第17話 「津久美とら」(@t_tora_t 様)

 「ええっ、そうなんですか?!」と口元を両手で覆う「わたし」。

 「そうなんですね」とうなずく「私」。

 「で?」と鼻を鳴らす「アタシ」。


 場面や関係性に応じて、言葉遣いや態度を変えるのは「ふつう」のことだ。

 最近はちょっとした心理学が流行したりなんかしたから、ボディランゲージを制御するのだって、まあ、「ふつう」だろう。


 それなら、「ふつう」から「ふつうじゃない」に切り替わる境界線ボーダーは、何処にあるのだろう。


 相手の行動をひっきりなしに分析して、裏を読もうとするところ?

 誰も言っていないことを、勝手に「聴き」取るところ?

 特定の属性を持つ人の前でだけ態度を変えるところ?

 寂しさに耐えられないところ?

 趣味嗜好が少数派マイナーなところ?

 独り言が多いところ?


 どれにも当てはまらない人なんて、いるのだろうか。「異常」と「正常」は、本当にそんなに離れているのだろうか。


 考えれば考えるほど、自分の中の境界線ボーダーが曖昧になっていく。そうして、ふと考え込んでしまう。「」と。風に鳴る笹の葉の葉ずれの中に、猛獣の足音を聞き取ってしまう時のように、ギリギリと精神が張り詰めていく。


 ふふっ、と自分の口から笑いがこぼれる。その音を他人事のように聞きながら、また執筆を続ける。

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