第29話 「木村ユーキ」(@KY9173 )様

 「 やぁ、みんな。今日も聞いてくれてありがと。こーやってみんなと過ごせるの、僕、とーっても嬉しいなぁ。」声は明るく、大きめに。滑舌は、いつもよりしっかりはっきり。ツイキャスの掟だ。


 リプライが次々と飛んでくる。それを読み上げながら、とぼけたり、ツッコミを入れたり。そうして、画面の向こうの一度も会ったことがない人達と一緒に息が詰まるほど笑う。


 楽しいなぁ。


 ぽろぽろ、ぽろぽろ。僕の中から、温かくて、胸が詰まるような、でもずっと感じていたいような感情があふれ出てきた。やがてそれは、嗚咽おえつを伴ったぬるい驟雨スコールとなる。


『ちょ、大丈夫?』『おちつけ』『一旦ミュート了解だよー』


画面の向こうの人々のやわらかなメッセージの中で、僕は身もだえする。違うんだ、僕は。貴方達が思っているような、綺麗な、純粋な、可愛らしい、そんな存在じゃないんだ。人気者スターなんかじゃない、道化ピエロなんだ、所詮、僕は。


 その事を思うと、僕の息はどんどん上がっていく。どんどん痛くなる胸を掴んで、は、は、と自嘲するような息を吐きながら、潤んだ目で画面に縋り付く。


『まあ俺らも色々あったよな』『あるあるー』『てかほんと大丈夫か』『無理しないんだよー』


『全部分かってあげるとか絶対無理なんだけどさ』『そ、リアルで責任持って支えられるわけじゃないからね』『でもまあ、ちょっとなら、聞けるから』


『『『聞かせてよ、ユーキくんの声』』』


画面の向こうから、見えない手が次々と伸ばされて、そっと頭を撫でていく。その手に掴まることはできないけれど、ただ、暖かさがあった。


 は、は、と鳴る荒い息が、少しずつ笑みに変わっていく。「おひとよし、なんだから。みんな、しょーがない、な」声が零れるたびに、暖かな雫がほたほたと膝を濡らす。


すぅ、はぁ。


深呼吸をして、ミュートスイッチを切る。「ただいまー!」僕の声が弾けた。

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