226. 好きな、人/やつ/子 3/3(慶次)
お風呂に入ったあと、トランプをしながらお喋りしていた。
解散して眠るように、と
「ショウ」
数時間前に、胸に引っかかったこと。それを思いだした瞬間だった――。
一月。一護から、話したいことがある、と電話がかかってきた。僕の家の近くまで
四日後。会える日と、
泊まりは、菖蒲ちゃんとの約束だ。
一護からの電話のときに、菖蒲ちゃんともお喋りした。
「懐かしいな。また泊まりに行ってもいいか、お父様に聞いてみる」
どうかな? とは聞かずに一方的に決めた。菖蒲ちゃんだけだったら、泊まりに行きたいとは言えないけど、一護に茂もいる。菖蒲ちゃんは、私も聞いてみる、と話に乗ってくれた。
一護は、
「なら、話は泊まりに来たときに。そっちに行くのは、また今度にするよ」
行きたくて、
そして、今日――三泊四日のお泊り会初日。湖月邸に着いて、二時間後。一護の『話したいこと』の内容が明らかになった。
電話があってから今日までの間、予想していた。
話ってなんだろ? 菖蒲ちゃんのことなら、一加ちゃんが何か言うだろうし。一護自身のことだよね? 一護に好きな子か、恋人ができた? お茶会で、女の子と楽しそうに喋ってたし。でも、雪なのに、こっちまで来て? そうまでして教えてくれるって、嬉しいけど。……もしかして、僕が菖蒲ちゃんを好きだって一加ちゃんに聞いた? それで、悪いと思って、一護の好きな子を僕にも? ……それともまさか、茂の話? 茂と一加ちゃんの間に何かあった?
だいたい当たっていた。
話を聞いて、共同戦線の不明だった部分がわかった。一加ちゃんが一護から目を離せなかった理由。教えてもらえなかった解除の条件。
「一加はボクのために慶次の気持ちを利用した」
一護は謝ってくれた。
菖蒲ちゃんとのお喋りを妨害されたりするのはちょっと――かなり嫌だったけど、共同戦線関係なく邪魔すると言われていた。
「ちゃんと見張っててよ!」そう怒られたりしたけど、菖蒲ちゃんが男の子に話しかけたこと、かけられたこと――僕の知らなかったことを教えてもらえた。
利用されたなんて思っていない。利用していたというなら、僕もだ。お互い様だ。
僕の胸に広がったのは、怒りや不満ではなく、感動のようなものだった。
一加ちゃんと一護は、
「僕たちって、似てるね」
一護は、え? と驚いた。
僕が自分の気持ちに気づいたのは兄様に指摘されて。一護は自分で、僕は指摘されて。その差はあるけれど、姉、兄が先に気づいていたという点は同じ。
僕の説明を聞いた一護は、「そうだね!」と真顔で僕の手を両手でガシッと握りしめた。
菖蒲ちゃんに関するルールを決めた。
自分たち以外の情報は共有する、と。
共同戦線を張るから、もとより情報共有はするつもり。大事なのは、自分たちを除くってところ。菖蒲ちゃんとこんなことをした――という報告は、お互いにする必要はないってことだ。
ただし、告白したときと心変わりしたときは、報告することにした。告白は、したあと、結果が出てから。恋人になったか、フラレたかを。心変わりしたときは、気持ちが変わった、とだけ報告する。新しく好きになった子のことは言わなくてもいい。
(――問題なんてないって、思ってたけど……)
一護の話を途中でさえぎるのは悪いと思い、気になったけどそのままにしてしまったことがあった。忘れていた。
(こういうこと……おやすみのキス……とかのことを、言ってたんだ……)
今までどおり――。
『今までどおりやらせてもらう』
『今までどおり過ごそう』
一護はそんなことを言っていた。モヤッとするものがあった。
菖蒲ちゃんと一護はとっても仲良しだ。ふれあうことも多い。
それを見ても、いいな、と思うくらいだった。好きな女の子の手や腕や髪に、男の子がふれているのに。それくらいしか感じずにいた。
姉弟だと思っていたから。
一護にとって、菖蒲ちゃんは一加ちゃんと同じだと聞いていたから。菖蒲ちゃんも、三つ子にしてもらえたと喜んでいたから。
でも、もう、そうは見れない。一護は僕と同じ気持ちだと知ってしまったから。
(……したくないけど、嫉妬……しちゃうな)
ちょっと落ち込む感じ。久しぶりだ。黒羽さんと最後に会ったとき以来。
「慶次くん」
菖蒲ちゃんの隣にいた一加ちゃんが、いつの間にか僕の隣に。コソッと話しかけられた。
「なに?」
一加ちゃんのほうを向かず――菖蒲ちゃんと一護に視線を向けたまま返した。
「お詫びってわけじゃないけど。今回だけだよ。一護が言うから」
「…………え?」
早口で言われたのと、菖蒲ちゃんたちに気を取られていたのとで反応が遅れた。
(どういうこと?)
一加ちゃんに顔を向ける。一加ちゃんは菖蒲ちゃんのほうを向いていた。
「今日はみんなにおやすみのキスしてよ!」
「ええっ!?」
一加ちゃんの言葉に驚いて、大きな声が出てしまった。
「そうだね。せっかくだし。今日だけ、いいんじゃない?」
一護が同調する。
(せっかくって、何がせっかく? ……う、嬉しいけど……)
菖蒲ちゃんに目を向ける。
(こ……とわるよね?)
期待してはいけない。ガッカリするだけだから。
「……みんなに?」
菖蒲ちゃんは、僕たちをグルッと見まわした。
「……いいけど」
(いいの!?)
「一加がするならね。一加がしたら、私もするよ」
「ええ〜。ワタシも〜?」
「私だけはイヤ。なんか恥ずかしい。一加がしないなら、私もしない」
「えー。おじさんにするくせに。……まあ、しょうがないかあ」
肩に重みを感じた。次の瞬間、頬にやわらかい感触。
一加ちゃんが立ち上がるのと同時に、一護が茂の背後にまわり込む。一護は、茂の両肩に手を置いて体重をかけた。
「な、なんだよ!」
「みんな、って言っただろ」
「はあっ!? いいっ! 俺はいいっ! おいっ! 一護、やめろっ! どけっ!」
「茂、動くと口にしちゃうかもしれないよ」
ガチッ――と、茂は固まった。そのすきに一加ちゃんは頬にふれた。
「ショウも今のうちに」
一護が菖蒲ちゃんに声をかける。
「茂くん、ごめんね」
菖蒲ちゃんは、一加ちゃんと反対側の頬にキスをした。
茂はブスッとふくれっ面に。けど、顔――耳まで真っ赤で、照れているとまるわかりで、可笑しくて吹き出してしまった。
「慶次くん、いい?」
菖蒲ちゃんが僕の正面に。
「う、うん」
うつむき、唇を結んだ。
頬に菖蒲ちゃんの……唇の……感触。
カアッと顔が熱くなった。
「慶次、お返しは?」
「えっ?」
一護に顔を向ける。
「ショウにも、おやすみのキス、してあげたら?」
「えっ? 僕……から……?」
思わず菖蒲ちゃんの頬に目を向ける。
「……えっと、一加と……私にもしてくれる?」
「ワタシはパス! ショウだけしてもらいなよ」
「えっ!? 一加もじゃないと――」
「あ、菖蒲ちゃんっ!」
このままだと、チャンスを失う。そう感じて、あわてて菖蒲ちゃんの言葉をさえぎった。
「菖蒲ちゃんだけでも……お返し、して、いい?」
驚いた顔で、パチパチとまばたきをしている菖蒲ちゃんに、もう一度、いい? と聞いた。
「……うん。それじゃ、お願いします」
差し出された頬に、ゆっくりとふれた。
「ありがとう、慶次くん」
にこっと微笑んだ菖蒲ちゃんに、こちらこそ、と平静を装って返す。
(やったー! 嬉しいっ!)
頭の中でバンザイした。
このあと、男だけで集まって、エロ本を見たり、えっちな話をしたりした。そういう予定だったわけじゃなくて、流れで。
共同戦線の話をしている最中。一加ちゃんは菖蒲ちゃんを引き止めるために、一護と茂がエロ本を隠し持っていることを菖蒲ちゃんにバラし、えっちな話もしていることにしていた。そのことを一加ちゃんが一護に報告。そして一護が僕たちに。茂は、「母ちゃんにバレる!」と、しばらくうろたえていた。
二日目は、なんと湖月様に稽古をつけてもらえた。湖月様が剣を持つ姿を見たのは初めてだった。お父様も、
三日目は、雪合戦をした。茂が投げた雪玉が、菖蒲ちゃんの顔面に当たってしまい、茂の味方だった一加ちゃんと一護が手のひらを返し、茂は雪に埋まった。
四日目は、昼食まで――迎えの馬車が来るまでの短い時間だったけど、みんなでいっぱいお喋りした。
菖蒲ちゃんに、頬にキスしてもらえた。菖蒲ちゃんの頬に、キスすることができた。一護と茂と、好きな子の話とえっちな話をしたからか、さらにすっごく仲良くなれた。
最高のお泊り会だった。
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