第14話 対策会議

 フィロ様に頼るとなると託宣オラクルを使うことになるんだけど、なかなか面倒なんだよね。一つ二つの質問ならそれほどでもないけど、何度もやり取りを交わすには向いてないスキルだよ。これはどうにかならないものかな。どうにかしてください、フィロ様!

 どストレートにお願いすると、『一旦、フィロの書を戻すように』という指示がきた。よくはわからないけれども、指示通り閉書クローズでフィロの書を消す。戻すってことは、今はフィロ様のところにあるのかな?


 しばらく待ったけれど何も起こらないので開書オープンでフィロの書を出現させてみた。見た目は特に変わってない。では、中はどうかな?

 なんと、お言葉のページに見覚えのないお札みたいなものが挟まってた。しかも、ページの内容も変わっている。新しい指示だ。手頃な大きさの像を作ってから、このお札を貼れば良いみたい。


 理由はわからないけど、フィロ様が言うのだから何か意味があるのだろう。モデルの指定は特になかったけれど、フィロ様にしておく。フィロ様の像は、拠点の崖沿いにいくつも量産したから慣れた物だ。まあ、製作クラフト使うだけだから慣れも何もないんだけど。

 今回は神気を宿す必要もないと思うのでちょっとアレンジしてみよう。大きさは高さ20cmくらいで三頭身くらいのデフォルメタイプをイメージ。イメージが十分に固まった段階で手近な壁に向かって製作クラフトを唱えると、ポンという軽快な音を立てて石像はできあがった。想像通りで完成度は高いけれど、頭がやたらと大きいのでバランスはちょっと悪い。


 あとは指示通りにお札を貼るだけだ。おでこの辺りに貼り付けると劇的な反応が起こった。石像はペイントしていたわけではないので、当然、もとの石の色をしていた。それがお札を貼った瞬間に色彩が変化して、今ではまるで生きているかのように鮮やかで自然な色合いになっている。それだけではない。すっかり変化してしまった石像は、ひとりでに動き出してお札を『ていっ!』とはぎ取ってしまった。


「ふむ。うまくいったようじゃな。じゃが、なんじゃ? やたらと頭が重いのぅ……」


 しゃべってる! 石像がしゃべってますよ!

 思わず周りのみんなに視線を巡らすと、妖精たちは俺と同じ様に驚いている様子。モグリンは困惑、チョウロウは好奇心かな。ライムは相変わらずのんびりと構えている。

 まあ、ライムはともかく、ほかのみんなの様子から考えると、これは普通の状況ではないと考えてよさそう。異世界においてもファンタジーな現象ってことだね。


 もちろん、状況からして何が起こったのかは予想がつく。フィロ様の指示で起こった現象で、しかも、石像のあの口調ということは――――――


「フィロ様……、ですか?」

「うむ、その通りじゃ。もちろん、本体ではないぞ。分体……というか、単なるコミュニケーション用の端末じゃな。お主の世界にもあったじゃろ。遠隔地で暮らす身内とやり取りをして安否を確認するロボットとかいうやつが。あんな感じじゃ」


 み、見守りロボットかな? すごい気軽な感じで分体を降ろしちゃってようだけど、大丈夫なのかな? まあ、リアルタイムでやり取りできるなら託宣オラクルに比べると格段に便利なのは確かだね。


 俺からすれば便利だなくらいの感覚だったのだけれど、妖精たちにとってはそうではなかったみたい。石像がフィロ様の分体となったとわかると、突然平伏しはじめた。そりゃそうか。あんまり実感ないし、地球の感覚ではピンとこないけど、フィロ様は創造神というとっても偉い神様だもんね。確かに敬ったほうがいいかも。


「いやいや、待て待て。お主まで何をしておる! 花精霊たちよ、お前たちも楽にせよ」

「いや、なんか流れには乗っておこうかと」

「そんなノリでやることではないんじゃぞ、本来」


 跪こうとしたところをフィロ様に止められる。うん、やっぱりフィロ様はフレンドリィな神様みたい。気むずかしい神様だったら、気疲れしちゃうところだったから良かった。


「神には傍若無人な奴もおるからのぅ。本当に気むずかしい奴ならば気疲れではすまんと思うが……。まあ、儂に対してはそれくらいの心持ちでかまんわんがの。お主が無礼なのは今更じゃ」


 あらら、分体でも心の中は筒抜けですね。本当にフィロ様が寛大な神様でよかった。


「ともかく、先ほども言うたが、この儂はあくまで分体というほどのこともない、端末としての役割にすぎん。それ以外には何の力も持たん存在じゃ。皆もそこのスライムのように気軽に構えてくれ」


 フィロ様の説得もあって妖精――花精霊だっけ?――も多少は落ち着いてきたみたいだ。チョウロウやモグリンも態度には出さなかったけれど緊張していたみたいで、今はほっとした雰囲気が流れている。ライムは何の変わりもない。流石だ。


 ちょっと時間を使ったけれど、ようやく対策会議が始められる。手始めにフィロ様に地底の状況と、あの唸る奴らをどうにかしたいと説明する。


「ふむ。イビラか。魔王の僕の中では最下位に位置する存在じゃが、なかなかタフじゃからのぅ。お主が正面から抗するのは難しいじゃろうな」


 イビラっていうのか、あの唸る奴。見たことはないけれど、一番弱っちい奴だったんだね。でも、それでも俺じゃどうにかならないか。どうにかなったとしても、真っ向勝負はしたくないけどね。


「やっぱり、フィロ様の像で払うのが一番かなぁ」

「そうじゃのう。じゃが地下となると、大規模な像は造るのが難しかろう」


 そうなんだよね……。外にある巨大フィロ様像は高さ5m。それでも、周囲50mの邪気払いしかできない。地下がどの程度広がっているのかしらないけれど、巨像で地下全体の安全を確保するのは難しそう。あと、地中に手頃な石材があるかどうかも問題だよね。たぶん、土でも像は造れるけど簡単に崩壊しちゃいそうだからなぁ。


「もっと邪気払いの効果が高いものってないんですか」

「むぅ。自分で言うのもなんじゃが、儂の姿形は神気を宿す上でもっとも効率のよい形状じゃぞ。造形という点では、儂の像以上に邪気払いに適した造形はない」


 なるほど。まあ、それはそうかもしれない。この世界で最も神聖な存在だろうからね。でも、形状以外ではもっと適した解はあるってことだよね。


「それでは素材を変えればどうでしょうか」

「それが妥当じゃろうな。この辺りならばアスガルの大樹かパールストーンじゃが……、まあパールストーンじゃな。それならば、ちょうど儂くらいのサイズでも外の像くらいには邪気払いの効果が得られるはずじゃ」


 おお、それはすごい。高さでいえば25分の1のサイズだから、体積的には……とにかくすごい! パールストーンでフィロ様の像を量産すれば地下の安全も確保できそうだね。でも、今のところ見かけたことがないんだよね。


「フィロ様は、そのパールストーンがどこにあるかご存じですか?」

「地下じゃな。ちょうどこの辺りの地下で採掘できるはずじゃぞ」


 パールストーンは虹色の光沢を持つ白い石らしい。モグリンもイビラから逃げるときに見かけたと言っているし、確かあるんだと思う。だけど、地下の安全を確保するために、地下を探検しなくちゃいけないって本末転倒じゃない?


「アスガルの大樹ってのじゃ、ダメなんですか?」


 他の素材候補があるのに、わざわざ危険を冒す必要はないからね。当然の提案だと思うんだけど、フィロ様は首を横に振った。


「アスガルの大樹はファルサの化身。花精霊にとっては神聖にして侵してはならぬ存在じゃ。さすがに切り倒すわけにはいくまい」


 フィロ様の言葉に妖精たちが一斉にコクコクと頷いている。ファルサが何かよくわからないけれど、妖精たちにとって大事な物なのは確かみたい。そういうことなら仕方がないか。


「……わかりました。そういうことなら、モグリンに案内して貰ってパールストーンを確保。それから、像を作って地下の安全を確保していきましょう」


 策……というほどのものではないけれど、方針は決まった。あとはしっかりと準備をして地下探検だね。

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