第2話 「野上獅子」(@MARGINAL220 様)
自分の話をするのは得意じゃない。
作品の宣伝も、した方が良いんだろうとは思うんだが、いざ宣伝文を書こうとすると指が止まり、途方に暮れて、結局やめてしまう。
散々迷った末に画面をオフにした端末を尻ポケットにねじ込み、キャンパスの隅っこに押しやられた、阿片窟じみたスモーキング・エリアに入る。元々日が射さない上に、嫌煙家の運動やら大学のお綺麗なイメージを守るためとやらで縮小されたそこは、益々後ろ暗く気怠い雰囲気が漂っている。
「よ、野上」白く
いつか観た映画の俳優が、とんとん、と指で箱を叩いて煙草を出す仕草が格好良かったなぁ、と思いだして真似してみるが、そう簡単にできるもんじゃない、という事が分かっただけだった。
諦めて普通に取り出して口に咥え、火の付きにくいライターをなだめすかし、やっと付いた火を筒先に吸い込む。口に広がるえぐみと、わずかな甘み、強い香り。煙を肺に追い立てるようにすかさず空気を吸い込む。ふぅ、と煙を吐くと同時に、じんわりと脳にニコチンが回る感覚。
「そういえばこないだの講義でさ」ジェスチャーを交えながら軽やかに話す友人に、時折うなずきを返しながら話を聞く。黙っていても気にせずに話し続けてくれる彼は、自分にとってありがたい話し相手だ。
ふっと、彼になら自分の作品の話をしても良いかな、と思った。話の切れ目を慎重に伺い、ゆっくりと息を吐いて、吸って。「なぁ、」そっと音を送り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます