いつか見た西洋人形が如く-2
「控えられよ異国の友人たち。これはあまりにも無礼な行いぞ!」
「ヒカエルデキマセン! ニポンセキハタシテマセン。ヨコハーマナマムギ。ニポンthree of people コロシタ。マダアヤマテマセン! バイショサレテマセン!」
舌ったらずな言葉遣い。一発で分かった。彼らは同じ種類の人間ではないと。
が、そこまで考えがいたると、八徳の中の困惑は掻き消え、残ったのは静かな怒り。
(なんだぁこの流れ。扱い。こちとら一世一代の勝負に出て、裁きを受けて処刑される覚悟までしてきたんでぃ。なのに、俺の生き死になんざ二の次だってぇ?)
永真遊郭こそ八徳の全てで、生きてきたこれまでだから。
9,10年前に浦賀沖に黒船が来航し、いまや日本が多く受け入れる、海外船に乗ってたどり着いた異国の者に、ここまで日本人が圧されているのだと知らなかったから。
「キョウ、マタヒトリ、アナタタチニコロサレマシタ。ナンニンモシンデル! デモニポン、General、Govermen……ショグン、バクフ、アヤマルナイ!」
「だから、それに関しては貴国の配慮がっ!」
「ハイリョ!? ハイリョナニ!? コトバワカリマセン!」
自分の人生、
「あぁ……うるせぇなぁ」
「Ah……Bloody noisy(あぁ、耳障りでならない)」
ゆえに、周りに聞こえない声だが、八徳が漏らす。
小さい声で言ったわけではなく、お奉行や奉行所の者たちと、壮年の偉丈夫の声が大きいため、かき消された。
八徳は気づかない。偉丈夫の後ろに続く、見たこともないが、華やかな衣装に身を包んだ少女も、言語こそ違うものの、同じところで、呻くように同じ発言をした。
「Shut it Yellow monkeys. Nor Really pleasure to let's you all Die.(その口を閉じんか黄色いサルが。それとも貴様らすべて、ここで皆殺しにしてくれてもよいのじゃぞ?)」
「language lady.(お言葉が汚いですよ。お嬢様)」
やっとその少女の発言に気づいたのは、「Yellow monkeys」のくだりから。
「there is not too much language to shitting creatures(けだものを貶すにすぎる言葉なぞあるものか)」
「language……(だから、ご発言が……)」
耳に認め、八徳はツイッと、首だけを少女に向けた。正しくは少女と、その後ろに控えている、少女よりも年上そうだが、立場の低そうな男。
偉丈夫とお奉行が口論を始めてしまい、そっちのけにされたのは少女も同様のようだ。
八徳と同じく、それが気に入らないのか、「どうしてやろうかこの状況」とでも言ってそうな、刺々しい笑みと、冷めた瞳を、火種に向けていた。
「あぁ、しゃらくせぇっ! Hey you! Do you hear what I'm speaking!(テメェラッ! 俺の話をきけぇぇぇぇっ!)」
どうでもいい。たとえ八徳が突然、異国の言葉を口にし始めたのだとしても。
「What you bloody funny!? Would you please please get that bloody beard man out of here?(何が、ンに楽しいんだコラ! とにかく頼むからそこのヒゲ面ぁ連れてとっと消えやがれ!)」
「ユ、You what!?(な、なん……だと?)」
それに驚いた少女と男の二人が、目をむいて八徳に振り向いたのだとしても、そんなこと、八徳とってはどうでもいい。
「this is the day not yours. but final day of my life!(今日はあんたの日じゃねぇ。俺んのだ! 最期の一日なんだぞ!?)」
「ユ、ユ……」
「here therefore. No body can mess up to end of my destiny. even bothering. let judge"OBugyo"s judgement!(だから、何人たりとも俺の運命の最後に手出しはさせねぇ。お奉行の裁きの邪魔はさせねぇ!)」
「you do speak English!(話せるのかっ!?)」
それゆえか、お想いを放つ八徳と、八徳がその言語を話せることに驚いてしまった少女の言葉がかみ合うことはなかった。
剣呑な顔で八徳は少女をにらみ、少女といえば……
「Hey! say something. what you just looking me ass white bitch!? (オラ、なんとか言えや。こっち見てんじゃねぇぞ真っ白ケツメスブタ野郎!?)」
「ass white bitch!? you……afraid you said to my lady ass white bitch!?(真っ白……ケツメスブタ野郎だとっ!? 貴様、まさかそれはお嬢様に向けたものではなかろうな!?)」
自身に顔を向ける八徳からの罵声を黙って受け続けながら、次第に、何か面白い玩具を見つけたような、嗜虐的に口元を釣り上げた。
……その横では、彼女に続く男が、その左腰に、右手をかけて、鋭い瞳で八徳を見定めていた。
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