おか


 魚群の肺は痛んだ


 ぜえぜえいう肺は陸(おか)のものではない

 ひゅうひゅういう喉は空気のためのものではない

 しかしそれでも野に躍り出て

 いざやゆかんと胸を張った

 魚群の肺はそうして傷んだ


 ぷっかり ぷっかりと浮き袋

 魚群は陸のうえで生きた


 脚はなく 尾びれは裂くことしかできぬので

 浮き袋をたよりに浮いていた

 丘のうえでぷっかり浮く 魚群

 手もなく 胸びれもまた裂くことしかできぬので

 なにも持たずに生きていた

 魚群はたったひとつ 丘のうえにあった


 魚群の丘には はじめのうち 誰も訪れるものがなかった

 ぼんやりと海に似た空を眺め

 波に似た雲を見つめていた

 ここには、あちらにも こちらにも

 遠いところには海があるのだな と

 魚群はひとりでかんがえていた

 人間は海を母と呼び

 たいそうありがたがっていることを知っていた

 己の母はなんであろうか

 魚群はひとりで考えていた

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