第18話 お味噌汁とスケベ裁判
「よしっ! じゃあここに子供たちを集めてくれ!」
「お、おう。」
久々お見せするクッキングタイム、スタートだ!
とその前に……ネットショッピングでラーメン屋さんが使うような大鍋を買って、あとはガスコンロかな。いきなりお肉とかは胃がビックリしちゃうから、野菜中心の汁物が良いだろう。
と、いうワケで~……
~~みんなで囲もう、けんちん汁フェスタ!~~
①大根、にんじん、里芋、ゴボウ、こんにゃく、油揚げを用意!
②油揚げ以外の具材を、隣の晩御飯的なしゃもじで炒めたら、油揚げと昆布出汁、水を投入!
③いい感じに煮込んだら、めんつゆを入れ、お醤油と塩で味を調える。
④匂いに釣られて顔を出した子供たち、ちょっと待っててね。ここで味を見ながら味噌をイン!
⑤沸騰寸前で火を止めたら、病気がちな子のためにネギを散らして出来上がり!
あまりにも具合が悪そうな子には、寒天ゼリー(オレンジ味)を買っておいてあげよう。これなら風邪薬を混ぜて食べさせてあげられるし。
「よし、お前らちゃんと並べよ~! 年下の奴から先にだぞ!」
ヤンキーガールも、自分だってお腹減ってるだろうにああやって子供たちに指示してくれてる。恰好はアレだけどいい子なんだよな~。
紙の器とスプーンを用意して、みんなによそってあげると笑顔がはじけた。うん、良い顔だ!
「おいしいね!」
「うん!」
心が荒んでくると、どうしても奪い合ったり傷つけ合ったりと争いが起こりそうなのにそれがない。ちゃんと教育というか、そういった習わしが出来てるんだろう。キョーコ・マミヤさんってそういう面でもすごい人だったのかも? 会ってみたいな~。もちろん、それをあの年齢で踏襲してるヤンキーガールも凄いと思う。僕も見習わなきゃ。
「おかわりもあるから、もっと食べたい子は言ってな~!」
「「「は~いっ!」」」
うん! やっぱりご飯を食べて笑顔がもっと良い顔になった!
僕はリンダちゃんの案内で、スープも無理そうなくらい具合の悪い子にゼリーを食べさせる。自分らも早く食べたいだろうに、リンダちゃんだけじゃなく子悪魔連合の幹部の少女たちも一緒に。
この時僕は、もう自然とこの子たちの事が好きになっていた。だってこういう子たちが幸せにならないなんて嘘だ。
しかし、一時のテンションに身を任せてこんなことをしてる僕は、肝心なことを忘れてしまっていたのだった。忽然と姿を消した僕を巡って王都ではひと騒動が起こっていたのだが、その一部始終をダイジェストでどうぞ。
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「ミエリッキくーん。ミエリッキ・サクスシェードくーん。」
「……はい。」
玉座の間では、勇者や大臣に囲まれつつ正座している国王の姿があった。
かけられた嫌疑は青年誘拐。
あれから、迎えに来たエシェットはコーイチが教会に来ていないことを知ると、すぐにキャンピングカーへと戻りサミュエル達に伝えた。空腹も忘れて慌てた彼らは大捜索を敢行。そしていの一番に疑われたのがミエリッキだった。
「あなたがドスケベなのは知ってるけど、まさか誘拐までするなんて思わなかったわ! 最低よ!」
「やいやい! うちの兄貴を攫うなんざ結構な真似してくれんじゃねぇか!」
「今返すのであれば……まあ消し炭くらいで許してやろう。」
「……陛下、見損ないましたぞ。」
「【エルフ語で罵詈雑言のためピー音規制】」
涙目で俯くミエリッキ。
政務も夕食も済ませ、自室にこもって全裸でエロ本を読んでいる時に突如来襲した幼馴染+αたちは「な、なんだ?!」と驚愕する彼女を玉座まで引きずり出して問い詰めた。
中でも最も怒っていたのはプリシラだ。行方不明と知った時の彼女の取り乱し様はかなりのものだった。おかげでサミュエルらが少し冷静になれたのだが、それこそ放っておけば何をするか分からない程に顔は青褪めて泣きじゃくった。
『さがす!』
『ま、待ってプリシラちゃん!』
『待つ、だめ! さがす!』
『心当たりがあるんだっつーの! ちょっと落ち着け!』
そうして羽交い絞めにされ、今に至る。
「私、何もやってないんです……。ホントなんです……!」
全裸でマジ泣きし始めた彼女を見て、サミュエルたちは一度離れて相談を始めた。
なんだかんだと付き合いの長い彼女が嘘を言っているかどうかはすぐに分かる。彼女は嘘をつくとき、目がドルフィンスタイルで泳いで口が尖る癖があったから。……他国と渡り合う一国の王としてはどうかと思うが。
彼女に向き直ると、皆良い笑顔で謝罪を始める。
「いや~、すまんミエリッキ!」
「私てっきり……ごめんなさいね?」
「わ、私は最初から疑ってなど居なかったがな!」
「嘘つけサム! アンタ一言も発さず生ゴミ見るような目で見てたでしょーが!」
「【エルフ語で罵詈雑言のためピー音規制】」
「お、落ち着くんじゃプリシラ。こやつは恐らく何もしておらん。」
疑いは晴れたとはいえ、すると今度はコーイチがどこに行ってしまったのかという問題になる。
あのステータスでは襲われたりすればひとたまりもなく、一分一秒を争う事態であることには変わりない。
「ミエリッキ、悪いんだけど緊急で捜索隊を組んでもらえないかしら?」
「人使い荒すぎだろ?! ……もうお前らがコソコソ話してる隙に指示は出したよ。」
「流石♪ 仕事
「仕事『は』て……。」
念の為言うが、彼女はこれでも王である。幼馴染の中でも、頭の回転だけは誰よりも秀でていたのも確かだ。問題はその使い道をよく間違える事だろう。
因みに、サミュエルがホモになったのはこのミエリッキとタバサの姉、シエナが原因だったりもする。まあそのお話はまた別の機会で。
「しかし困りましたな。行方知れずとなると、街の中なら問題ないですが……スラム地区ともなれば困りものですぞ。」
「スラムか……。」
ミエリッキは目を伏せた。スラム地区は、シェードの西側、元は西門と呼ばれてバザーが栄えていた商業区域だった。シェードは西と東に楕円形状に発展していった街で、中央には城を始めとした行政区と貴族区があり、その外にはギルドや魔法学校があり庶民たちが暮らす民生区、そこを出ると畑や牧場の農区があり、高い城門から街道に繋がっている。城門より民生区へ伸びる広い道にはずらりと屋台群が並び、西と東の物流で栄えたサクスシェードならではの街作りと言えた。因みに、コーイチたちは普段、南の通用門から出た森の中で生活している。
話を戻すと、西側はかつての大戦で西の帝国の奇襲によって酷い打撃を受けた地区。中でも城門側にあったバザーは壊滅状態だった。シェードは物流の玄関口と呼ばれており、帝国はどうしても手に入れたかったのだろうそこは、どうやっても再開発資金の捻出が追い付かず今でも荒れ果てたまま。
沢山の孤児たちが身を潜めているというのは知っているし、いつ倒壊してもおかしくない場所を放置している現状はよろしくない。かと言ってこれ以上貴族に力添えしてもらうのは気が引ける。
それに何より、あそこにはとある伝説的な傭兵が住んでいたという噂まであり、彼女の気性の粗さから普通の神経の人間は近付くことさえしなかった。
「スラム……!」
「ちょ、ちょっとプリシラちゃん! 待って!」
プリシラは静止も聞かず瞬発的に駆け出した。彼は絶対にそこに居るという確信を持って。これも虫の知らせと言うのだろうか。
「……チっ! 追い掛けんぞ!」
「ああ!」
「わ、私も行くぞ! ロベルトは私兵を連れてついてこい!」
「陛下はまず服を着てくだされ!」
「そうだった……!」
危うく新たな罪を犯すところだったミエリッキをとりあえず置いて、サミュエルたちは先行して駆け出したプリシラを追うのだった。
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