合わせて作るなど、本を食い荒らす虫達に栄養を与えるようなことだ。
「……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……紙魚殺すべし、死番虫滅すべし、茶立虫消すべし……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――そんな糞虫共に餌を与える粘葉本なんて、この世界から、いや全宇宙から、いや全世界線から消滅してしまえばいいのに」
『おーい、草子君。戻ってこーい!』
……おっと、失礼。ついつい、ね。
まあ、粘葉本をこの世に存在させてはいけない気持ちに偽りは無いし。反省する気は毛頭無いけどね。
これだけは誰に止められても食う。食ってこの世から隠滅する。
粘葉装の魔法書は全く虫喰いが無かった。きっと魔法的な何かに守られていたのだろう。だが、普通に管理していたら今頃穴開きだった筈。可及的速やかに、本の虫供に食われる前に食わなければ――。
うん、なかなかいい紙を使っているようで口の中で蕩ける。美味だ、今までこの世界で食ったどんなものよりも美味だ!
どうやら、この本は魔法書ではなく、魔術書だったようだ。
【看破】を使用して鑑定した言葉を【看破】してみると(できないかなと思ったら、できた)この世界での魔法的な力全般を指すのが魔術であり、それが後に簡略化されたのが魔法ということだ。つまり、魔術の劣化版が魔法であり、魔法とは魔術の一種であるということである……うん、集合図書かないと分かりにくい。
で、この魔術書――『The Grimoire of Fourteen Years』(直訳すると『厨二病の魔術書』……酷えネーミングセンスだ。まんまだけど)はこの世界では既に消滅した文明――超古代文明マルドゥークの文字であるマルドゥーク語で書かれていたようだ。ついでに【マルドゥーク語】の言語スキルも獲得した。
ここには「表紙詐欺とは言わせない」と、厨二病的なチート魔術(チート魔術って、そういえばそんなノリの題名の異世界もの作品があったな)四つほど書き連ねてあったが、中でも一番ヤバいのは――。
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〝DIES IRÆ〟
広範囲神聖属性殲滅浄化魔術攻撃。
当たれば死ぬ、死ななかったら浄化される。とにかく消される。干渉無効化能力も無効化する。
術者が範囲に入っていたら術者も死ぬ、か消える。
使用後、二十四時間使用不可の制限。
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うん、意味が分からん。少なくともエターナルフォースブリザードよりはヤバいだろう。ざっくりじゃなくて、地味に詳しく? 効果指定している時点でこっちの方が明らかにヤバい。……ずっとヤバいしか言ってないな。語彙が貧弱になってきたようだ。あるいはヤバいとしか表現できないのか。この気持ちを端的に表せる言葉が生まれるのを期待しよう。
……弱点は使用後、二十四時間使用不可の制限か。大砲型故に、一度放つと制限がつく。使用する瞬間を間違えたら無防備になるな……まあ、このステータスで無防備になることなんてほとんどあり得ないが。
しかし、モブをチートにして一体何をしたいのだろうか? もしこの世界が小説なら作者は一体何を俺にさせたいのだろうか……神殺し? なら老害を倒せば終了だ。……いや、そもそも
まあ、どこかで老害と再会できるかもしれない。……クラスメイト以上に再会したくないけど。その時は改めて殺そう。そうしよう。
『ねえ、一通り本を食べちゃったみたいだけど、これからどうするの?』
本は一通り食べてしまって、本棚にはもう本が残っていない。うん、甘いものを前に出されて食べるなって言う方が難しいよね。それと一緒だよ!
この部屋に残されていたのは本だけではない。晩年手記を残した白骨死体さんが来ていたのであろうローブや服が箪笥の肥やしになっていた。うん、皮の服よりはマシそうなのでこっちを着よう。ところで、箪笥を漁るのは勇者の特権だけどモブがそれをやってもいいのだろうか? 衛兵が召喚されたりしないのだろうか? もし衛兵が来たらソイツらにこの世界の問題を解決してもらおう。それで万事解決だ。
うん、誰も来なかった。禁止行為では無かったようだ。良かった……のか?
魔導師のローブ、カッターシャツ、黒ズボンを手に入れた。……魔導師のローブ以外は今来ている学生服とそう変わらなくね?
まあ、素材的にはこちらの方が強度も高いようだし、いくつか耐性や加護も付与されているようだし、こちらの方がいいだろう。
聖に後ろを向いてもらい、その間に手早く着替える。肌触り的には地球産の学生服の方が断然上だが、こちらの方が伸縮性は高い。……正直少しだけ動きづらかったんだよね。まあ、制服って運動するための服じゃないから用途間違っている訳だけど。
とりあえず、装備完了。その後、部屋にあったものをあらかた物色し、目ぼしいものは皮の袋に突っ込み、俺達は部屋の奥にある魔法陣に乗った。
淡い光に包まれ、俺達は感覚的に十一日ほど過ごしたこの迷宮を脱出した。
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