第10話 糸を探して
衣食住の『衣』を充実させるという目標は定まった物の、正直に言えば方法については見通しがたっていない。服のデザインなんかは問わないにしても、服を作るための布すら確保する当てがないからね。
繊維として思い当たるのは羊毛とか綿とか。あと、麻もか。
そのものズバリな素材がこっちにもあるかどうかはわからないけど、似たようなものはあるんじゃないかな。問題は、この森の中で入手できるか、だけど。あと、入手できたとしても加工法がよくわからないんだよね。羊毛とか綿は、紡いで糸にして織機で布にするっていうのはわかるんだけど、具体的にどうやるのかがわからない。
もちろん、道具と素材があれば
麻に関しては正直、見当がつかない。どうやって布にするの? たぶん、麻の繊維をどうにかするんだと思うんだけど作業工程の想像がつかないよね。
そういえば、妖精たちも服を着てるんだよね。これって自分たちで作ってるのかな? だったら、作り方を教えてもらえればなんとかなるかもしれない。身体のサイズが違い過ぎるから、そのままの方法では難しいかもしれないけどね。でも、ヒントにはなるんじゃないかな。というわけで、服作りについて妖精たちに聞いてみよう。
まず、ナノに聞いてみた。ナノは難しい顔をして考えていたけれど、結局わからなかったようで、がっくしと肩を落として首を横に振った。
いや、そこまで落ち込まなくていいんだけどね。人間だって誰もが作り方を知ってるわけじゃないんだし。それは妖精も同じだろうからね。
フェムトも知らないようで、ふるふると首を振る。だけど、ピコは何か知っているのか、ピンと手を上げた。素晴らしい!
ピコから聞き出したところ、とある樹の樹液が妖精の服の材料になるみたい。その樹は傷をつけると自己修復のために樹液を出すらしいんだけど、その樹液を伸ばしながら絡め取ると糸状になるんだそう。そうなった樹液に、別の植物を絞って得られる汁を塗ると、柔軟で丈夫な糸が作れるとのこと。あとは、人間と同じように織機で布にするみたい。
話を聞いた限りだと、その方法で俺の服を作るのは難しそう。樹液を絡め取る作業はじっくりとやらなきゃいけないらしくって非常に時間がかかるっぽいね。妖精の服を作る分量を取るにもそこそこの時間がかかるって話だから、俺の服だと作るのは大変だ。他に方法がなければ検討するけど、まずは他の素材を探した方がよさそう。
一方、織機は存在するみたいだから、ピコに教えて貰いながらイメージを固めて
まあ、結局のところ、糸となり得る素材を見つけない限りはどうにもならない。今まで探索したところには使えそうな素材はなかったから、探索範囲を広げないといけないなぁ。
■
というわけで、妖精を引き連れて探索に出かけた。ちなみにライムには食料確保をお願いしている。ひとり――というか一匹?――では大変だと思うけど、人手不足だから仕方がないね。まあ、ライムはできる奴なので、黙々と任務を遂行してくれるに違いない。
探索に関しては、今まで探索してきた川沿いと洞穴のある崖沿いではなくて、ちょっとだけ森の奥まったところに分け入ってみようと思う。少し冒険になるけど、新素材発見のためにはやむなしってとこだね。
今のところ、森を探索中にヤバそうな奴に遭遇したことはない。というのも、妖精は森の中をよく知っているみたいで、危険がありそうなときには事前に教えてくれるんだよね。凄腕ガイドってところかな。本当に助かります。
もちろん、すべての生き物を避けるってわけにはいかないので、小動物なんかとは何度も遭遇している。ウサギとかイタチみたいな動物もいるみたい。できれば
小動物より多いのが虫。とにかく虫は多い。小さいのから大きいのまで多種多様。俺は都会っ子というわけではないけど、それでもちょっと苦手。それに虫とかは感染症を媒介しそうで嫌だよね。不思議と今のところ刺されたりとかはないけど。今後もそうだといいんだけど、さすがにそうそう都合良くいくとは思えない。虫除けとかも考えたほうがいいかもね。
そんな風に考えていたら、何か変な気配が。いや、気配なんていう曖昧なものじゃないね。ムシャムシャ音がするし。しかも、近い――というか、ごく近くから音がするよね!
妖精たちが驚いた表情でこちらを見てる。こちら、というか俺の腰あたり……。これは確実に何かいますね。まあ、慌てた様子はないから危険はないと信じたいけど……。
なんだか嫌な予感がするから、あんまり確認したくはないんだけど、そうもいかないよね。仕方がない、覚悟を決めよう!
はい、虫! でっかい虫がいます! 俺がせっかく採取した葉っぱを貪ってます! というかデカすぎでしょ!?
そこにいたのはシェルワームという虫型の魔物。全長は2mくらいあるので、かなりのビッグサイズ。見た目は芋虫っぽいのに、表面はゴツゴツしていてる。何かの幼虫とかではなく、これで成体らしい。
魔物といっても草食で基本的には大人しいみたい。ただ、別の魔物に使役されているシェルワームには好戦的な種類のものもいるとのこと。まあ、こいつは使役されているようには見えないから無害なんだと思う。いや、俺の葉っぱは食べられてしまったけれど。大葉みたいな葉っぱだったから、食材になりそうだったのに……。
まあ、葉っぱ――レゾの葉という――は別に珍しいものじゃないらしいので、そのうちにまた見つかるでしょう。なので、それについてはいいんだけど。
……なんで、お前までついてくるの?
シェルワームは当然という態度で俺たちの後をついてくる。まあ、それもいいや。虫は苦手だけど、こいつにはあまり忌避感がない。付いてくるだけなら、勝手にどうぞ。
だけど、『あの葉っぱはもうないのか? 食べ足りないんだが』っていう意思を伝えてくるのはどうにかなりませんか。あのレゾの葉はお前のために採取したわけじゃないんだよ!
というか、これ、
そういうことなら、連れて行くのは構わない。けれでも、働かざる者は食うべからず。食べたければキリキリと働くが良い! まあ、レゾの葉はもうないけども。
一応、シェルワームもタダ飯食らいはよくないという認識があるのか、うねうねしながら少し考えてから、『仕方がない。乗れ』という意思を飛ばしてきた。
うん、さすがに無理かな!
いくらデカとはいえ、シェルワームの高さは50cmに満たない。俺が乗ったら確実に足を引き摺っちゃうからね。
でも、やる気は買ってあげることにしよう。レゾの葉を見つけたら半分あげようかな。
とりあえず、俺の代わりにナノをシェルワームに乗せてから、探索を再開することにした。
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