第19話 「戒めツブヤ」(@rebuke228 様)

 とぷん。身体を海中に滑り込ませる。


 1ストロークごとに、青が深くなっていく。やがて、白い砂が見え始めると、青の濃度は反転する。ぼうっと、それ自体が発光しているかのように仄かに光る砂。その上を、柔らかな色合いの魚たちがひらひらと舞う。


 空を「上にある水」、海を「下にある水」という言い方があるらしい。


 人魚と天使は、きっと本質的には同じモノだ。


 水に溶け込むように、そっとストロークを重ねる。そうしていると、いつしか自分と海の境目が和らいでいく。とろり、と自分が溶け出しそうになった頃合いで、酸素ボンベの限界が来る。あんなに近かった海に拒絶される感覚。


 ざっ、と音を立てて陸に戻る。ぐんっと重力が戻ってきて、心地よい気だるさに包まれる。潮風を浴びながらぼうっとしていると、体温がどんどん奪われていく。慌てて一風呂浴びる。風呂上がりの火照った身体に、キリッと冷えたスミノフのオリジナルを流し込む。じわりじわりと酔いが回る快感。


 音楽を聴きながら、今度は夜空を眺める。たき火の香りと、熱がまだ少し冷たい夜気を心地よくしてくれる。昼間に見た砂よりもはっきりと輝く星々を見上げながら、ちびちびとバランタインを舐める。そうしていると、ゆらゆらと、身体が天空に沈んでいく。音楽とざわめきが遠のいていく。


 とろり、とろり、天空を泳ぐ。


 静まりかえった夜の底から、物語をすなどる。

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