第8話 むっつりスケベとの出会い

 ここはサクスシェード公国首都シェード。王宮の最奥にある秘密の一室は、何を隠そう私の聖域。もとい自室。

 私は長い眠りから覚めたような気がして、ベッドから起き上がると心配そうな顔をしたロベルトが横に居た。話を聞くに、私は魔竜に乗っ取られていたみたいで随分と苦労を掛けてしまったらしい。特にサミュエルたちには借りが出来てしまった。

 起きてすぐに応接間で待つサミュエルらと会うことにした。


 ……そこで私は、彼と出会った。


 見たことのない異国人風の青年。俗な言い方をすれば、もうめっちゃタイプだった。

 私は幼馴染であるサミュエルを除けば男子とまともに話せた例がない。ロベルトは歳が歳だし勿論平気。でも年ごろの男子ってだけで恥ずかしくなってしまう。そんな私の前に現れた、彼。


「彼らには感謝ですな。我らとエンシェントドラゴンの争いに発展してしまっていたらこの国もどうなっていたか……」


 ロベルトの言う通り、間違いなく隣に国のような末路だろう。だから真っ先に感謝を述べるのが正解。

 しかし私の頭には、もう別のことが浮かんで離れなかった。苦節24年、母親にも「処女膜腐るぞ」なんて暴言吐かれるほど男日照りな私に訪れた運命の出会い。


「陛下、こちらが件の冒険者であり此度の立役者、コーイチ・マダラメ殿であります。」

「は、はじめまして、コーイチ・マダラメです。」


 コーイチ様っていうお名前なのね……!

 困ったことにモロ好みのど真ん中。何と言うか言い方は悪いけど普通っぽいところが特にイイ! 愛おしいくらいのモブっぽさ! 私が好きな物語(18禁)に出てくるキャラみたいで……しかもなんか小さいドラゴンを胸に抱えてて激萌えなんですけど!

 でも待って、落ち着くのよ私……先日しくじった隣国の王子とのお見合いと同じ轍を踏むわけにはいかない! あの時は終始どもって挨拶すら満足に出来なかった。ここはビシッとクールに決めなくては!

 あの物語(18禁)の主人公はこういう時、笑顔を絶やさずにしていた! だから……


「……は、ははっはは、はじめまして、わ、わたくし、ミエリッキと申しまふ……どぅふふふ~……」


 し、しまったーーーーーー!! 無理したら変な笑い方に……!! チラッとサミュエルたちを覗き見るとため息ついて完全に呆れてしまっている……。だって仕方ないでしょ! 私は産まれてから24年間彼氏も出来ずにタバサとは別の意味で賢者一直線なんだから!


「……ごほんっ、コーイチ殿は特殊なスキルをお持ちだとか。どうでしょう、我が国の騎士になる気はございませんかな?」


 ナイスフォロー! 流石は宰相よ!


「いえ、僕は……」

「ロベルトさんダメっすよ! うち等のパーティーメンバー引き抜いたら!」

「え、俺パーティーメンバーだったの?!」

「当然だろう! もう我らは一蓮托生だぞコーイチ殿!」

「え~……」


 こういう巻き込まれ体質っぽいところがまた好み!! ホントあのキャラそっくりじゃない!! こういうタイプは夜に乱れやすいと本(18禁)で見た!! それにこんな物語みたいな、王子様がお姫様を助ける的な……まさに運命的な出会い! これを何としてもモノにしないと……もうお母様に処女を揶揄われるのはうんざりなの!


「ふ~っ、ふ~っ……!」

「あの、どうかされましたか? 呼吸が荒いようですが…」


 でも落ち着け……私はいつも初対面の時に失敗するんだ! こういう時はまずは趣味から攻めるべき? いや、それじゃ普通過ぎる。その戦法で私はずっと失敗を重ねてきたのを忘れたの? だったらまずは強烈なインパクトを与えて私と言う人間をアピールする!

 そういえばこの間読んだ本(18禁)の最後のページに『実のところ男はヤリマンに弱い! ビッチっぷりをアピールしてメロメロにしてしまおう! 魁☆恋愛塾の応募先は……』こんなことが書いてあったはず。ならば!!


「こ、コーイチ様!!」

「は、はい?」

「や ら な い か」


 YES! This is ドン引き!

 って馬鹿か私は!! 彼の顔が劇画タッチになっちゃったじゃないの!! もう駄目……怖くて顔を上げられない。私は蹲って顔を覆った。


「ミエリッキ、それは無いわ。」

「無いな。」

「無しです。」

「あり得ん。」


 呆れ顔の幼馴染一同と見ず知らずの少女が追い打ちをかける。もういっそのこと殺して!


「コーイチ殿、どうか誤解されないようにお願いしたいのですが、王は少々変わったところもございますがこれでいて良きお人なのです。」

「ええ、それは私も保証します。」

「ロベルト……タバサ……!」


 私は顔をあげた。


「や~いこのスケベ女王~!」

「んぎゃああああああああああっ!!! 殺せよぉ!! もう一思いに殺しておくれよぉ!!」


 これが、私とコーイチ様の出会いでした。忘れたくても忘れられない出会い。それがまさか、近い将来、人々が羨むような仲睦まじい夫婦になろうなんて、この時は誰も思っていませんでした。


「オイ、勝手に綺麗なナレーション心の中で入れるでないわ。」

「心の中くらい許してよっ!!」


 とほほ……。

 私の春はどうやら、まだまだ先のようです。結局私は碌な挨拶も出来ずに、呆れて退散する彼らを見送るしかなかったのだった。


「はあ~~……。」


 夜、自室に戻った私はもう何度目かもわからないため息をついた。どうして私はこうも失敗ばかりなんだろう。王の仕事にも慣れてきて、最近では政務に滞りがでることが少ない。しかし、だ!性務の方は滞るどころか始まる気配すらない。今日はいけると思ったのにな……。


「もう切り替え切り替え! こういう悶々とした日はドエロイ本で抜きまくるに限る!」


 今日のおかずは……ってあら? 机の上に見慣れない表紙が……何でこれ真っ黒いカバーなんてついてるんだろ? そう言えばタバサたちが「それはコーイチさんからの贈り物です。」って言って何か置いてったような……。

 私はページを捲る。


「!!!!????」


 なにこれエッッッッッッッロ!!!! こんな精巧なエロ本見たことない!! しかもコーイチ様からの贈り物って……何その素敵プレイ!!


「ふおおおおおおおおおおおおおおっ!! これは自家発電が捗るんだっ!!」


 パンツを脱ぎ捨て、ブラを放り投げる。

 1ページ捲るごとにとてつもない快感を与えてくる私の右手。左手は添えるだけ。


「ん゛気持ちいい~~~~~~~~!!」


 因みに、私の部屋の壁が防犯の都合上かなり薄く作られていることを知るのは、それから数年たってからだった。

 殺せよ!! もう一思いに殺せよぉ!!


 ……


 ……


『ショートストーリー:吾輩は竜である。』

 ~マウ~


 吾輩は竜である。名前はまだない。


「キミは……そうだな、魔竜だから……マウだ!」


 名前、ついた。

 竜と言うのは得てして誇り高いものであり、人間に容易く気を許すものではない。


「よ~しよしよし……!」


 だからこうして喉を撫でられても……


「気持ちいいか~?」


 懐に抱かれても……


「お前は本当に可愛いな~! うりうり~」


 こんなのズルいじゃろ!! 普通に懐くわ!! 可愛がり過ぎじゃ!!

 それにこの人間……悔しいがとても食事が美味い。特に夜ご飯の後に出てきたあの“あんみつ”とやら……吾輩の鱗が溶けるかと思ったわ。

 しかし吾輩がこうしてこの人間に好きにされているのは別にご飯に釣られてとか、可愛がってもらって嬉しいからとかでは断じてない。この人間の側にいれば古龍めに手出しをされないし、何より彼奴のおかげで無罪放免となった借りがあるからに他ならない。全ては計算だ。


「マウ~、お風呂入ろ~!」

「ハイなのじゃ~!」


 これは決して甘えた声ではない。吾輩は竜である。いと誇り高き存在。


「背中流すから熱かったら言ってな~?」

「うにゃ~ん……!」


 吾輩は竜である。この人間よりも遥か永く生きた誉れ多き……


「気持ちいいのじゃ~……」

「気持ちいいのじゃ~、ではない!! この戯けが!! 何をそのような甘ったるい声を出しておるか!! 貴様はそれでも竜族の端くれか!!」

「ぴぎゃっ?!」

「こっちに来い! その性根を叩き直してくれる!」

「助けて主殿~~~!!」


 吾輩は、竜である。


 ……


 ……

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