第6話 搬送

 僕の最期の学生生活は終了した。

 終礼が済み、他のみんなは徐々に教室から姿を消していく……。


 正直、午後の授業はほとんど覚えていない。ぼうっとして何となくやり過ごしていた。それはあっという間の出来事で。


 当然、授業の内容なんて全く頭に入ってこなかったし、何より僕の前の席いるはずの人がいなくて退屈だった。


 5時限目の中頃から東雲は早退していたらしい。たしかに顔色はあまり良くなかった。


 教室を出て、階段を一段ずつ降りて、靴箱の中から靴を取る。もう、上履きも要らないんだよな……。小さいバッグに収納する。


 バッグはたくさんの私物でパンパンになっている。

 重てえ。夏休み前日の小学生かよ。


 それにしても、これが本当に最期なんだよなあ……。こういうときに限って、何が起こるでもなく平々凡々に1日を終えるんだよな。


 でも、これが僕にとってのいつもの日常であり、自然なことなんだけど。


 何分経ったかは忘れたけど、学校の玄関に反射する夕日を眺めていた。

 さて、そろそろ帰るか……。

 忘れ物とかはないよな——あ、傘。


 そういえば、傘どこに置いてきたっけ?

 家から出るときは大雨だったよな。神社に参拝して、時計見て焦って、走って。


 あ……。神社に置きっ放しだ。


          *


 えーと、たしかこの辺りに……。

 良かった、見つけた。手水舎ちょうずやのところに立て掛けてたのか。

 傘についている水滴をばさばさと払っていると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。救急車のようだ。


 救急車か……。

 この神社の本殿は小高いところに建立されており、周辺を見渡すことができる。

 救急車の動線を何気なく目で追っていると、見覚えのある場所で停まった。


 え? あそこって……。


 東雲は担架で救急車に搬送されていた。

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