第9話 十日間の成果

 森の中に突然転移させられてから十日間が経った。拠点付近の最低限の安全を確保してからは、食材探しを重点に頑張った。ライムが優秀なおかげで、魚を安定確保できることはわかったけれど、それだけで満足することはできないからね。


 拠点の近くを歩き回って、ひたすら解析アナライズ。初日にも手当たり次第に解析アナライズしたつもりだったんだけど、結構見落としがあったみたい。それに加えて、今回は妖精トリオがガイドとしてついてくれるから、見つけにくい素材なんかも教えて貰いながら解析アナライズしていった。その結果、新たに幾つかの食材を見つけることができた。


 まず、見つけたのがノユの木。何の変哲もない低木なんだけど、若葉を乾燥させてから煎じて飲むとおいしい。味は地球のお茶とほぼ一緒。たしか、お茶の木も低木だったし、だいたい同じような種類なのかもしれない。ということは発酵させたら紅茶とかにもできるのかな。そのあたりは難しそうなので手を出すつもりは今のところないけど。とはいえ、妖精が作ってくれたシロップがあるので、いずれは紅茶も作りたいところ。まあ、緑茶に入れてもいいんだけどね。海外とかだと甘い緑茶とかも売ってるみたいだし。


 次に見つけたのはビルノ。まあ、簡単にいえば豆。もっといえば、ほぼ大豆。とりあえず持って帰って茹でて食べてみたところ、大豆に比べるとちょっと苦みがある気がするけど、問題なく食べれた。これ、成熟する前にとれば枝豆みたいに食べれるんだろうか。それに、うまくすれば、もやしも作れるかも知れないね。正直、もやしはあんまり好きではないんだけど、食材不足で食事のバリエーションに飢えてるから、今なら問題なく食べれる気がする。

 カチェは小さめの実をつける植物。妖精が食べるにはいいかなと思いながら解析アナライズしたら、サバイバル生活にはとても貴重なものだった。カチェの実を乾燥させてからすりつぶすと調味料として使えるのだ。もちろん、すでに試食済み。味はちょっと酸味のある胡椒といったところ。胡椒の感覚で使うとちょっと気になるけど、そのうちに慣れるでしょう。ともかく、味のバリエーションが増えたのはありがたい。


 カチェの他にも、調味料になりそうなものは幾つかある。まず、パプロ。実がピーマンみたいなんだけど、ピーマンに比べると辛い。唐辛子ほどではないんだけど、似たような使い方はできるかもしれない。あと、ダンダっていう植物がサトウキビみたいな感じ。ガジガジかじるとほのかに甘い。煮汁をどうにかすると砂糖ができるかもしれないね。正直、知識が乏しいから、これは後回し。


 ポチョは主食になりそう。芋の一種でふかすとおいしい。地球の食材でいうとサツマイモが一番近いけど、甘さはそこほどではない。まあ、地球で食べるサツマイモは品種改良されたものだから、元々はこれくらいなのかもしれないね。


 他にも、茸や野菜も幾つか確保している。本当に一気に食材が増えたね。まだ、肉類に手を出せていないのがちょっと残念。小型動物であれば、魚と同じような方法でライムが捕まえることができるようだけど、狩りの方法が待ち一辺倒なので獲物がかかるのはいつになるかわからないとのこと。さすがに、ライムに掛かる負担が大きすぎるので試してない。そのうちに罠でも作って、仕掛けることにしよう。あと、発見した虫の中に数種類、食用に適するという解析アナライズ結果が出たけれど、それは見てないことにした。他に食べるものがあるのに、わざわざ手を出す必要はないよね。


 食材が増えてきたので、加工方法も色々あったほうがいいと思って、調理道具も幾つか追加で作った。特に重要なのは、かまど。生食できない食べ物も多いからね。

 かまどの素材は、石と土。もちろん、製作クラフトを使ったので一瞬でできあがった。それでも、火をつけるのは人力なので毎回火起こしは大変だ。そんな風に思ってたんだけど、それもすでに解決済み。なんと妖精トリオは魔法が使えたのだ。規模が大きな魔法は使えないみたいなんだけど、それでも十分すぎる。本当にありがたいね。


 妖精が優秀なのはそれだけじゃない。なんと、植物の成長を促す能力を持っているのだ。さすがに、木を植えて即座に果物が成るレベルまで育てるのは無理みたいだけど、成長の早い植物なら、植えてから数日で収穫まで持って行けるみたい。農家のみなさんがうらやましがること間違いなしの能力だね。この能力のおかげで芋は簡単に確保できるようになった。試してないけど、もやしとかも余裕だと思う。


 妖精もライムも本当に優秀だよね。これ、危なかったよ。フィロの書がなかったら、完全にひとり無能状態だった。フィロ様、ありがとうございます!

 もちろん、妖精たちにも感謝を伝えた。ナノは嬉しそうにくるくる踊ってたし、ピコとフェムトも珍しく照れた様子だったね。二人とも今の生活になれてきたのかな。最初はオドオドしてたけど、だいぶ自然体になってきたような気がする。ナノなんて最初から太々しい感じだったのにね。

 もちろんナノの態度に不満があるわけじゃないけどね。むしろ、初対面のときに変に緊張されたままだったら、こっちも気疲れしてただろうから。ナノが大人しかったら調子が狂うし、是非そのままでいて欲しい。

 ライムは相変わらずリアクションが薄い。不定形状態だから、よくわからないのもあるけど。でも、心なしか、いつもよりプルプルが早い気がする。共感シンパシィでは何も伝わってきてないけど、もしかしたらちょっとは喜んでいるのかもしれないね。


 とまあ、現在のところはだいぶ妖精たちに頼るところが大きいんだけど、俺の方も実績の解放によってスキルを獲得したので、少しだけやれることが増えた。

 解放した実績のひとつは【見習い解析者】。図鑑登録数が解放条件なので順当なところだね。獲得したスキルは乾燥ドライ

 もう一方の実績は【見習い料理人】。調理した回数が十回を超えることが解放の条件みたい。でも、魚を焼くとか、果物を切るとかでも調理としてカウントされてるっぽいので、条件は相当緩い。ただ、得られたスキルは素晴らしい。なんと、素材から絶品料理を作り出してくれるスキル、調理クックを獲得することができた。



乾燥【ドライ】

□発動条件□

 素材を目視した状態で、乾燥後をイメージしながら『ドライ』と唱える。

□ 効果 □

 素材を乾燥させる。イメージが適切であれば、意図した程度の乾燥状態となる。


調理【クック】

□発動条件□

 適切な素材、調理環境を用意した状態で、完成後の料理をイメージしながら『クック』と唱える。

□ 効果 □

 イメージした料理ができあがる。



 まず、乾燥ドライは地味だけどかなり助かる。まず、ノユ――まあ、お茶なんだけど、飲むためにはまず乾燥させないといけない。なので、本来は摘んですぐに飲むことはできないんだけど、乾燥ドライがあれば加工に掛かる時間を大幅に短縮できる。調理に使う薪も乾燥させないと使い物にはならないので、かなり活躍するスキルだ。


 調理クックもすごい。製作クラフトもそうだけど、用意された素材で作れない物はやっぱり作れない。でも、可能な限りの高クオリティで作ってくれるみたい。正直、あまり自炊とかしてこなかった俺にはとってもありがたいスキルだね。火加減もそうだけど調味料の分量を間違えないのはありがたい。とりあえず、量さえ確保しておけば、そこから適切な量を消費して料理が完成するので大助かりだ。

 ただ、加熱する料理を作る場合は火のついたかまどが必要だったり、包丁を要しておかないと野菜が均一になってなかったりとちょっと融通がきかないところもあるけどね。


 ちなみに、製作クラフトで料理を作ることはできないみたい。スキルで料理を作るっていう発想がなかったので試してなかったんだけど、調理クックを習得した後に思いついて試してみたら何の反応もなかった。やってることは大差ない気がするんだけどね。この分だと料理以外にも製作クラフトで作れないものはあるかも。


 こんな感じで『食』に関してはだいぶ向上してきた。もちろん、欲を言えばキリがないんだけど、他にもいろいろ改善したいことはあるからこの辺りで妥協しないとね。『住』に関しては、今のところ洞穴でも問題はない。もちろん、困ることは色々あるんだけど、それよりも『衣』の方がよっぽど危機的だからそちらを優先しようと思う。


 突然、転移してきたから当たり前なんだけど、今着ている分しか服がないんだよね。乾燥ドライがあるから、水浴びのついでにザブザブ洗ってもすぐに着ることはできる。だけど、予備がないと困るのは間違いない。それに、森の中を歩くとすぐに引っかけちゃうからダメになるのも早そうなんだよね。今のうちになんとかした方が良いと思う。

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