第2話 「野上獅子」(@MARGINAL220 様)

 自分の話をするのは得意じゃない。

 作品の宣伝も、した方が良いんだろうとは思うんだが、いざ宣伝文を書こうとすると指が止まり、途方に暮れて、結局やめてしまう。


 散々迷った末に画面をオフにした端末を尻ポケットにねじ込み、キャンパスの隅っこに押しやられた、阿片窟じみたスモーキング・エリアに入る。元々日が射さない上に、嫌煙家の運動やら大学のお綺麗なイメージを守るためとやらで縮小されたそこは、益々後ろ暗く気怠い雰囲気が漂っている。


「よ、野上」白く烟るけぶる息を出しながら、軽く片手を挙げて笑いかけてくる友人。図書館ごもりで引きつってしまった表情筋を無理矢理動かして笑い返す。「疲れてんな」問いかけというより独り言のように彼が呟く。ずり、と音を立てて場所を空けてくれた彼に軽く顎を引いて謝意を表す。隣に座り込み、ジャケットの隠しから歪んだ煙草の箱と大学の校章入りライターを取り出す。購買で一番安い奴だ。


 いつか観た映画の俳優が、とんとん、と指で箱を叩いて煙草を出す仕草が格好良かったなぁ、と思いだして真似してみるが、そう簡単にできるもんじゃない、という事が分かっただけだった。

 諦めて普通に取り出して口に咥え、火の付きにくいライターをなだめすかし、やっと付いた火を筒先に吸い込む。口に広がるえぐみと、わずかな甘み、強い香り。煙を肺に追い立てるようにすかさず空気を吸い込む。ふぅ、と煙を吐くと同時に、じんわりと脳にニコチンが回る感覚。

「そういえばこないだの講義でさ」ジェスチャーを交えながら軽やかに話す友人に、時折うなずきを返しながら話を聞く。黙っていても気にせずに話し続けてくれる彼は、自分にとってありがたい話し相手だ。


 ふっと、彼になら自分の作品の話をしても良いかな、と思った。話の切れ目を慎重に伺い、ゆっくりと息を吐いて、吸って。「なぁ、」そっと音を送り出した。


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