第16話 目的地
パールストーンを手に入れるため、地下道をどんどん進んでいく……と言えればよかったんだけど、なかなかすんなりとはいかない。どうしても俺が足をひっぱっちゃうからね。体力がどうとかよりも、屈んだままでの移動になるから体勢的につらいんだよ、本当に。地下道でイビラが出たらチョウロウは逃げ切れないと思って置いてきたけれど、これ、俺もダメなんじゃないかな。イビラもそれなりの大きさらしいので動きづらいとは思うけど、腰が痛いからスピードが低下するとかいう感じじゃなさそうだし。これは退路の確保を考えて、モグリンに道を拡張してもらいながら進んだ方がいいかもしれない。
というわけで、主に天井を高くする方向でモグリンに拡張してもらうことにした。とはいえっても、モグリンの背丈からいってそのままでは天井の拡張は難しい。魔法だから高さとか関係ないのかと思ったけれど、ある程度距離が近くないと掘れないみたいなんだよね。というわけで隊列を変更して、モグリンには俺の肩の上に移動して貰った。まあ、肩車だね。だけど、モグリンは足が長くないのでちょっぴり不安定。俺の方でしっかりと足を支えてあげないといけない。でも、屈んだ状態で進むよりはだいぶ楽になった。もう穴ではなくて通路という感じになってきているし、きっちりと整備したら地下基地みたいでいいかもしれない。この件が終わったら考えてみよう。
天井拡張のおかげでサクサク移動できるようになった。だけど目的地にはまだまだ到着しない。もう二時間も歩き通しなんですけども。モグリンを肩車してるのですごく疲れるし、すごく暑い。モフモフをこんなにも憎いと思ったのははじめてかもしれない。掘って移動できる距離だからそれほどでもないと考えていたけれど、考えが甘かった。モグリンはすごいね。こんな距離を掘り進めて逃げるなんて、俺には絶対に無理だ。ただ歩くだけでもこんなにヘトヘトなんだから。というわけで、休憩させてください。
モグリンに頼んで周りを小部屋ぐらいに拡張してもらう。せっかくだから食事にしようかな。座り込んで林檎を囓る。妖精たちにも剥いてあげたけれど、ナノは食べもせず俺の方に飛んできて、頭の上に着地した。
なんだろう? 肩車の真似事かな?
そういえばモグリンを肩車しているときにチラチラとこちらを見ていた気がする。ナノは軽いから問題ないんだけど、林檎は食べなくていいのかな。そんなことを考えていると、一瞬、俺の身体を暖かい何かが包み込んだ。気がつけば疲労感が抜けている。
驚く俺の目の前にナノがフワフワと降りてきた。俺の様子を見てニッコリと笑うと、ピコとフェムトの近くに戻って林檎を食べ始める。
もしかして、ナノが魔法が掛けてくれたのかな。疲労回復までできるなんて、本当に優秀だね。頭の上に乗ったのも魔法を使ってくれるためだったのか。……いや、でも傷を回復してくれたときは違ったし、頭の上に乗ったのは肩車のつもりだったのかもしれない。まあ、どっちにしても感謝だね。
一息ついたところで、モグリンに目的地まであとどのくらいか尋ねる。もうそれほど距離はないみたいなので、一安心。あんまり遠いようだと一旦戻って、もっとちゃんと準備をする必要があるからね。だけど、近いならこのまま進もう。ナノのおかげで疲れもすっかりととれたからね。
疲れと言えば、みんなは大丈夫なのかな。気になって視線を巡らせてみる。
妖精トリオはまだまだ元気そう。見た目はか弱そうだけど、タフなのかな。飛んで移動するのも大変なのかなと思ったけれど、疲れた様子はまるでない。
モグリンは途中から俺が肩車をしたとはいえ、ずっと穴を掘っていたはずなのに、こちらも疲労を感じさせない。まあ、穴を掘り進んでイビラから逃げ切ったんだから、当たり前なのかも知れないけどね。
ライムはじっとして動かない……けど、これは疲れているからじゃなくていつも通りぼーっとしてるだけだろう。ナノの魔法で発光したままなのに、よく落ち着いていられるよね。 さて、フィロ様はどうだろうか。そういえば、さっきから一言もしゃべっていない。視線を向けると、フィロ様はうなだれたままピクリとも動いていなかった。
「フ、フィロ様、大丈夫ですか!?」
さすがに三頭身ボディに無理をさせすぎたんだろうか。神様だから大丈夫だと思ったけれど、もっと気を配っておくべきだったかも。大恩あるフィロ様に何かあったら、申し訳ない。 思わず慌ててしまったけれど、そんな心配はまるでなかった。声を掛けた瞬間、フィロ様は電源が入ったかのように、突然動き出した。
「ぬ、なんじゃ? 特に問題なぞないが」
「あ、いえ、少しも動かなかったので……」
「ああ、そういうことか。心配はいらん。スリープモードに入っておっただけじゃ。省エネというやつじゃな」
な、なるほどスリープモードか……。フィロ様は地球の知識が豊富だよね。でも、省エネが必要ってことはエネルギーに不安があるのかな。そもそもフィロ様はどうやって動いてるんだろうか。元は石像だったんだけど、食べ物を食べてエネルギーに変換できるのかな。
「あの、林檎しかないんだけど、食べれますか?」
「おお、すまんの」
林檎を手渡すと、フィロ様はシャクシャクと音を立てて食べ始めた。お腹が空いてたのかな? これでエネルギー補給できるといいんだけど。
「それで、エネルギーは足りますか?」
「む? 食事でもエネルギー補給はできるが、エネルギーの変換効率は悪いのう。この身体はほぼゴーレムのようなものじゃから、基本的には魔力で動いておるんじゃ。まあ、普通のゴーレムと違って儂の本体から特殊なパスを使って魔力補給をしておるから無尽蔵に動けるぞ」
ゴーレムかぁ。そういえば、RPGでもそういう存在はよく出てくるよね。詳細はわからないけど、イメージとしては魔力で動くロボットって感じかな。フィロ様の場合、本体から魔力を遠隔供給しているから、ずっと動けるって事か。ということは疲れもしないし、補給も必要ないんじゃないかな。
「じゃあ、なんで林檎を食べてるんですか?」
「せっかく分体とはいえ、身を降ろしておるんじゃ。物を食べるなんてなかなかないじゃから、食べないともったいないじゃろ」
「……じゃあ、スリープモードは何のためですか? エネルギーは無尽蔵なんですよね」
「うむ。じゃが、スリープ機能があったほうが、メカっぽくてカッコよいじゃろ!」
食い意地が張っていて、地球かぶれってことですね! さすがフィロ様、自由です。まあ、フィロ様も神様業が大変なのかもしれない。息抜きは必要だから、仕方がないね。
「むぅ……。なかなかの言われようじゃな。まあ間違ってはおらんがのう」
「いや、何も言ってないんですけどね」
でも、フィロ様のおかげで、この世界に楽しく生きれるんだから、できるだけ俺もいたわってあげるとしよう。
■
まったりと休憩した後、移動を再開。ほどなくして、白色の壁にぶつかった。ライムグリーンの明かりではわかりにくいが、つやつやとして光沢のある質感だ。どうやら、これがパールストーンらしい。ようやく目的地にたどり着けたようだ。でも、これで終わりではない。どんどん神像を量産しないといけないからね。さあ、早速はじめよう。
跳んだ世界でサバイバル 小龍ろん @dolphin025025
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