とおりみち


 魚群の後には尾があった

 魚群はその尾のとおりみちを

 ぼんやり ぼんやりと 考えた


 尾のとおりみちは 尾のとおってきたみちのことである

 尾が裂いた水やさけのきせきである

 ならば その尾の根っこから生えている魚群のからだも

 尾のとおりみちをとおったことになるのだろうか

 魚群の尾はあとを残すが

 魚群はあとを残さないのだ


 魚群はおのれの尾のあとをかえりみた

 おのれの泳いだのと全くおなじに

 尾のあとは水を裂いていた

 裂かれたあとはそれがまた閉じるのに流れが生じて

 魚群のたしかにそこを通ったことを

 水がおぼえているかのようだった

 しかし それは魚群のあとではなくって

 やっぱり尾のあとであるのだった


 尾は魚群をおよがせる

 魚群におよぐ気持ちがなくとも

 尾がゆらげば 魚群はおよぐ


 尾がおよがせたみちを

 魚群はかえりみる

 目の届かないとおいうしろを

 まばたきもせずにかえりみる

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