第8話 食生活の向上を
柵を作るのって大変だね……。作り始めてからそれなりに時間が経過したけれど、進捗はほとんどない。これ、一人でやる作業じゃないや。何より、
まず、木材を確保しないといけないんだけど、どうも
その伐採が本当に大変。伐採には当然道具が必要だけど、用意できる素材で作れる道具といえば石斧くらい。いくらクオリティが高くても石斧は石斧。しかも、斧を振るうのは俺だし。
頑張れば切り倒せないことはないんだけど、すさまじく時間がかかる。一本倒した時点で二本目にチャレンジする気力が萎えたよね。
しかも、
あと、木材って伐採した後、乾燥させないとダメじゃなかったかな。たしか乾燥するときに縮んだり反ったりするんだよね。まあ、ざっくりと柵を作るだけならちょっと歪んでも問題ないかも知れないけど、挫折の言い訳ができちゃうともう動けないよね。
というわけで作戦を変更。柵はいったん諦めて、簡易なバリケードを作ることにしよう。これを住居の入り口に設置する。これなら倒木から確保できた木材で素材が足りるから、それほど時間は掛からないと思う。もちろん、万全の対策とはいかないけど、妥協も必要だね。
太陽が一番高くまで上ったかなというところで簡易バリケードが完成。うん、材料さえ確保できれば
そろそろ昼食にしたいところだけど、妖精たちはどこまで行ったんだろう。果物をとってくるだけなら、こんなに時間がかかるはずないんだけど。と考えていたら、ちょうど帰ってきた。でも、何故か妖精が三人に増えてる……。
先頭でドヤ顔をしているのは昨日から住み着いてる妖精。その後ろに隠れるようにしがみついてるのは男の子と女の子かな。二人は未知の生物と対面して怯えているようにしかみえない。いや、実際そうなんだろうけど。
状況がよくわからないので、ドヤ顔妖精に尋ねると、どうやら後ろの二人は妹と弟みたい。食料確保の途中で偶然出会ったからスカウトとしてきたようだ。ちょうど人手が欲しいと思ったときだったけれど、さすがに妖精じゃ探せる物に限りがあるよね。
あと、ドヤ顔妖精は偶然と思ってるみたいだけど、たぶん妹たちは迷子のキミを探してたんだと思うよ。
まあ、彼らがどうするかはともかく、妖精が増えたので名前をつけないと不便になってきた。もしかしたら、すでに名前があるのかもしれないけど、
姉妖精はナノ。妹はピコ。弟はフェムトと名付けた。勝手に名付けるのは迷惑かもしれないと思ったけれど、姉は嬉しそうにはしゃいでいる。妹と弟は戸惑っているようだけど、不愉快そうにしてるわけではないので良かった。
ついでだからスライムにも名前をつけた。名前はライム。後ろ三文字をとったわけじゃなくって、色がライムグリーンに近かったから。あんまり興味がないのか、反応は特にない。ライムは排泄物以外にはあまり興味を示さないようだ。人だったら完全に変態だね。
さて、食事にしよう。ライムがとってきてくれたのは林檎たくさんに柿ちょっと。ライムは人型状態だと、果物を取るぐらいは簡単にこなしてくれる。動きはちょっと緩慢だけど、結構器用みたいだね。草の鞄を預けておけば、これからも適当に果物を確保してくれそうだ。ちなみに、ライム本人はこの場にはいない。彼は食事と聞くと、ひっそりとトイレに向かっていったからね。あまり深くは考えまい。
林檎は全部、妖精向けに小さめにカットした。石皿に盛られたそれを、ナノがドヤ顔で妹たちに勧めている。運んだのはライムで、切ったのは俺なんだけどね。まあ、もしかしたらおいしそうな林檎を選別したりしたのかもしれないけど。
最初はおそるおそるだったピコもフェムトも林檎を気に入ったようで、今ではニコニコして林檎を頬ばっている。なかなかの食べっぷりだね。自分の取り分がなくなると思ったのか、ナノも慌てて食べ始めた。
林檎なんて探せばいくらでも見つかるのに食べたことなかったのかな。まあ、妖精たちにとっては大きすぎて食べるに食べられなかったのかもしれないね。ナノはこっそり囓ろうとしてたけども。よく自分の大きさくらいある物に囓りつこうとしたよね。
ちなみに妖精たちは、花の蜜を主食としているみたい。今は使い道がないけれど、食材が増えてきたらお願いしてとってきてもらおう。
■
昼食を終えた後はみんなで滝の辺りまでやってきた。理由はもちろん食生活を向上させるため。せめて夕食は果物以外が食べたい。となると最有力候補は魚!
好みで言えば魚より肉なんだけど、狩ったり血抜きしたりはちょっとハードルが高そうだからね。それにちょっと例の方法を試してみたい。川の中にある石に強い衝撃を与えると、近くの魚が気絶して浮かんでくるっていう方法。物語では時々見かけるから興味があったんだけど、試す機会がなかったからね。せっかくの機会なので是非チャレンジしたい。
川の中には大きな石がいくつも転がっている。河原にもたくさんの石が転がっているので、ぶつける石にも事欠かない。なので、早速試してみましょう!
……うん、ダメだこりゃ。何度か試したものの、全く魚が浮かんでこない。泳いでいるのは見かけるので魚がいないわけじゃないんだけど。俺が貧弱すぎるのがダメなんだろうか。それとも、異世界の魚がタフなのか。もしかしたら、根本的にやり方を間違っているのかも知れない。まあ、聞きかじっただけの知識だから仕方がないね。
もちろん、魚を諦めるつもりはないので、どうにかして捕まえないと。手づかみ……はさすがに難しいかな。
ふと、妖精たちに視線を向ければ、みんなポカンとしていた。そりゃそうか。河原に来て、いきなり石を振り回しはじめればそうなるよね。事前に説明しておけばよかった。
遅ればせながら、魚を捕ろうとしていたことを説明した。ナノは自分もやってみるとばかりに手頃な石を探し始めた。ピコとフェムトはそこまで乗り気ではなさそうだったけれど、姉に逆らうつもりはないらしく、石を探すのを手伝っている。
さすがに妖精が持てる小石程度じゃどうにもならないと思うけど、気持ちはありがたい。
一方、ライムは無表情のまま頷くと、身体を人型から不定形に戻した。そして、のそりのそりと川に入っていく。流されてしまわないか心配だったけれど、川底にしっかりと張り付いているのか問題なさそうだった。
ライムは徐々に身体を伸ばして川底に広がっていく。しばらくすると、薄く広がったせいか、ライム色のボディも目立たなくなってきた。油断するとどこにいるのかわからなくなりそうなくらいだ。
ライムは一体何をしようとしているのだろう。よくわからないながらも見守っていると、一匹の魚がライムの身体を横切っていく。その瞬間、ライムは包みこむように魚に襲いかかり、飲み込んでしまった。いつもの緩慢な動きからは考えられないほどの早業だった。妖精たちも思わず、石探しを止めて呆然としていた。そんな周囲に構わず、ライムは河原にもどってくると、ペイっと魚をはき出す。
「あ、ありがとう」
俺がなんとか声を絞り出すと、ライムは一瞬ブルッと身体を震わせて、また川の中に戻っていく。その姿が、寡黙な熟練狩人に重なって見えた。
うん、ライムはつかみ所がないけど、本当に優秀だね。あと、敵対しなくて本当に良かった。
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