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結果的に舌を火傷した。
横着しないできちんと箸を借りればよかったと、食べきった後に少し後悔した。もしかしたら割り箸とかあったかもしれないし。
水道で器の水洗いをする。よく考えたら洗剤もスポンジも持っていない。早く地元に戻ってきたかったとはいえ、ちょっと考え無しだった、もう少しきちんと準備すればよかった。
まあ、今日は後寝るだけだ。必要なものは後日買えばいい。明日からは学校にも行く。そうやって少しずつ普通の生活に戻っていけばいい。幸いにベッドはあるしこのまま――。
「あ、掛布団ないじゃん」
仕方ないので持ってきた衣類を掛布団代わりにして寝た。
朝日の妙なまぶしさで目が覚めた。いまいちすっきりしない気分だが何はともあれ今日は学校に行くのだ。友人と話せば心が幾何か晴れるだろう。
制服や教科書は全て燃えてしまってない。合宿の際持っていた体操着とジャージ、筆記用具、叔母さんからもらったノート。あとエナメルバッグ。しばらくは体操着での登校を許可されてはいるが、このあたりも早めにそろえなければならない。
とりあえず、キャリーケースからぺったんこになったエナメルバッグを取り出し、中に筆記用具とノートを入れる。そしてさっきまで掛布団と化していた体操着とジャージに手早く着替えた。今度美容院です(・)いて(・・)もらいにいかないとなとか考えつつ肩下あたりまで伸びた髪を梳かし、耳の後ろ付近で二つ結びして準備完了とする。朝ごはんは……コンビニで何か買おう。家に何もないし。
家の中をざっくりと見渡し、忘れ物が無いかの確認をする。シンクに昨日肉じゃがが入っていた器が置いてあるのが見える。まだ時間もあるし返していくかと、十和子は器を手に取り、部屋を後にした。
十和子が部屋を出ると、丁度蒼介も部屋を出るところだった。手にゴミ袋を抱えている。蒼介は十和子に気が付くと、にこやかにあいさつをした。
「おう、おはようさん。朝早いんだな」
「今日から学校行くからね。あと、これ返す。昨日は肉じゃがありがとう」
十和子は白い器を蒼介に差し出した。
「ああ。食えたならよかった。つか、昨日の今日でもう学校行くのかよ」
「すでに二週間近く休んでるし、これ以上休むと色々と支障が出るから」
「本当に行けるのかよ。疲れてたり、どっか体調悪いとかないか? 昼飯はあるのか? というか朝飯はちゃんと食ったんだろうな」
「疲れてないし体調もOK。昼は購買があるし朝はコンビニで買ってくよ。というか、心配しすぎだって。そんなに私不安げに見える?」
「なっ……。俺は十和子が何かしら困ってないかと思ってだな……」
「もう高校生なんだから、そこまで子供扱いしなくていいって。全く蒼ちゃんは昔から……」
そこで一瞬会話が止まった。
昔から、そう昔からだ。具体的には十和子が幼稚園生ぐらいの頃から。蒼介はここに住んでいた。だからすでに10年ほどの付き合いになるのだが、まるで年を取っているように見えない。未だに20代前半くらいにしか見えない。下手をすりゃ、私と同い年くらいに見えるかもしれない。
十和子は何の気なしに聞いた。
「……そういえば蒼ちゃんって年いくつ?」
「なにそれセクハラ?」
蒼介は苦笑いをしていた。
「いや、ただ全然老けないなと思って。羨ましい」
「そうか。じゃあ今度若さを保つ秘訣でも教えようか」
「あはは。何かやってることあるんだ。気になるー」
「そのうちな。とりあえず学校行きな」
「あ、やば、時間が」
言いながら、十和子はカンカンと階段を下りていく。復帰初日から遅刻とか嫌すぎる。エネルギーの足りてない体をフル回転させ、高校へ向けて急ぐ。
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