第14話 「亞今井と模糊」(@38n111 様)

まどろみながら、物語の中をたゆたう。ゆらゆらと、水面の揺らぎが言葉を紡ぐ。

寄せては返す波の飛沫しぶきをそっとつまみ上げて、言の葉を飾り付ける。


愛しいものがたり、新しいものがたり、おいでなさい。

滔滔とうとうと水を湛えた湖の上を渡るそよ風のように、新たな物語をそっと揺り起こす。


さざなみが立ち、ちゃぷん、と新たな愛し子ものがたりが飛び出してくる。谷底に湧く清水を汲み取る旅人のように、大切に掬い上げる。


愛し子ものがたりは、雨のように降ってくる時もある。スコールのように飛び込んでくるものがたりは、ちょっとやんちゃだ。


それから、霧のように、気がつけばそこにいる愛し子ものがたりもいる。人見知りで、掴みにくいが、スケールの大きなものがたり


るるり、るるり。


かわずが、水面を渡る。


るるり、るるり。


物語たちを誘い出す。


初夏の宵は、立ちこめるものがたりの香りで満ちている。

秋の夕は、魚の鱗にも似たものがたりが悠々と天を泳ぐ。

冬の朝は、まだなにものにも荒らされぬものがたりが笑いかけてくる。

春の明け方は、花の蕾の上で光るものがたりがこちらを見つめている。


ぱしゃり。


シャッター音にも似た水音を立てて、ものがたりに飛び込んでいく翡翠かわせみ


明け方の水と空の狭間から産まれた両翼で、次の物語へ誘ってくれる。

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