第11話 糸紡ぎ

 せっかくなのでシェルワームにも名前をつけた。その名も『チョウロウ』。シェルワームとしてはかなりの高齢らしいので安直につけちゃいました。いや、凝った名前つけようして滑ったら嫌だしね。

 ちなみに高齢といっても衰えとかはないらしい。大抵のシェルワームは小さいときに天敵に襲われてしまうので、チョウロウくらいまで成長できないみたいだ。以前俺が見かけたシェルワームは1m弱だったので、チョウロウは倍以上ある。1mくらいのシェルワームが一般的らしいのでチョウロウはかなりの特殊個体ってことだね。


 長く生きているせいかチョウロウは虫型魔物にしてはとても賢い。意思伝達も妖精たちに比べて格段にスムーズだ。きちんと言語を介したように通じるので、もしかしたらチョウロウの特殊技能なのかもしれない。


 予期していない友好フレンドシップ発動だったけど、これは幸運だったみたいだね。チョウロウは森に詳しそうだし、頼りにさせてもらおう。妖精も詳しいんだろうけど、意思疎通にちょっと難があるからね。


 糸が欲しいと伝えるとチョウロウはしばらく考えてから、とある方法を教えてくれた。でも、よく聞いてみると、それはピコが教えてくれた方法と同じみたい。この森では一般的な方法なんだって。もしかしたら、妖精のほかにも服を着る習慣のある種族がいるのかもしれないね。

 ただ、その方法で俺の服を作る糸を確保するのは大変だ。代わりになるものが欲しい。なので、こちらから綿花のような植物を知らないかと尋ねてみた。答えは『知っている』。ただし、交換条件としてレゾの葉を要求された。俺も欲しいし、ちょっと栽培を考えてみようかな。妖精たちが協力してくれば、たぶん何とかなると思う。とりあえず、栽培については後で考えるにして、見つけたら渡すと約束した。高いところに葉をつけるわけじゃないから、自分で見つけて食べた方がいいのにと思うけれど、条件がそれだけならこっちとしても都合がいいからね。というわけで、チョウロウに先導してもらって、綿花っぽい植物が生えている場所に向かう。


 チョウロウは芋虫っぽい動きのわりに、結構早い。少なくとも俺が歩く速さくらいなら余裕みたい。むしろ、こっちが気遣われている気がする。乗せてくれるつもりだったらしいし、速さには自信があるのかもしれない。でも、やっぱり、乗るのには不向きだと思う。だって、身体を山状と平状にするっていうのを繰り返しながら進んでいく方法だからね。チョウロウの大きさでそれをやると上下動がすごい。足を引き摺るとかそういうこと以前に、俺だと気持ちがわるくなりそう。だけど、ナノはすっごく楽しそうにしてる。ピコは平静だけど、フェムトは興味があるのかな? ちょっと乗りたそうな気配を感じる。せっかくだから、後で交代してもらえばいいと思うよ。


 その後はとくに何事も起こらず、新たな発見もなく、綿花っぽい植物の元にたどり着いた。植物の名前はコポタン。成長に従って実をつけるんだけど、その実がある程度育つと弾けて綿と種を飛ばすらしい。ただ、想定よりだいぶデカい。背丈が俺の顔くらいまである。まあ、その分、たくさんの綿がとれるので大きい分には問題ない……はず。幸いなことに、弾けた直後の綿が近くを漂っていたので種と一緒に確保。種も手に入れることができたのはうれしいね。できれば拠点近くで育てたい。レゾも数株、根っこごと確保してあるので、こちらも育てよう。





 拠点まで帰ってきて、今はコポタンの綿とにらめっこをしている。コポタンが予想より大きかったので思っていたよりも綿を確保できた。とはいえ、たぶん服を作ったりするには少ないと思う。一応、拠点近くで育ってるつもりだけど、妖精の力を借りても、一日二日で実はつかない。なので、今のうち綿の加工方法を研究しておいた方がいいだろうね。もしかしたら、糸に向かないからもしれないから。


 コポタンの綿はそれなりの量があるとはいえ、一つ一つの実から得た綿は当然分離している。これを一本の糸にするにはどうするればいいのだろう。まあ、繊維を絡めてほどけないようにすればいいと想像はつくんだけど。適当にまぜてれば一つになるかな?

 というわけで綿を集めてワシャワシャと混ぜていく。途中でナノが手伝おうとしてきれたけれど、綿に飲み込まれて大変なことになっていた。さすがに今回は自重してもらおう。

 結構、頑張って綿を混ぜていると分離することなく一体となった綿の塊ができた。あとは捩って糸にすればいい……んだと思う。糸車の構造ってよくわからないけど、たぶん、そんな感じ。


 ともかく紡績機がなければ始まらない。うまく作れるかどうかはわからないけど、そこは試行錯誤すればきっとどうにかなるはず。そんな風に今後のことを考えていたら――ちょっと目を離した隙にチョウロウが綿をモシャモシャ食べていた!


 何してくれるのかな!? お前、さっきレゾの葉を食べたばっかりでしょ!


 あまりの出来事に声も出ない。でも、共感シンパシィのおかげでこちらの気持ちは通じたようだ。しかし、チョウロウはこちらを一瞥しただけで、モシャモシャを止めない! 結局、すべての綿を口に収めてしまった。

 俺が非難の視線を向けると、チョウロウは『ちょっと待て』と思念を飛ばしてくる。どういうことだかわからない。しかし、チョウロウは賢いシェルワームだ。きっと、何か意味があるんだろう。というか、意味がなかったら許さない。


 チョウロウはしばらく口をもごもごさせたあと、ピュッと口から何か飛ばした。いや、飛ばしている。飛ばし続けている。

 これはもしかして、コポタンの綿で作った糸?

 チョウロウの口から出たものなのでちょっと抵抗があったけれど、手にとって確認してみると、細めだけどしっかりとした糸だ。知識がないので推測にすぎないけど、これなら布地作りにも使えるんじゃないだろうか。


 すごい! チョウロウ、グッジョブだ!


 さすがに継続して糸を出すのは疲れるのか、途中で休憩を挟みながらもチョウロウは全ての綿を糸にしてくれた。本当に素晴らしい成果だ。これはもう、チョウロウに糸作りを協力してもらうしかないね。

 俺はとにかくチョウロウを褒めて、レゾの葉を大量に渡すことを約束した。チョウロウは『これくらいは容易いことだ』と思念を飛ばすけれど、誇らしげだ。まさか芋虫のドヤ顔が理解できるようになるなんて思わなかった。異世界はとってもファンタジーです。

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