第3話 スキルの譲渡(くじ引き)
「じゃ~、近くの人からやるよ~。あ、そうそう、スキルを貰った人は先に転移するね~」
そう言う女神(自称)に、ほぼ全員のクラスメートが無言のまま女神(自称)の言葉を従っている。
やっぱりこいつら、何かが可笑しい。
まるで心ここにあらずのような感じ、ぼーっとしている。
佐々木もそう感じているのか、額にしわを作っている。
そして、佐々木の視線が俺に向かってきた。
目が合うと同時に、佐々木はこちらに歩いていく。
「ねえ、柊君、少しいいですか?」
「ああ、何だ?」
「彼ら、可笑しくないですか?」
「そうだな、意識が朦朧している、って感じだな」
「やっぱり、そう思いますか」
「ああ、こいつら、お前があの自称女神と話した途中でこうなっている」
「そうなんですか?」
「ああ、意識がはっきりしたのは、俺とお前、後は、一之宮、月宮、天宮、と竜胆だけだな」
俺がそう言うと佐々木はあの四人に視線を向けてきた。
その視線の先は月宮が一之宮に抱き付きながら不安そうな顔をしている、一之宮はそれをなだめている。
次は天宮に視線を向けると、あいつは他の生徒達と同じく並んでいるながら、何かに考えている。
最後に竜胆はと言うと、壁に背を向けてながら腕組みし、目を閉じている。
………あいつ、寝てねえよな?
「そう、ですか。…………ねえ、柊君、貴方はこの状況をどう思っていますか?」
「………少なくとも、あの自称女神が嘘を付くには見えないな」
「その根拠は?」
「感、としか言えないな、それに」
俺は佐々木に返事しながら壁をコンコンとノックしてみた。
当然、さっきの様な波紋が現れた。
「その波紋を触ってみて」
佐々木は無言で壁にいた波紋に触ってくる。
そして、微妙な表情になっている。
「水ですか?いえ、壁の感触もありますね、それに」
と言って、佐々木はまたさっき彼女が触った場所に触ってくる。
今はもう波紋が残っていない。
「感想は?」
「凹凸の感触が消えますね」
「これを現代技術に再現出来るか?」
「……出来る、と思いますが……」
「……まあそうだな。他の根拠は、俺達は意識を持ったままこの場所に連れてきた、可能と思うか?」
「……私達が知らない方法があるかもしれませんが?」
「この人数で他の場所に連れてきた?」
「……ええ、そうですね、昼間からの大人数の誘拐事件が人目に付きないはずがありませんね」
「それに、もし誘拐だとすると、何の目的だ?たかが生徒を誘拐するメリットはないと思うが?」
「……ドッキリの選は?」
「……無い、とはしてきれないが、規模が大き過ぎると思うぞ、こんな不思議技術を使うまでドッキリする奴はいないと思うがな」
「……そうですね、それに」
と、佐々木はそう言うと、チラッと意識が朦朧しているクラスメートに視線を向けた。
「……演技、には見えませんね」
「ああ、そうだな」
そんな会話しながら状況を探ろうとした時だった。
不意にあの女神(自称)が声をあげる。
「じゃ~、最初の人~、転移するね~、よいっしょっと~」
女神(自称)がそういうと一人の生徒がいきなり消えた。
文字通り、動くでもなく、いきなりさっきの位置から消えていた。
あたりを見回すも、さっきの生徒はいない。
佐々木も探しているんだが、どうやら見つからないらしい。
「……どうやら、あの自称女神の言葉は本当らしいな」
「……そうですね、さすがに転移技術はまだ出来ないと思いますしね」
そう言いながら佐々木は顔を引きつらせている。
けど、何か、ちょっぴり、嬉しそうな顔しているなこいつ。
……気のせい、なのか?
「なあ、佐々木」
「はい、何でしょう」
やっぱり、こいつ、どこか嬉しそうな感じだな。
それに声もどこかうわずっている。
……、かまおかけてみるか。
「お前、ラノベ読んでいるのか?」
「………ラノベですか?」
「ああ、ラノベだ」
「………いえ、読んでいませんね」
「ライトノベルが?」
「………」
あ、黙ってきた。
普通、ラノベは読者以外には口に出せない言語だ。
普通の人ならラノベを知らない、知っているのは、ライトノベルだ。
「で、どう?」
「根拠は?」
「いや、普通に聞いてるだけ何だが、まあそうだな、根拠はお前の状況把握が早すぎる、スキルにも疑問も持たないが、まあ、それはゲームをやる人なら知っているからいいか、次は、お前の質問がテンプレすぎるぞ、何をさせる、帰れるか帰られないか、帰る方法等々、そして最後、あの女神が言ったのは〝とある儀式〟であって〝召喚の儀式〟じゃないぞ」
「……くっ、深く、まさかここでばれるとは思いませんでした」
「……別に隠す事はないだろ、俺、ほぼ毎日教室でラノベを読んでいるし、イジメとかオタク呼ばわれの心配はないと思うぞ、つーか、クっころかそれは、俺、くっを言った奴は初めて見たぞ」
「セクハラですか?」
「いや、すまん」
まあ、確かに佐々木がクッころをやっているならさまになっているなあ。
それにしても、こいつ。
「嬉しそうだな」
「……否定出来ませんね、貴方は嬉しくないですか?」
「……嬉しさが無いといったら嘘になるな、だが、今は今後の事を考えるといっぱいいっぱいだ」
「……そうですね、あちらの人達が友好的な態度を持つかどうかもまだ分かりませんですからね」
「今後頼りになるのはスキルしかないって事だ」
「……仲間には頼りませんですか?」
「……俺にあると思うか?」
「……すみません」
謝るなよ、そこは嘘でも〝あります〟と返事しようよ。
心にダメージを受けながら他の生徒のスキルを観察している。
そして、天宮の番になってきた。
「は~い、じゃ~、次は~、ユウヤくんの番だよ~」
「ああ、わかったよ」
天宮がそう言うと、ガラポンを回してきた。
最初は金色の玉。
「すご~いよ~ユウヤくん!最初からあたりだよ~」
「そ、そうかな」
「うんうん、そうだよ~、え~っと、スキルの名前は【栄光の光】だね~」
「それは、どんなスキルだい?」
「スキルの説明は後でいいよ~、次回して回して~」
「……わかったよ」
次は黒の玉だった。
「え~っと、スキルの名前は~【剣聖】、わ~!すご~い!勇者のスキルセットを手に入れたよ~、ユウヤくんおめでとう!」
「あ、ああ、ありがとう」
「ユウヤくんの番は終わり~、転移させるね~、いってらっしゃい~」
女神はそう言って天宮を転移させた。
「じゃ~、次はサクラちゃんね~、ほら回して回して~」
「が、頑張ります!」
「うんうん、頑張って~」
なんかこの二人、気が合いそうな気がするなあ。
というか、くじ引きに何をどうやって頑張ってくれと?
「えい」
何ともまあ、可愛らしい声をあげながらガラポンを回していく。
で、でたのは金の玉だ。
「サクラちゃん頑張ったね~、最初はあたりよ~、ん~っと、スキルの名前は~【天使の癒し】だよ~」
「そ、そうですか、あ、ありがとうございます、えへへ」
……ぴったりのスキルだな。
「ぴったりのスキルですね」
どうやら佐々木も同意見らしい。
「じゃ~、次回して回して~」
「わ、分かりました、えい」
で、次に出たのは、またもや金の玉だった。
「また当たったよ~、サクラちゃんすご~い!頑張ったね~、え~っと、スキル名は~【結界神】だよ~、すご~い!神系スキルだよ~、大当たりだよ~、パチパチパチ」
「あ、ありがとうございます」
「うんうん、じゃ~、サクラちゃん転移させるね~、いってらっしゃい~」
女神がそう言って月宮を転移させた。
「じゃ~、どんどんいくよ~、次は~、キリノちゃんだよ~、ほら回して回して~」
一之宮は無言でガラポンを回していく。
顔には〝こいつのテンションには好きあってられん〟とはっきり書いているな、それ。
で、出た玉は黒の玉。
「ん~っと、スキル名は~【刀剣召喚】、そこそこ当たりだよ~、じゃ~、次回して回して~」
返事が無いな一之宮。
まあ、いいか。
で、次の玉は金だった。
「は~い、当たりだよ~、え~っと、スキル名は~【加速(極大)】だよ~、これ当たりだね~、じゃ~、キリノちゃんの番は終わり~、転移させるね~、よ~い、え~い」
一之宮は無言のままうなずくとそのまま転移させられた。
次は竜胆だ。
「じゃ~、タクマくんが次よ~、ほら回して回して~」
「……了解」
で、竜胆は黒と金だった。
一つは【影の道】ともう一つは【振動支配】。
竜胆もそのまま転移させられている。
「次は柊君でいいのですか?」
「いや、佐々木が先でいい、俺は最後で構わない」
「……分かりました」
「じゃ~、次は~、マヤちゃんでいいの~?」
「ええ、私が次です、ですがその前に一つ、いいですか?」
「な~に、マヤちゃん?」
「終わった後、柊君の結果を見たいのですが構いませんか?」
「う~ん、いいよ~、マヤちゃんは後でコウスケくんと一緒に転移させるね~、じゃ~回して回して~」
……まあ、当然だよな、全員の同級生のスキルを把握出来るならもっと安心出来るしな。
んで、佐々木の結果は二つともが金だ。
スキル名は【魔道の深淵】と【凍結の魔眼】。
最初は中二っぽい名前のスキルだが、最後のは何か物騒な名前だな。
「は~い、じゃ~、次で最後だよ~、コウスケく~ん」
「ああ、じゃあ、回すぞ」
「い~よ~」
佐々木と女神アリアに見られながらガラポンを回していく。
何か美人二人に見られているというのは、ちょっとむずがゆいな。
っと、最初に出たのは金の玉だ。
「え~っと、スキル名は~【神眼】だよ~、すご~い!神系スキルで一発であたるよ~、ラッキーだね~、コウスケくん」
「ああ、ありがとう、アリアちゃん、じゃあ次行くぞ」
「は~い」
次に出たのは白い玉だが、玉には『2X』が書いている。
「えーっと、これは何だ?アリアちゃん」
「あ~、これはね~、また二回チャンスを回して出来るよ~」
「そりゃすげえな、まさにアリアちゃんがさっき言ったラッキーだな」
「うんうん、じゃ~、チャンスが増えたし~、早く回して回して~」
「了解」
こんな玉もあったのかよ、まあ俺はくじ引きしたことないから、あるかもしれないな。
で、次はまた2X……なんてね、そんな都合のいい話はそうそうにいないだろう。
と、思ったが、本当に出たよ。
「あ~れれ~、また2Xだ~、コウスケくん運がいいね~」
「そ、そうか?まあ確かにそうかも知れないな」
「うんうん、運がいいは良いよ~、また2Xが出てるかもしれないよ~」
「は、はは、それはそれでいいな、まあそんな都合のいい話が何回もしないだろうけどな」
………
………………
………………………
結果、また四回出ました、2Xが。
「た、玉切れでしょうか?」
佐々木がそう言いながら顔を引きつらせていらっしゃる。
「そ、そんなはずはないよ~」
アリアちゃんも顔を引きつらせている。
「と、取りあえず、また回してくるから、次は無いと思うぞ」
はい、また出ました2X。
「………何か、すいません」
「「……………」」
無言、静寂が痛い。
「はー、このままじゃあ、また2Xが出そうなので、アリアさ……ちゃん、2Xの玉を抜き取ればいいのではないでしょうか?」
「う~ん、分かったよ~、でも時間がかかるから~、待っててね~」
「ええ、構いませんよ」
「あ、ああ、頼む」
アリアちゃんが作業中と、ふと思い出したことがある。
同級生の事と俺達の扱いだ。
「なあ、アリアちゃん、少し質問、いいか?」
「作業しながらならいいよ~」
「わかった、じゃあ、地球では俺達の扱いはどうなる?行方不明者としてか?それとも最初からいない者扱いになっているか?」
「う~んっと~、多分行方不明になっているよ~」
佐々木がそれを聞いてホットして、胸を撫で下ろす。
そりゃそうだわな。
「……そうか、分かった、じゃあ、次は、途中ほぼ全員の同級生が意識が朦朧になってきたのは何故だ?」
「あ~、それね~、ほかのみんなが魂の核が足りないからだよ~」
「魂の核、ですか?」
「そうそう~、コウスケくん達六人は何とか意識を持っているけど~、核が足りないと~、意識が朦朧になるよ~…………ん~っしょっと~、は~い、終わりだよ~、さ~、コウスケくん、後十回だよ~、回して回して~」
「そうか、質問に答えてくれてありがとう………分かった、じゃあ、回すぞ」
「また変なものを引いてないでください、柊君」
「いや、それ、俺のせいじゃないよな?」
………
………………
………………………
結果は九回回して、出たのは全部金だった。
佐々木とアリアちゃんに呆れられた。
いや、これは完全に俺のせいじゃないよな?
はー、まあいい。
で、そのスキルはというと。
【武神】【魔神】【限界突破】【取得経験値10倍化】【技術上達10倍化】【生産神】【状態異常無効】【世界知識】【システムアシスト】、である。
うん、名前から見てもわかる、チートのフルコースだな。
「………最後だな、回すか」
最後のチャンスを回しながら、後ろの痛い視線を受け流す。
美女二人にジト目を受けているというのは、何かに目覚めそうな気がするな。
でも俺は、そちらに足を踏まない、絶対だ!ていうか踏みたくない!
「っと、でた、って、何だこれ?」
「また変なものを引いてましたか?柊君」
「………」
「え~っと~、って!虹の玉じゃな~い!大大当たりだよ~!コウスケく~ん!」
「お、おお、そ、そうか、どんなスキルなんだ?」
「う~んっとね~、これは~、スキルを創る玉だよ~」
「スキルを創る?」
「そうそう~、スキル名、効果、設定等々、自分で創れるよ~、ほんっと~に~、コウスケくんの運の高さは異常過ぎるよ~」
「それを俺に聞かれてもなあ………んで、さっき言ったスキルを創れるっというのは、なんでもありってことでいいんだよな?」
「そうそう~、なんでもいいよ~」
「わかった、じゃあちょっと創ってくるよ」
佐々木は無言、何か呆れられた目で見られるだが。
取りあえず無視だ無視。
さて、スキルを創れるのなら、最初からすでに決まっている。
俺がなんかいもこの展開を妄想し、そして自分のスキルをすでに決めていたからだ。
で、スキル名は【スキル創造】だ。
設定はこれだな。
・思い描いたスキルを創造出来る
・コスト無しでスキルを創造する事が可能
・上限無しでスキルを創造する事が可能
・デメリット無しでスキルを創造する事が可能
っと、これでよしっと。
設定を決めた後、玉は光だし、そして消えた。
「もう終わったの~?」
「ああ、終わったよ、アリアちゃん」
「それで~、何を創ったの~?」
「………言わなきゃダメ?」
「私も気になりますね」
「………【スキル創造】」
「「……………」」
「ねえ、柊君」
「何でしょうか?」
「自重って言う言葉、知っていますか?」
「コウスケくん、それはないよ~」
「………」
自重?何それおいしいの?
っと言いたいところだが、これは必要なスキルだから。
勘弁しておくれ、佐々木の姉御。
「はー、まあいいでしょう、貴方が何かの考えがあると信じてみましょう」
「忝いでござる」
「う~ん、コウスケの後の事が気になってきたよ~、後でちょくちょく見守ってあげるから~、異世界ライフ、頑張ってね~、マヤちゃん、コウスケ、じゃ~転移させるね~、またね~」
アリアちゃんがそう言うと、俺達二人はまたもや見知らぬ場所に立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます