異世界に転移したサラリーマンの俺、ここで冒険者として活躍する

けろよん

第1話

「なんか帰りたくないな」


 ひょんなことから異世界に転移してきた俺は草原に立ってそう呟いていた。

 朝だるいなあと思いながら出社の道を歩いていたらトラックがいきなり突っ込んできた。気が付いたらこの世界にいた。

 みんなに薦められるままに俺はギルドに登録して冒険者になった。

 異世界の草原ではモンスター達が我が物顔で闊歩している。こいつらを掃除するのが俺の今受けている依頼だ。

 現実世界では十連休が終わってこれから仕事だというのに、異世界なんかに迷い込んでこんなことしている場合かと思うが、もうどうでもよくなってきた。

 現世ではうだつの上がらないサラリーマンだったが、ここでの俺はモンスターだって簡単に倒せる。

 ドラゴンだって一撃だ。


「こんなの初めてかも」

「秒殺かよ!」


 手応えを感じる俺を、一緒に冒険していた周りの奴らが驚いて褒めたたえる。俺は照れながら気を引き締めて依頼をこなしていった。

 つい真面目に仕事に打ち込んでしまうのはサラリーマンの気質だなあと俺は思います。

 依頼はモンスター退治の他にもいろいろあった。俺はとりあえず手当たり次第にいろいろこなしていった。


「犯人はあなたですね?」


 俺は食い逃げの犯人を追い詰め、


「ブラックホールフォーエバー!」


 新しいスキルの開発にも積極的に勤しんだ。

 みんな俺に感謝していた。


「どうしてそんなに優しいの?」


 そう訊かれてつい調子に乗ったことを答えると、


「そういえば似てるわね」


 なんだかどこかの有名人と勘違いされたようだ。貴族の屋敷にお呼ばれされてしまった。

 平凡な俺がこんな華やかな場所に来るなんて緊張してしまう。だが、堂々としよう。こちらの世界の俺はみんなの認める結果を出しているのだから。

 異世界の食事が口に合うかは心配だったが、


「なんだかんだで、饅頭うまい」


 ファンタジーの世界の食べ物もなかなかあなどれない物だ。料理はとても美味しかった。


「緊急メンテナンスなのです」


 良い気分で屋敷を後にすると、何か空から不思議な声がして周囲が暗くなってきた。

 何が起こったのだろうか。こんなことは初めてだった。

 声が言うには何かメンテナンス……が始まったのだろうか。考える時間はあまり無かった。

 気が付くと俺は現実世界にいて頭に不思議な機械を付けてベッドで寝かされていた。

 周囲にいる研究員みたいな奴らは知らない顔では無かった。新世代VRの開発に携わっているうちの社員だった。

 俺は自分でも気が付かないうちにこの新世代VRのテストをさせられていたのだ。

 真面目な俺はまんまとこの何にでも真面目に打ち込む性格を利用されたってわけだ。


「スターダストエモーション!」


 むかついた俺はスキルを放とうとするが、現実世界でそれは出なかった。ただみんなに笑われただけだった。

 真面目な俺はスゴスゴと退散し、今日も真面目に仕事に打ち込むことにする。

 家で待っている女房や子供を養わなければならない。俺は真面目なサラリーマンなのだ。

 いつまでも遊んでいるわけにはいかなかった。

 もうゴールデンウィークは終わったのだから。

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