第12話 大穴が空いた
ピコとチョウロウに協力してもらったおかげで、織機は割とあっさりと完成した。もちろん、効率とかを考えるとあまり実用的じゃないんだと思うけど、
「これ、裁断とかしたら分量足りなさそうだなぁ。そもそも裁断するためのハサミがないや」
うっかりしてた。布さえあれば服ができるって単純に考えてたけど、いざ作ろうと思うと色々問題が出てくるね。分量に関しては布を追加で作ればいいんだけど、道具はどうにもならない。金属なしでハサミを作るのは難しいよね。あと、針も。
一応、物は試しと作ってみたものの、やはり石製だと実用的じゃなさそう。石の針は太すぎて、これだと布が穴だらけになっちゃう。ハサミに至っては本来なら別パーツであるはずの二枚の刃が一体化している。単なる模型にすぎないね、これ。さすがに、石で一点を固定するような機構は作れないか。
どうやら、服作りはここまでが限界みたい。しょんぼりだね。でも、最低限の目標は達成しているからいいか。とりあえず、布中央に石のナイフで切れ目を入れる。なかなかうまくいかずにズタズタになっちゃったけど、まあ仕方がない。あとは、できた穴に頭を通せば服っぽくはなる。まあ、頭を通す部分の裂け目が広がっていきそうなので、ちょっと補強は必要かもしれないけど。
とりあえず、試着!
横はピラピラしちゃってるから、適当なツタを腰紐として巻いて完成!
簡素だけど服っぽくなった。なんとなく弥生人っちっく。サバイバル感が出て、ちょっとテンション上がるね。さすがにこれで人前には出れないけど、誰もいないので問題なし。ただ、色が白いと汚れが目立ちそうだから、できれば染色はしたいかな。
服作りが一段落した記念に、夜にはお祝いの会を開いた。まあ、お祝いの会なんていっても、出てくる食事はいつもとほぼ一緒なんだけどね。なんだかんだで仲間が増えてきたので親睦会みたいな感じで楽しみたい。
「布作り成功のお祝いと、仲間たちの協力に感謝して――――――乾杯!」
石製コップを片手に乾杯の挨拶なんかをしてみた。こういうのは苦手だけど、何もなしに始めるのは味気ないからね。ちなみにコップはノユ茶で満たされている。妖精たちがとってきてくれたシロップを入れた甘いお茶だ。最初は違和感があったけど、なかなかいける。妖精たちも気に入っているようで、最近ではシロップをそのまま食べる(飲む?)ことはあまりないみたい。ただ、熱いのは苦手みたいだから、ある程度まとめて作って大きな器で冷ましてある。妖精たちは、自分たち用のコップでそこから掬って飲むという感じ。チョウロウも冷ましたものなら飲めるらしく、平皿に注いだノユ茶をのんびりとなめている。
ちなみに、今日は珍しくライムもいる。お祝いなので顔を出してるんだと思うけど、なかなか律儀だね。今は人型になって柿を食べている。ライムが人型になるときは俺の姿を真似してたんだけど、最近はライムの個性が出てきたのか、ぽやぽやしてそうな少年の姿でいることが多い。無表情というよりはぼんやりとしている印象になってきた。もしかしたら、俺のライムに対する印象が影響しているのかも知れない。狩りしてるとき以外はのんびり屋だと思ってるからね。
マッシュポテトに茹で野菜、焼き魚と果物。決して豪華とはいえないけど、食べ物もなかなか充実してきた。大勢で食事するのはあまり好きじゃなかったけど、こんな風ににぎやかな食事も楽しいね。まあ、大事なのは人数ではなく誰と食事を取るかってことなんだろうけど。なかなか個性的なメンバーだし、人間は俺しかいないけど、こういうのも悪くはないかな。
言葉も通じない――そもそも言葉を発するのは俺だけ――なのにお祝いの会はなかなか盛り上がった。妖精たちはなかなか芸達者だ。もしかして、日頃からこんな風に宴会を開いてるのかもしれないね。身体のあちらこちらから花を出現させる芸は面白かった。魔法ではなく手品の類いみたい。妖精にとっては鉄板ネタみたいだけど、俺からすれば新鮮だ。ただ、そのレベルを俺に期待するのは止めて欲しい。こういうときのために密かにトランプマジックを練習していたというのに、肝心のトランプがない。困ったので口笛で演奏してみると思いのほかウケた。特にフェムトの瞳がキラキラしてる。音楽好きなのかな? 一番気に入ってたのは暴れん坊将軍のテーマだった。なんというミスマッチ。
こっちの世界に来てからは珍しく、暗くなってからも大騒ぎした。とはいっても、日が落ちてから二、三時間といったところかな。地球にいたころに比べると格段に早いけど、周囲は真っ暗だし眠たくなってきた。妖精トリオもときおり舟を漕いでいるし、そろそろお開きかな。片付けができてないけど、それはもう明日にしよう。おやすみ。
■
クケケケケと怪鳥の鳴き声が聞こえる。うん、朝みたいだ。最初の頃はあの鳴き声にもちょっとビビってたけども、今ではただのアラーム代わり。我ながら慣れたもんだね。
目は醒めたものの、まだまだ眠たい。久しぶりにちょっぴり夜更かししたからかな。夜更かしってほどでもないはずだけど、日頃が日頃だからね。
どうしようかな? 特に予定もないし、このまま二度寝でも――そんなことを考えていたらやってくる突然の浮遊感。どうやら、地面が陥没したらしいと認識した瞬間に背中を打ち付けていた。しかも、それだけでは終わらない。坂道になっていたのか身体が転がる転がる。途中、何か柔らかい物を巻き込んだ気がするけども、それでも止まらない。もう何が何だかわからないまま、転がっていき――そして最後に大きな衝撃。どうやら壁か何かにぶつかったみたい。
体中ぶつけたので、とっても痛い。しかも、推定穴の中なので、真っ暗だ。かすかに日が差しているところが落ちてきた穴だろうか。どうにか戻りたいところだけど、なかなか急な坂道だったので難儀しそうだ。でも、まあ、それよりも――この手の中の柔らかい物は一体何かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます