第41話【溢れる愛情と沢山のありがとう】

 歓声は止み、魔王様のサプライズ大作戦が始まろうとしていた。


『コホンッ……あーあー、マイクティスト↑マイクティスト↑』


『頑張って魔王様、本番ですよ!!――――』


『度重なる練習リハーサルのやり過ぎで、喉の調子悪そうですねぇ……』


 緊張しているのか、オドオドとしている魔王様に部下達は、画面外から小さな声援と大きな信頼を持って見守っている。


 本番と知るや否や、慌ててポケットに入れていた1通の手紙を出し、先程のとぼけ顔とは異なり、真剣な面持ちに丁寧な口調で読み始めた。


『では――――』

【我が娘〝フレデシカへ〟 】


『貴女がこの世にせいを授かり、早40年となりましたね。毎日、色々大変でこんな私達夫婦の元へ、産まれて来てくれて本当にありがとう――――溢れるばかりの愛情と日々の感謝をここへ書きしるすと共に、素敵な贈り物を用意しました……今座っている椅子を調べてください』


 動画はそこで一度止まると、魔王夫婦の真ん中で小さく座る娘フレデシカは、勢いよく椅子から降り、先程まで座っていた木製の椅子を裏返した。

 すると――――白い封筒が付いていたのに気付き、目を輝かせながら封を切り始める。


 それを見かねた【覇将】は、得意のセルフドラムロールを口ずさみ、【竜蔦】と【死死舞】がそれに合わせ、極彩色のスポットライトをフレデシカに向かって浴びせる。


 みな、段々と早くなるリズムにあわせ固唾かたずを飲んで見守る中、ついにその中身の招待が明らかになった。


 フレデシカが天高く掲げた小さな指の先には、何の変哲もないチケットが存在感を漂わせながら、観客の目に飛び込んだ。


『何だろうコレ……ママ上ー!!呼んでみて!!』


 字がまだ読めない娘は首をかしげながら、母親に手渡すとマイクを手に持ち、読んであげることにした。


『もう、この子ったらしょうがないわね。えーっと――――親子三人で行く一泊二日【憎虚憎虚ニコニコ幽怨血ゆうえんち〟!!冒険と絶望が君達をまっているよ!!】……ん!?』


『パパっ……これってもしかして……』


 妃は驚きと目をうるます表情で魔王かげむしゃを見ると、続けてこう言った。


『魔王に就任し、魔界の統治や政治で忙しくて行けなかった新婚旅行を、愛娘と三人で行こうって事なのね!!』


影武者の顔は一瞬だけ引き釣ったが、笑顔でこう答えた。


『今まで君や、娘には苦労をかけたからな……親子水入らずで楽しもう――――』と、震える右手を押さえながらそう答えた。


【母上へ 産んでくれてありがとう】



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