第7話 覚悟
「はあ、はあ、はあ……しののめ……東雲キョウカの部屋はどこですか?」
「ご本人さまとはどのような関係ですか?」
病院の静かなエントランスで、僕は場違いに声を荒げていた。完全に我を忘れていた。
「し、親友です……」
「分かりました。し、東雲さまですね。少々お待ち下さい」
早く、頼む、急いでくれ、間に合ってくれ……。
なぜか嫌な胸騒ぎがする。
「先程、搬送された東雲キョウカさまですよね?」
「そ、そうです……」
「現在、救急病棟の513号室です。左のエレベーターから案内に従ってお進み下さい」
救急病棟?
何かの事故なのか? でも家に救急車が来てたってことは何かの病気?
エレベーターを上がって案内通りに進むと、病室の前でキョウカのお母さんが泣いていた。
「こ、こんにちは」
「あら、アセイくん? キョウカのために……来てくれたの?」
「はい、たまたま救急車を見かけて。勝手に押しかけてすみません」
「そんなことないわ。ありがとう」
そこで会話は終わった。
キョウカのお母さんが腰掛けているイスの隣で僕はただ呆然と立ち尽くしていた。
どのくらいの間、ここにいたのだろう。
目の前の扉からは機械の音と何かの会話が少し漏れているだけで、向こう側で何が起きているのか知ることはできない。
僕には分からない世界で、知る権利すらないのかもしれないけれど……。
そんな考えが堂々巡りになっているとき、扉は開いた。
「キョウカさんのお母さんですか。ちょっといいですか?」
「は、はい……」
「ではこちらの部屋へ」
神妙な顔をした先生は扉から出てくると、キョウカのお母さんは別室へと連れていかれた。
くそ……僕は何もできずに余命が尽きるを待つだけなのか? 何もできずに……。
余命? 残り……。
そうだ。
一か八かだけど、やってみるしかない。
僕はすぐに病院を出た。そして、狐のお守りに触れる。
ぐっ。
体全体に衝撃が走る。
頼む、あの狐と話がしたいんだ。だから頼む……。
もう一度触れる。
うっ。
僕は何かに突き飛ばされるかのようにして、地面に叩きつけられた。
でも、僕は絶対に諦めない。キョウカは今も苦しみながら、1人で戦ってる……。
例え辛いときでも、あいつは弱音を吐かなかった。
なのに、僕が今痛がってても何も変えられない。
もう一度、もう一度チャンスをくれよ!
頼みがあるんだ。だから——。
*
「どないしたんどすか? そないに恐い顔して」
気がつくと薄暗く無機質な空気が漂う、神社に僕と狐面の少年はいた。
「僕の一生のお願いを聞いてほしいんだ……」
「やっぱし自分の余命を悟ってる人の発言には、凄みがあるんやね」
「からかわないでくれ、僕は本気なんだ」
「からかってへんどすえ。アセイはんの気持ちは十分に伝わってますさかい……」
「でも……! これしか方法はないんだ」
「ほんまにええんどすか?」
アセイはんの残りの寿命を全部使うても。
もちろん僕は本気だ。
僕はどのみち今日中に死ぬ……。
どうせ死ぬなら大切な人のために、この命を燃やしたい。
「念のために確認だけど、僕の残りの寿命を全て使ったらキョウカを治せるか?」
「治せへん言うたら嘘になるなあ」
今もキョウカは苦しんでる。
時間がないんだ。
「……そうか、では……お願い、します」
「アセイはんが、そこまで言うなら」
「ありがとう」
「お礼は全部終わった後にしておくれやす。ほな行きますえ!」
狐面の少年は拳を天に掲げ、パチンと指を鳴らすと、空間は歪み本殿の扉が開いた。
すると、賽銭箱や狛犬の像、鳥居を含め、周りを覆っていた闇でさえ、螺旋を描くようにして本殿の中へ吸い込まれていった。
そこから僕の意識は途絶えた——。
あたりは薄暗い無機質な空気だけが漂っている……。
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