第61話 *時空震

 その日はすぐにやってきた。


「たいへん、すぐに帰らなきゃ」


そんなことを侍女に言うと、止めるヒマなく秋穂は姿が消えてしまった。

時間の操作が可能なはずなのに、どうやら帰還してしまったらしい。

長兄王子が意気消沈したのは、言うまでもない。


「「時空震?」」


2人が気がついたのは、同時だった。


世界全体に波のような震動が襲ってきた。

この世界には、プレートや海嶺、海溝というものはなく、地震が起きる可能性はない。

しかし、時空間のゆがみを解消するための時空震というものは存在する。

いわば、天災なのだがいつ・どこで・どのくらいの規模の予知は分からない。

世界全体なのか、個人なのかも不明と来た。

そんな揺れが生じたいから、秋穂は突然帰ってしまったのだろう。


「少しでも話せると思っただがな」

「申し訳ありません。引き留める間もありませんでした。今までで最も早く帰還したと思います」


時空震は、そんな話をしている間に収まった。


『被害は軽微。現状待機中。各部、異状がないかどうかを確認して、報告をあげること』


「仕方がない。持ち場へ戻る」

「私も戻ります」


2人は、持ち場へ戻ることになったが、特に異状はなく、程なく被害はほとんどなかった。

長兄王子は、この揺れが普通の時空震では、なさそうな気がしたが、それを証明することが分からなかったので、秋穂が帰ってしまったことに落胆をしていた…が、


次の日に、長兄王子が眠る部屋に侍女が起こしに来る前の時間に、突然、部屋が揺らいだ感じのあとに、何かがベッドの上に落ちた。


「ぐふぅ」


無論、強烈な圧迫を感じたから、飛び起きようとして、気がついた。

“動けない”

ちょっとパニックになりつつ、自分の上に乗ったものを見ると…


「おっはよー、ちょっとずれちゃったけど、ごめんね」


そんな反省のカケラがないような挨拶を秋穂がニコニコしながら、身体の上に乗っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る