第11話 「篁綴」(@Bi_NINI_rD 様)

もし。おまえさま。


お急ぎか。

お急ぎの御用向きでないなら、少しばかり足を止めてゆかれませ。さうして、昔語りに付き合うてくださりませ。


おほほ。おまえさまが美しいとて、矢庭やにはに顔を見せて差し上げる訳には参りませぬ。

第一、それでは風情ふぜいといふものがござりませぬ。


嗚呼。何処から話したものでせうか。


そとはなにかはくるしかるべき・・・・・・


花の色は移りゆくものにござります。人の心はなお。


失せぬは墨染めばかりなり。贈られし文の手跡あとを、すがめつながめるとて、しず苧環おだまきにあらねど、昔を今にかえす訳にはゆきませぬ。


嗚呼、嗚呼。


わたくしは、一日ひとひ足りぬ九十九つくもよと、ついにあの人に応えなかつた。


悔いて、おりまする。さりとて、幾度いふてもせん無いこと。


藤のやうに、つたかずらのやうに、此の身に取り憑いてくれれば、まだ心安らかであつたのに。


あの人はただ、朝露のように儚くなつてしまつた。

露は真白玉、草が深ければ深いほど、散りばめられる真白玉。その玉を綴った玉梓たまずさを、こんなにも贈ってくれた人。


おや、お気づきか。


それならば、名乗りもしませう。わたくしは・・・・・・

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