第15話 地下探検

 準備を整えて地下探検に向かう。まあ、準備と言っても大したことはないんだけど。非常時の食料として林檎を少々。あと、手頃な木の棒を2、3本。これは杖代わりに使うつもりで、場合によっては製作クラフトで使う素材にすることも考えている。他には植物性の油と、多少の布きれ。明かりは妖精に頼るつもりだけど、もしかしたらはぐれるかも知れないので松明の材料になりそうなものとして持ってきた。他にも使い道はありそうだし。念のために薬草の類いも持っている。といってもこれは完全な気休め。加工していない薬草の効果なんてたかがしれているし、ナノがいれば治癒魔法をかけてもらえる。なので使う機会はないと思うけど、用意しているだけで備えているんだという安心感がちょっぴり増すからね。精神的な効果は馬鹿にできないと思う。


 メンバーは案内役のモグリン、魔法が使えて何かと有能なナノ、ピコ、フェムトの妖精トリオ、どんなときでも沈着冷静なライムにアドバイザーとしてのフィロ様。もちろん、パールストーンを加工するために俺も直接向かう。つまりチョウロウ以外がメンバーというわけだね。

 チョウロウをメンバーから外しているのはもちろん意地悪というわけじゃない。地形的に不利だというのが理由だ。モグリンが掘った穴はモグリンの体格にしてはかなり広めだ。それでも、俺にとっては狭くて多少身をかがめないと移動できない。ましてチョウロウは全長2mの巨体だ。前進するのは問題なくても、途中で方向転換ができない。もし地下でイビラに襲われた場合、転進しようにもチョウロウにつっかえて逃げられなくなってしまう可能性が高い。そういうわけで、チョウロウには今回はメンバーから外れてもらうことになった。もっとも、チョウロウ自身あまり乗り気じゃなかったから、ちょうどよかったとも言えるね。まだ、モーラン族に苦手意識があるようだし、そもそもチョウロウは森については詳しくても地中に関して深い知識があるわけじゃない。付いてきても役に立てそうじゃないと考えているみたいだね。


 今は案内役のモグリンを先頭に、照明係のライムが続いて、その後から俺と妖精トリオ、最後にフィロ様という隊列で地下道を進んでいる。本来なら光の届かない穴の中だけれど、今は薄緑色の明かりで照らされている。妖精の羽が放つほのかな光よりは幾分か強いので、足下に不安はない。発光源はライムの身体そのものなんだけど、自力で光っているわけではなくて、ナノが明かりの魔法を使った結果だ。

 この明かりの魔法は、普通は何かに付与して光らせるみたいなんだけど指向性が強くて広範囲を照らすには向かないみたい。だけど、ライムの身体の内部に向けて光を放つようにすることで、光が乱反射を繰り返してライムの周辺を照らす光源として利用できるようになった。ライムは地下道を這うように移動しているから、ちょうど足下が照らされて便利なんだけど、自分の身体から光があふれていることにライムは問題を感じないんだろうか。いつも通りのマイペースだから、きっと気にしてないんだろうけど。


 地下道は思ったよりも入り組んでいた。真っ直ぐというわけではなく、ところどころ曲がりくねっていたり、分岐したりもしている。モグリンの逃げるために掘ったにしては不自然な感じがしたけれど、どうやら柔らかさが関係しているみたい。モーラン族は発達した腕力と強固な爪で土中を掘り進むことができるんだけど、さすがに岩を簡単に堀り崩すことは難しいようだ。時間が十分にあればできなくはないみたいだけど、逃げているときに時間はかけられない。大きな岩などにぶつかった場合は避けて道を作ったので、分岐やうねった道ができあがったみたいだ。


「モーラン族でも、やっぱり掘り進むのは大変なんだね。というか腕と爪だけでよくこれだけの穴を掘ったよね……」


 周囲は見たまんま穴という感じだけれど崩れそうな様子はない。足下もしっかりと固められていて、土に足を取られて転ぶ心配もなさそうなほどだ。ちょっと感心してしまう。だけどモグリンはピンと来ていないのか、ちらりとこちらを振り向いて「キュウ?」と小首を傾げた。モーラン族にとっては当たり前すぎてよくわかってないのかもしれない。


「さすがにモーラン族でも腕の力だけで掘り進むのは無理じゃ。こうまで見事に穴を掘れるのは魔法も併用しておるからじゃぞ」


 と、フィロ様の解説がはいる。なるほど魔法か。


「土魔法……とかになるんですか?」

「系統としてはその通りじゃな。モーラン族は穴を掘るときに無意識に土の操作を行っておる。掘り出すと同時にその土を使って周囲を圧し固めておるのじゃ」


 なるほどね! たしかに、掘った後に出る大量の土はどうなってるのかなとは思ったんだけど、周りを固めるのに使われているわけか。イビラから逃げ出せるぐらいのスピードで掘って固めてを繰り返して道をつくるんだから、魔法の腕前は相当だよね。と、思ってフィロ様に聞いてみたんだけど……。


「むぅ、なんとも言えんのう。モーラン族の魔法は種族特性のようなものでほぼ無意識に使っているもんじゃ。意識しての魔法行使となるとまた勝手が違うじゃろうからな。まあ土系統に関してならば、間違いなく素質はあると思うぞ」


 特化してるからすごいけど、一般的な魔法を使うのとは違うって事かな? 魔法のことはまだよくわからない。どういう原理なのかさっぱりだからね。生活基盤を整えることが優先だったので、あんまり深く考えてなかったし。この件が落ち着いたら考えてみてもいいかも。もしかしたら、俺も使えるようになるかもしれないよね。今までは魔法が使えるのが妖精しかいなかった。言語の壁があって、教えて貰うのはちょっと難しいかもと思っていたけれど、今ならフィロ様に気軽に聞くことができる。本当に使えるようになるかわからないけど、ちょっと楽しみだね。

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