第10話 プリシラ、魔法学校へ
プリシラが魔法学校への入学を決めてから、早くも3か月の月日が流れていた。
それまでタバサさんの授業を頑張ったプリシラは知識をみるみる吸収していき、入学試験もなんと全体一位という好成績で突破したのだ。合格の一報を手に帰ってきたプリシラを思いっきり抱きしめてしまったのは言うまでもない。
「コーイチさん、準備は出来ました?」
「あ、はいっ!」
この日のために買ったスラックスと襟付きの白シャツを着こんで、外で待つタバサさんの声に返事をする。
なんでそんなにキチっとしてるかって?
……だって今日はプリシラの入学式だから! 保護者の僕のせいでプリシラが馬鹿にされるなんて絶対避けなくてはならない。
「よしっ!」と頬を叩いて気合を入れたらキャンピングカーを出た。
「うわ~! コーイチさん素敵な御服ですね!」
「そ、そうですか?」
「ええ! とてもお似合いですよ~!」
そう言われると悪い気はしない。この世界の人にとっても変に見られないのならバッチリだ。
因みに、今日の付き添いは僕とタバサさんだけという事になっている。ヴェテルはこういう式典は苦手だし、あのホモ、もといサミュエルとクエストに行ってもらっている。ホモが「コーイチ殿の夫役として僕も!」とか言い出した時はエシェットにボコボコにしてもらった。
「主様~! 吾輩も行きたいのじゃ~!」
「馬鹿者!! 貴様は我と勉強に決まっておろう! 全く……竜族の癖に算術も出来ぬとは嘆かわしい! 今日はコーイチが用意したこの“どりる”とやらを全部終わらすのじゃ!」
「ぴぇ~~~!!」
あ、あはは……。
マウは今日も今日とてエシェットにしごかれているようだ。僕だとついつい甘やかしちゃうからな~。でもま、帰ってきたらご褒美にちゃ〇ちゅ~るしてあげよう。
「コーイチさん。行こ?」
「ああ!」
プリシラに促されて、僕たちは一路王都まで向かう。
この頃になると、プリシラも勉強の甲斐あって言葉も流暢になってきた。奴隷商人に人族の言葉を教えられていたとはいえ、これまでは生まれ育ったエルフ語訛りがあって少し拙さがあったけどそれが薄れてきた感じだ。……正直、あのたどたどしい感じも可愛かったからちょっと惜しいけどね。
「友達いっぱいできると良いね!」
僕とタバサさんに手を繋がれたプリシラにそう言うと、友達というものがピンと来ないのかきょとんとしている。
でも大丈夫だ! こんなに可愛いんだから男女からモテモテに違いない!
因みに今日のプリシラの服装は、黒を基調にした白いフリル付きの気持ちシックなシャツ、スカートもひざ丈くらいの上に合わせたフリルスカート、ポイントとして赤いリボンが付いた靴下とパンプス、頭にはちょこんとカチューシャを乗せてみた。もうどこからどう見てもスーパー可愛い美少女だ!
着せた時はあまりに可愛いもんだからポラロイドカメラで激写しまくって困らせてしまったくらい。
「お! マダラメの旦那じゃないか! この間は助かったぞ!」
「まあ、マダラメさん! その節はどうもありがとうございました!」
街に入ると声をかけてくれる人たち。
実は何度か街に来る機会があって、その時に困ってる人たちをネットショッピングを利用して助けたことがあった。例えば商売柄、声を上げ過ぎて傷んだ喉に困ってたから龍角散のど飴をあげたり、娘さんが風邪気味だと聞いて元の世界でも愛用してたルルア〇ックEXをあげたりしてたら、いつの間にか街の人に可愛がってもらえるようになっていた。
この世界にも医者のような職業の人はいるのだが、それらは魔法やら薬草やらを使用した癒術というモノらしい。しかし庶民にとって喉が痛い、風邪を引いた程度で頼むのは難しいほど値段が高いのだ。
僕は医者でもなければ薬剤師でもないから、あまり大っぴらにはやりたくないけど、市販の薬でなんとかなりそうなら助けてあげたかった。
他にも、害虫駆除やら子守りに至るまで、ギルドに通らないような些細な困りごとを見かけると放っておけなかった。
「あー! 兄ちゃんだー!」
「こーいちお兄ちゃん! きょうは教会くる!?」
「ごめんな~、今日は行けそうもないんだ。また明日ね!」
「ぜったいだよ?」
この子たちは教会に預けられている孤児たち。つい最近、とある一件で知り合ったのだがかなり懐かれてしまった。
「……ふふっ、コーイチさん、にんきもの。」
僕が褒められているのがよほど嬉しいのか、顔を綻ばせるプリシラ。こんな顔が見られるなら僕はもっと頑張れる!
でもその横ではタバサさんもどこかドヤ顔してるのはどうしてだろう。
「ああっ! コーイチさん、街にいらしていたんですね! 助かりました……!」
「キャロルさん? そんなに急いで……何かありましたか?」
息を切らせて走ってきたのはギルドの受付嬢をしているキャロルさん。金髪をポニーテールに纏め、ギルド員の制服をビシッと着こなしたエルフの女性だ。母数は少ないけど男性冒険者からは憧れの目線で見られている美人さんでもある。
「実は困ったことになりまして……今日でなくても構いませんので、また駆除のお仕事をお願いできませんか?」
「へっ?」
「ある大貴族の方からの依頼なのですが、どうやら害虫に困ってるみたいでして……。」
なるほど、それなら何とかなりそうだ。害虫駆除の依頼は前にも一度熟したことがあり、依頼者の方から大変喜ばれた。何匹が駆除してくれればいいと思っていたのに、たまさかそれ以来害虫が寄り付かなくなったと追加の報酬までくれたほどだ。
バルサン半端ないって!
かくして僕は、そうやって依頼を片付けていくうちに、誰が呼んだか“万事屋マダラメ”として認知されていたのだった。それを耳にした勇者パーティーも以降“万事屋マダラメ”を名乗るもんだから、勇者・賢者・戦士・ドラゴン・魔竜・ダークエルフという、とても万事屋とは思えない面々を率いる長になってしまったのだ。
いや、誰か異論唱えろって。王都のギルドマスターから正式な組織だと認める証明書が届いた時は驚いたぞ。しかもあの王女の実印付きで。
「~♪」
でも僕が声をかけられるたびに足取りの軽くなるプリシラを見ていたら、それでも良いかななんて思っちゃったりして。ホントはあまり目立ちたくないんだけどな~……。
そんなことを思いながら歩いていると、魔法学校が近付いてきた。見た目はもうホグ〇ーツかよって具合の古風なお城調の建物。広大な敷地には寮もあったが、プリシラは頑なにキャンピングカーから通うと言って譲らなかった。
「見つけましたわよプリシラさん!!」
「ん?」
突然声をかけられて振り向くと、門のところに腕組みしながらプリシラを睨む金髪ロールの女の子が立っていた。一目見ただけで分かるその気品と言うか、お嬢様感。白とピンクを基調にしたドレスは彼女の可憐さを引き立てていた。
「お友達かい?」
「……?」
いや、なんで首傾げるのよ。
「しらないひと。」
「なぁんですってぇ?!」
プリシラの痛烈な言葉に怒り心頭な少女はツカツカと歩み寄る。大股歩きなのに優雅に見えるのは流石お嬢様だ。
するとそこでタバサが耳打ちしてきた。
「あの方、この国一の大貴族……マルグリット家のご令嬢です。」
「へ?」
「首にかかってるグリフォンのペンダント、間違いないですよ。」
マジか! 王様はもう見てるけど、ここにきて大貴族のご令嬢! 中世ヨーロッパ的で良いね!
「このワタクシを差し置いて一位の成績をとるなんてあり得ませんわ! この借りは必ずや先のテストで返させていただきます!」
「そう。がんばって。」
「むき~~~~~っ! み、見てらっしゃい……絶対あなたを」
そうか、プリシラは確か全体一位で入学を決めたからこの子はそれが悔しいのか。見るからに負けず嫌いっぽいから良いライバルになれると良いな。僕はそういうのを味わったことが無いから、プリシラにはぜひそんな輝かしい青春を送ってもらいたい。
僕は今もプリシラに突っかかる少女の前に目線を合わせるように膝を落として声をかけた。
「ね、キミのお名前はなにちゃんって言うのかな?」
「はあ? なんですのあな……た……は…………」
キッと睨みつけたと思うと、次第に頬に赤みが増していく。
なんだ? 僕は何か変なことを……
「あ、わ、あわわわっ……! そ、その、ワタクシ……!」
「ムッ」
繋いでいる手の力が増し、プリシラの頬はぷくっと膨れた。よく分からないけど、ステータスの差を考えて力を込めてくれると助かります。これ大丈夫だよね? 骨とか逝ってないよね?
「わ、わちゃくし! メリル・ベラ・マルグリットと申しましゅ!」
「そっか、メリルちゃんか。」
「ひゃい!」
「僕はコーイチ・マダラメ。うちのプリシラと仲良くしてあげてね?」
「も、ももも、もちろんですわっ! ワタクシにお任せくだしゃい!」
真っ赤な顔で両こぶしを握りながらそう言ってくれるメリルちゃん。うん! 良い子そうで何よりだ!
入学初日から友達ゲットとかやるじゃないかプリシラ!
「さ、さあプリシラさん! ワタクシが教室まで案内して差し上げますから、ついてらっしゃい! お~っほっほっほっ!」
あ、高笑いってホントにするんだ! 流石お嬢様だな~。
というかプリシラ? 彼女について行くのは良いけどどうしてプイっと顔を逸らしたんだい? そんなことされちゃうとお兄ちゃん寂しいぞ~。
「コーイチさんは凄いですね。私は賢者の称号をいただいているので礼節などは免責なのですが、大貴族を前にしても普段通りに居られるなんて。」
「あっ! な、なにかマズかったかな?!」
そうだよコレ普通に不敬じゃん! しまったな……これが原因で虐められなきゃ良いけど……。ホントにごめんプリシラ! 僕が足を引っ張る形になっちゃったかも!
オロオロしだした僕を見て、タバサさんはくすりと笑った。
「どうかしたの?」
「ふふっ、いいえ。さ、私たちも入学式の会場に行きましょうか。」
「あ、ああ、そうだね。」
そうして僕たちは会場へと向かう。
心の中でプリシラの学校生活を祈りながら。そしてこの一歩が、後に大魔導士となるプリシラのスタート地点となるのだった。
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