1-2

 キャリーケースを両手で持ち上げ、錆びたトタンの階段をカンカンと上がっていく。二階にたどり着いたとき、奥から二番目のドアがガチャリと空いた。ドアの裏からそこそこガタイのいい男が顔を出した。

「と、十和子……。大変だったって聞いたぞ。お前もう大丈夫なのかよ。というか、ここに住むって本気なのか」

 十和子は歩みを止めずにそちらを一瞥した後、出来る限り淡々と答えた。

「それは、まあ、住む場所もうないし、いつまでも親戚の家にお世話になっているわけにはいかないから。一番奥の、蒼ちゃんの隣に住むから。よろしく」

蒼ちゃんと呼ばれた男は短い黒髪をガシガシと掻きながら困った様な顔になった。

「まじか~。今どき高校生で一人暮らしかよ……。この辺最近物騒だし危険なんじゃないのか? ただでさえ女の子だしストーカーとかの被害にも合うかも。あ、それよりも飯はちゃんと食ったか? 一応昼に作った物残ってんだけど。それと……」

「もう! 大丈夫だっての!」

 そういいながら十和子は乱暴にドアに鍵をねじ込み回すと、勢いよくドアを開けて部屋の中に入ってしまった。寒空の下、男一人がぽつんと残される。

彼はばつの悪そうな顔をしながら、

「それと蒼ちゃんじゃなくて、せめて蒼介って呼んでほしいんだけどなぁ」

と、ひとりごちた。

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