第13話 地底の異変

 暗くてよくわからないけど、何かモフモフしたものが腕の中に収まっている。なかなかさわり心地がよい。思わず撫で回していると、その何かがキュウキュウと鳴き声を上げた。

 あ、これ、生き物だね。そうだとは思ってたけれど。そういうことなら撫で回すのはやめておこう。気分を害しちゃうかもしれないからね。


 とりあえず、こうも真っ暗じゃ状況もわからない。なんとか元の場所に戻りたいんだけど、それすら大変そう。せめて光源があればいいんだけど。

 そんなことを考えていると、穴の中がわずかに明るくなった。妖精トリオが様子を見に来てくれたみたい。十分な明かりとはいえないけど、少なくとも不用意に身体をぶつける心配はなくなったかな。本当にありがたいね。


 ナノが心配そうに俺の身体をペタペタと触る。彼女の力なんて大したことないんだけど、全身打ち身だらけなので、やはり痛みがある。思わずうめき声が漏れてしまった。

 すると、ナノは『大変!』とでも言うように両手をあげて右往左往した後、俺のおでこに手をかざした。そして、ナノの羽が纏う光が一瞬強くなる。これは妖精たちが魔法を使うときに起きる現象。どうやら、ナノは治癒魔法をかけてくれているみたい。しばらくすると、身体の痛みはすっかりと引いていた。


 治療のお礼をいうと、ナノはエヘンとばかりに胸をはった。後ろではピコとフェムトが拍手をしている。でも、実際すごいことなのかもね。軽い打ち身とはいえ、短時間で完治させたわけだし、そもそも妖精と俺とでは身体の大きさが違いすぎる。ちょっと落ち着きがないけれど、ナノって妖精の中でもかなり優秀なのかもしれない。


 妖精トリオがやってきたおかげで、腕の中のキュウキュウ鳴く生き物の姿が朧気に浮かんできた。予想通り毛の長い獣で、背丈は60cmくらいかな。あんまり強そうじゃないし、このまま連れて帰ることにしよう。もし、拠点の床に穴を開けたのがコイツなら、事情を聞いたり対策を取ったりしないといけないからね。





 拠点に戻るのは大変だったけれど、最終的にライムに土台になってもらって、なんとか穴から這い上がることができた。ちなみにライムは楽々と側面を這って上がってきた。スライムはずるい。


 ともかく、ようやく落ち着くことができた。そして、モフモフの正体もわかった。モーランという種族みたい。毛の長いモグラみたいな感じの見た目をしている。実際のモグラよりもデフォルメされたモグラに近いかな。丸っこくて二足歩行もできるみたいだし。基本的には土の中を住処としているけれど、地上に出てくることもあるので目が退化したりはしていないみたい。主に虫を食べるらしく、チョウロウはちょっとビクビクしてる。でも、モーランは基本的に臆病な生き物なので、明らかにサイズが大きいチョウロウに手を出すことはないと思う。というか。モーランのほうもチョウロウを怖がってる気がする。


 しかし、主食が虫となるとモーランに食べさせるものがない。果物は食べないのかな。一応、柿をむいて差し出してみる。

 モーランはしばらくの間、柿と俺、そしてチョウロウに視線をさまよわせていたけれど、意を決したように柿を食べ始めた。なんだか無言のプレッシャーに負けたような感じにみえたけれどきっと気のせいだろう。少なくとも、柿を食べ物として認識しているようだったので、たぶん大丈夫。あとはこれで友好フレンドシップが発動してくれればいいんだけど……。


 しばらくすると、モーランから喜びの感情が伝わってきた。どうやら友好フレンドシップは無事発動して、共感シンパシィが働き始めたみたい。

 なんだかこんなにおいしい果実は初めてって感動してるみたい。普通の柿だと思うんだけど、どうなんだろう。よくわからない。お腹が空いてたみたいだから、そのせいかもしれないね。


 一心不乱に柿を食べるモーラン。友好フレンドシップが作用したからには名前をつけたいところだね。モグラっぽいからモグリンにしよう。こういうのはインスピレーションが大事。


 モグリンが柿を食べ終えて落ち着くのを待ってから、話を聞いた。まず、拠点の地下に穴を掘って崩落させたのはモグリンで間違いないとのこと。もちろん、ここを狙ったわけではなくて、何かから逃げようとして掘り進んでいたところ、拠点にぶつかってしまったみたい。ただの事故ならば仕方がないけれど、再発防止策は取りたいところ。でも、それは拠点のことをモグリンからモーランたちに知らせて貰えば済む話だね。


 問題なのはモグリンを襲った『何か』について。土の中にいるとはいえ、モーランたちに天敵がいないわけじゃないんだけど、今回襲ってきたものはそれらとは別のものらしい。

 話を聞いていくと、その『何か』の正体がなんとなく見えてきた。たぶん、こっちに来た最初の日にナノを追っかけていたアイツらだと思う。うぅうぅ唸る奴だね。

 フィロ様の像を造ったおかげで拠点近くで見かけることはなくなったけれど、同じ時期くらいに地底にあるモーランの里近くで出没するようになったらしい。もしかして、地上に出現できなくなったせいで地底の沸くようになったのかな。だとしたら、ちょっと申し訳ない。


 うぅうぅ唸る奴らは動きが襲いとはいえ、地底という狭い場所にそれなりの数が沸いたら、逃げ場がなくなってしまう。そのせいで、モーランたちは里を捨てて散り散りに逃げることになったようだ。


 フィロ様の像の効果があるので拠点まで這い上がってくることはないと思うけれど、あいつらが地下に巣くってるとなると気分が悪い。あと、地上に出没していた奴らを追い出したせいで地底に沸くようになったのだとしたら、モーランたちに申し訳ない。モグリンと友好関係を結べたのだから、可能なら手をさしのべてあげたいね。それに、うまくモーランたちの協力を取り付けることができたら、地下資源も確保できるかもしれない。そういった事情もあって、地下浄化作戦を決行することにした。とはいえ、今のところ何の策もない。こういう困ったときはフィロ様に助けを求めるに限るね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る