第22話 新たな依頼
その日、僕はキャロルさんからの言伝を受け取ったサミュエルらに連れられ、ギルドへと足を運ぶこととなっていた。なんでも大商会の『トマレフ商店』ってところの偉い人が僕に話があるそうで……。
タバサさんに聞いたところよると、西の帝国から東の王国、北の魔王国に至るまで、この大陸を言葉の通り股にかける大商会らしく、確かに王都にも『トマレフ商店』の看板を掲げたお店が結構ある。コンビニみたいな感じなのかな?
「プリシラ、準備できたかい?」
「……ん。」
今日は学校がお休みなプリシラも一緒に行くから、その着替えを待ってたんだけど……うん、新しく買ったホットパンツにフレアキャミソール、よく似合ってて可愛い! 髪もツインテールにして良い感じ!
「変……ちがう?」
「全然! すっごく可愛いよ!」
「……~~~~~~っ」
あらら照れちゃったのかな? 褐色な肌でもハッキリわかるくらい顔を真っ赤にして俯くプリシラ。口元もぐにゃぐにゃしちゃってるから、当分顔が上げられないだろう。一度感情が溢れるとなかなか戻らない子だからね。そんなところも可愛いんだけど!
「じゃ、出ようか。マウ~、おいで~!」
「はいなのじゃ~!」
パタパタと飛んできたマウを抱きとめると、出発進行!
因みに今日は全員で行くから、キャンピングカーとトレーラーハウスはアイテムボックスに入れる。こうして六人と一匹で森を歩くのは久しぶりの事で、ちょっと楽しくなってしまった。「歩こ~♪歩こ~♪わたしは元気~♪」と日本人なら誰でも知ってるあの歌を、繋いだプリシラとエシェットの手をぶんぶん振りながら陽気に歩いていたのだった。
……が。
「遅い!!」
「え?」
ギルドに着いて奥の別室に入ると開口一番、雷が降ってきた。
落としたのはソファーにふんぞり返るように座っていた、何と言うか、ずんぐりと太った男性だった。後ろではぺこぺこと僕に頭を下げるキャロルさん。腕時計で確認すると、約束の時間まであと10分はあるんだけど……。
「木っ端な万事屋風情が、この『トマレフ商店』副代表の私を待たせるとは言語道断!」
呼び出したのはそっちでしょうに……。
「えっと……すみません?」
とりあえず謝っておくと、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
この世界で男手で副代表に登りつめたのなら凄い人なんだろうけど……こういう高圧的な感じはどうも苦手だ。エシェットなんて臨戦態勢だし、マウは僕の肩で喉を鳴らして威嚇してる。でもプリシラ? そのボソボソ唱えてる呪文は安全な奴なんだよね? そよ風が出る~とかそういうなんだよね?
「貴様が万事屋なるものを運営しており、非常に珍しい品をいくつも保有しておると聞いたから社長より商談を任されたが……これでは貴様らとは商売など出来んな!」
あちゃ~……ちょっと派手にやり過ぎたかな? スラムの一件もそうだけど、害虫駆除とかの依頼でも色んなもの使ったからなあ。
僕が頭を掻いていると、何か困ってるのかと思ったタバサさんが歩み出た。
「失礼ですが、私共はあなた達と商売するなどと考えたことはありません。(殺すぞ)にもかかわらずその態度はあんまりではありませんか? (殺すぞ)」
……ちょっとタバサさん? ボソッと言ってるけどすぐ横に居る僕には何か物騒な単語がバッチリ聞こえてるよ? ていうかよく見たらこめかみにハッキリ青筋浮かんでるし。
「そうだね。副代表でコレでは……あの商会の品位も底が見えた。ここは帰ろうか、コーイチ殿。」
「デブスが調子乗んなよゴラァ!」
ヴェテル! キミはもうちょっとオブラートに包もうか!
ああほらっ! 相手ももうカンカンで頭から湯気出ちゃってるじゃん!
「き、貴様ら……! 『トマレフ商店』を敵に回して商売出来ると思うなよ!」
あ、でもそこは訂正したい。だって僕ら別に何か店を出してるとかそう言うんじゃないから。
「あの、何か勘違いをされているかと思いますが、僕ら別にお店を開いてるわけじゃなくてですね……。」
「ええい煩い!! それだけじゃないぞ……聞けばその娘、魔法学校に通っておるそうではないか。あそこは俺の後援者のご子息ご息女たちが大勢おる。そんなところで平穏な学園生活が送れるかな? まあ、今謝ってももう遅いがな!」
かっちーん。
うん、無理。流石に僕もプリシラを引き合いに出されてこんなこと言われたんじゃ黙っておけない。
「……マウ、やっちゃって。」
「良いのじゃ?」
「うん。どうやらその人、帰りにホモ向きの風俗店に行きたいみたいなんだ。因みに受けらしいよ?」
「なるほど、了解したのじゃ!」
意味が分からなかったのか、怪訝な顔をする男。しかしマウが詠唱を始めると、勝手にその足は動き出した。そういうお店があるって言うのはサミュエルの飲み友達(オカマちゃんたち)から聞いていたから知ってる。なんでそんな人たちと絡んだかは今は良いだろう。ていうか忘れたい。珍しく飲みに誘ってきたからついて行ったらオカマバーだったなんて忘れたいに決まってるだろ?
「な、なんだ?!」
マウが得意とするのは人の意思を操ったり、体の自由を奪う精神魔法。だから自分の意思とは関係なく、彼はそうしてしまうだろう。
その場にいた人たちは、まさか僕が怒るなんて思わなかったのか唖然としていた。いや、僕だって仏じゃないんだから怒る時もあるさ。大事な家族に何かするって言うならなおさら。
「……ふむ。良い考えじゃが保険も必要じゃな。どれマウ、ちと足を止めろ。」
「お師匠?」
何か考えがあるのか、エシェットは停止を命じた。するとホッとした様子の男に歩み寄って、
「のう下郎よ。許す故、我のステータスを見てみるがよい。家に持ち帰ってその後の対応を決めるんじゃな。」
「なにを……んあっ?!」
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種族名:エンシェントドラゴン
☆従魔『契約者:コーイチ・マダラメ』
LEVEL:10670
HP:5881002/5881002
MP:738510/738510
ATK:2700
DEF:2140
AGI:1961
INT:2480
MND:2111
LUK:89
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「なんぞ手出しをしようものなら、我が相手になろう。そこのところをよく考える事じゃ。」
男は股を濡らし、顔面蒼白な様子。
「よし、よいぞ。」の合図と共に、再び男の足は動き出したのだった。これはエシェットに助けられたかな? 確かに後から何かを仕掛けてくる可能性もあるわけだし、ちょっと冷静さを欠いていたかも。反省。
その後、キャロルさんには凄まじい勢いで頭を下げられてしまった。なんでも、あまりに高圧的でグイグイ来るから「ご紹介だけなら」と答えてしまったらしい。
まあ別にキャロルさんに怒っても仕方ないから、僕は気にしないでねと答えてあげた。
「それと……重ねて申し訳ないのですけど、シェード本部のギルドマスターがマダラメさんにお会いしたいと言っているのですが今お時間てありますか?」
「なに?! シェードのギルドマスターが?!」
いの一番に食いついたのはサミュエルだった。よく見たらタバサさんもヴェテルも驚いた顔をしている。
な、なんだ? 変な人だったらタバサさんのお姉さんでお腹いっぱいだぞ。
僕はよく分からないまま、ギルドの2階に上がって最奥へと通された。ふと横を見てみるとタバサさんの唇がフルフルと震えている。
「ノエル様、マダラメ様をお連れしました。」
「……入ってくれたまえ。」
ん? 男性の声だ。ギルドマスターって男性なのか。
「失礼します」と声をかけて中に入ると、声の主が居ると思われる机の周りに本やら書簡やらが積まれその先が見えない。ギルドマスターってみんな片付けるの苦手なの?
「ようこそ。私がここのギルドマスターをしているノエル・プラージュだ。どうか楽にして、ソファーにかけてくれたまえ。」
「は、はい…。」
本の山の向こうから、やけに落ち着いた声だけが届く。
サミュエルたちは緊張した面持ちでソファーにかけ、僕もそれに倣う。
「……こんな形ですまないね。私は人前には出ないようにしているのだよ。」
「いえ、それは構いませんが……。」
「ふむ、不思議な青年だね。キミの周りは緊張しているのに随分と落ち着いている。古龍殿もそう警戒しないでくれたまえ。」
「……ふん、小童が。姿も見せん相手をどうして容易く信用できるか。」
「……それもそうだね。」
くくっ、と喉をならす。
そして指を鳴らすと、いつの間にか目の前に1通の手紙が置かれていた。後ずさるように驚くサミュエルたち。
……え? 魔法がある世界なのに驚くようなことなの?
「ま、魔方陣も無しに転移魔法を……!」
……なんか凄い事らしい。魔法なんてちっとも使えないから分かんないけど。
「それを読んでくれたまえ。そこに居る賢者殿の姉君から送られてきたものだよ。」
一言も発してないタバサさんがここに居ることまで……か、カメラでもどっかにあるのか?
まあそんなことはどうでもいいか。多分、なんか凄い人なんだろう。悪い頭を捻っても休むに似たりだよね。
そして僕は手紙を手に取って開いた。
『やあ、元気かい可愛い子ちゃん。まだ童貞守ってるかな?』
危うく破り捨てそうになった。
『ちょっとこっちで困ったことになってね。キミの力を借りたいんだ。勿論、報酬は弾む。タバサの性感帯も教えてやろう。』
今度はタバサさんの顔が劇画タッチになる。
『だから悪いんだけど、トフロまで来てくれないだろうか? 詳しくはこちらで話そうと思う。良い返事を待ってるよ。 ----シエナ』
困ったことってなんだろ。ていうか僕の力が借りたいってなんぞ。害虫駆除とか子守りくらいしかできないぞ。あの部屋の掃除ってのも勘弁してほしい。だってなんか汚れたパンツとかいっぱい落ちてたし……。
『P・S』
ん?
『タバサは左の乳首が弱いよ。いつもそこをこすって』
「―――――――っ!!」
手紙を破り捨てるタバサさん。ホントに性感帯教えるんかい。
かくして僕らは、殴り込みに行くタバサさんの付き添いの名目でトフロを目指すのだった。帰り道、真っ赤な顔で「違いますから!!」と弁明するタバサさんには同情を禁じえない。あの人、やっぱり変な人だ……。
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