第6話 世界の女性たちに祝福を

 あの後、僕らはエンシェントドラゴンについて、ここサクスシェード公国の貿易主要都市トフロのギルドマスターでありタバサの姉シエナへ報告を行った。こう見えてこの姉、中々食えない人のようで、国王直々の依頼とは言え独自の調査も行っていたようだ。シエナさん曰く、宮殿内でも国王の豹変ぶりが話題になっており時折側近たちの議題にも挙がるそうだ。


「あんたら、ミエリッキ……あ~、今は陛下か。ちょっと陛下に報告のフリして試してみてくれない? もし考えてる通りだったら……そこのドラゴンにお願いすれば何とかなるでしょ。」

「えっ?!」


 ステータスを見た感じはしなかったんだけど何で分かったの?!

 僕らが驚いていると、タバサさんが耳打ちした。……どうでも良いけどやたらとソレしてくるのは何なんだろう。おかげでいい匂いがするのを堪えるのが大変だ。童貞をからかって楽しいのか?


「お姉様は『心眼』のスキルを持っているんです。だからわざわざステータスを見る必要もなくて、その人の目を見れば情報が流れ込んでくるらしくて。」


 何そのチートスキル。


「……見えてしまうのが楽だと思わないことだ。」

「あ……。」


 サミュエルが真面目な顔で言う。確かにその通りだ。見えてしまう情報が必ずしも良い物だとは限らない。もしかしたらこの部屋の惨状は自分のスキルに辟易して片付ける気力が残らないからなのかもしれない。


「あ~、それはあたしの性格だよ。片付けるのが苦手でね~。まあ手が届く範囲に物があった方が楽じゃん。」


 ズッコケた。しかも心まで読まれるとは……恐ろしいスキルだ。


「あと……何だっけ? その子の首輪、どうにかしたいみたいね。」

「ええ、奴隷じゃなくて一人の人間として生きてほしくて。」

「優しいね~。いいよ、あたしに借りがある奴隷商に『解放』をお願いしてみるよ。アイリス、お願い。」

「はい。ではそのように。」


 受付嬢さんアイリスって名前だったんだ。アイリスさんは返事をすると眼鏡を直しながら手元の手帳に何かを書き込んでいる。なんか凄い仕事が出来る人みたいでカッコイイ。

 アイリスさんの案内で僕の冒険者登録もサクッと済み、諸々の説明を受けた。どうやらランクという物があって、最初はFから始まり依頼達成率や達成数、貢献度などでランクアップしていく。最高ランクのSは今はサミュエルら勇者のパーティーと西方に二人いるだけだそうだ。ヴェテルの話していた通り、一ヶ月サボると登録は抹消。再登録には銀貨10枚かかってしまうらしい。


「銀貨10枚ってどれくらい?」

「ん~、ゴブリンの首一つで銅貨5枚だったから……20匹分?」


 いやゴブリンの首で例えられても分かんねぇよ。


「多分、一般のご家庭なら一週間分の食費にあたるかと。」


 なるほど……てことは大体1万円くらいか。って高っ!!! 違約金1万てマジか!!! 依頼を熟すの忘れないようにしよう。


「さて。じゃあそろそろ行きますか。ここから公国の首都シェードまで馬車なら二日ほどかかりますから。」


 馬車なら、ね。車だから順調にいけば一日で着けるかな。奴隷商もシェードに居るらしいからシエナさんからの手紙を預かって僕らは立ち上がる。

 皆が順々に部屋から出る中、シエナさんは僕だけを呼び止めた。何だろう、また舐めてとか言い出さないだろうな。


「……ようこそ、あたしらの世界へ。」


 流石、『心眼』使いだ。僕は笑顔で頷くと部屋から出るのだった。

 それから、僕は興味に駆られて街を案内してもらいながら見て回り、この世界の食べ物も初めて口にした。串揚げみたいな物だったが商品名は『シーサーペント揚げ』。名前の雰囲気的にモンスターだろコレ。僕は考えないようにして食べた。美味しかったとは思うけど正直味を感じる余裕はない。


「シーサペ美味ぇ~! 毒霧吐いてくるウネウネした奴とは思えねぇわ~! な、兄貴も気に入っただろ!?」


 それ聞いて気に入るわけねぇだろ。

 武器や防具は持った方が良いと勧められて入った店で色々見てみたけど、このステータスじゃ装備したところでどうしようもない。店主も苦笑いしてたな。だって重すぎて持てないんだから……。小型のナイフとかもあったけど、だったら包丁で十分だ。


「コーイチ殿には私やヴェテル、タバサがついてるんだから心配ないさ!」

「え、ええ、そうですよ! 私たちを剣とか盾だと思ってください!」

「そうだそうだ! クソステータスな兄貴は戦う必要ないってば!」


 気を遣ってくれているのが逆に辛い。だって重くて持ち上がらなった比較的軽めな両手剣をプリシラが片手でブンブン振ってたんだから尚の事辛い。しかもこの魔力では魔法とか絶対無理だし、ホント外は危険がいっぱいだ。やはり僕はインドアに徹しよう。うん。

 それよりさっきから鬱陶しいのは…………


「ねえボク~? ウチらとお茶しない?」


「キミ! 私たちと遊びに行こうよ! 楽しませてあげるからさ~!」


「お願い……先っちょだけ……先っちょだけだから……!」


 ナンパだ。ちょっとタバサさんたちから離れると寄ってくる女性たち。獣の耳が生えていたり、首元が鱗で覆われてたり、尻尾が生えていたりしてるけど、可愛い子がそう声をかけてくれるなんて男としては勿論嬉しい。それは認める。

 でも、元の世界の女性たちの気持ちがちょっと分かってしまった。だって声をかけてくる女の子たちは必ずと言っていいほどチラチラ下の方を見るんだ。その……要するにナニのところを。てか最後の奴に限っては完全にアウトだろ。一生成功しないぞお前。


「アタイの兄貴になんか用か?」


 その度にこうしてヴェテルに助けられている始末だ。

 どうやらこの男女の感覚がほぼ逆転している世界では、僕みたいなタイプは放っておかれないらしい。基本的に元の世界の男性が必ず一度は話す巨乳派か貧乳派かという論争は、この世界の女性でスマート派かマッチョ派かで置き換えられているらしい。まあ元の世界の女性もそういう話はしただろうけど、そのが違う。だってモロ男のそれなんだから。そして僕はどう見ても細身だしインドア派ゆえに色白、尚且つ風貌が街の人々からすると異国人ぽい。

 ……さあ男子諸君は想像してみてほしい。もし君の前にフランス辺りから華奢でひ弱な処女っぽい留学生が現れたとしよう。そして一人キョロキョロと物珍しそうに見て回っている。声をかけたくなるだろう? May I help you? って言っちゃうだろう? つまりはそういう事なんだ。


「コーイチさん! もう……勝手に私たちから離れないでください!」

「すみません……。」

「そうだぞコーイチ殿。もしメス共に攫われでもしたら大変だ。キミのステータスじゃ逃げられまい。」

「はい……。」

「それに悪い奴にスキル見られでもしたらもっと厄介だろうな~。兄貴は家事スキル持ってるから奴隷商に超高値で売れるぜ? それこそ数年は遊んで暮らせるくらいの。」

「マジか。」


 一気にこの世界が怖くなってしまった。元の世界の女性たち……ここまで酷くはないと思うけど、僕はあなた達を心から尊敬します。特に仕事や学校帰りに暗い夜道を一人で帰っているあなた。こんな恐怖の中、あなたたちは残業に勉強にと向き合っていたんですね。元の世界の女性たちに幸多からんことを。

 そんなことを考えているうちに、サミュエルたちの必要雑貨の買い出しも終わり僕らは車へと戻ってきた。道中は心配したタバサさんが左手、右手をプリシラが握り、前をエンシェントドラゴンが歩き、後ろはサミュエルとヴェテルが歩くという鉄壁の要塞状態だ。


「ごしゅじんさま、守る……!」

「そうね! こんな役得……じゃなかった、大役は産まれかけた魔王を封印した時以来よ!」


 いやそんなもんと比べないでおくれよ……。しかも何か言いかけたし。


「馬鹿な奴らめ。我が居るのだから一個大隊が来ても蹴散らすと言うに。」

「エシェット……!」


 やべぇ! エシェット先輩マジかっけぇ! 守ってくれる男性に惚れる女性の気持ちがよく分かる! ロリババアだけど最高にクールだぜ!


「コーイチが攫われでもしてあの美味い料理やらゲームが楽しめんと考えると……待てよ? コーイチ以外の者を絶滅させれば……」

「それは本当にやめてくださいお願いします。」


 ---コーイチは せかいの ききを すくった!---

 僕の中でそんなテロップが表示された気がした。でもこうして守ってくれたんだから晩御飯はちょっと豪勢に行こうかな。負担してもらってばかりじゃ悪いからと高級そうな豚ロース肉(キングボア―とかういう魔物の肉らしい)をサミュエルたちが買ってきてくれたから……


 ~~晩御飯はみんな大好き生姜焼き~~

 ①薄く切った豚ロース(豚バラでも可)にてんぷら粉(小麦粉でもOK)をまぶす!

 ②玉ねぎの薄切りとキャベツの千切りはプリシラにお任せ! ……手だけは切らないようにね!

 ③生姜すりおろし、濃い口醤油、はちみつ、酒、みりんを混ぜたものを器に用意しておく。

 ④熱したフライパンで油を引かずに①の肉を焼く!

 ⑤焼けたかな? くらいで玉ねぎを投入! そしてちょっとだけ焦げ目がつくくらいまで焼く!

 ⑥③で用意しておいたタレを投入! 煮詰まりすぎると濃くなっちゃうのでタレがお肉に満遍なく行き渡ったら完成!

 ⑦千切りしたキャベツとマヨネーズを添えて召し上がれ!


 ~~お味噌汁はやっぱり豚汁~~

 ①豚肉(部位はどこでもOK!)を5mmくらいに切る。

 ②玉ねぎは半分に切ったくし切り、にんじんは小さく半月切りに。絹ごし豆腐も切っておく。

 ③お鍋にごま油を引いて豚肉を炒める。豚バラを使う時は油をしかずでOK!

 ④切っておいた野菜を投入し、油がからまったかなというくらいでお水をIN! だしの素orだしパックもIN!

 ⑤沸騰したら中火で10分くらいおいて、塩、めんつゆ、醤油を入れる。ちょっと薄いけどこれだけでも飲めるな、くらいに!

 ⑥火を止めたらお味噌を投入! 豆腐を入れるので濃いめに!

 ⑦豆腐を入れて沸騰する直前まで火にかけたら完成! お好みで七味や刻んだネギを散らしてね!


 席に着いたら……それじゃあ皆ご一緒に!


「「「いただきま~す!!」」」

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