第7話 像をつくる

 トイレ騒動でちょっと遅くなってしまったけど、ようやく朝食の用意が整った。本日の献立は林檎と柿のフルーツ二種盛りとなっております。まあ、毎度おなじみですね。妖精は喜んで食べてるけど、俺はちょっと飽きてきたなぁ。デザートでついてくる分にはいいけど、メインがずっと林檎と柿だとつらいよね。とりあえず、昼食は何か別のものを食べたい。


 さて、食べながら考えるのは、妖精とスライムのこと。どちらも人族に友好的とはいえない種族みたい。とくに、スライムは敵対するのが普通らしい。それなのに、俺が出会ったのはどちらも友好的だった。これは偶然だろうか。

 もし、偶然でないとしたら、ほぼ間違いなくフィロの書の影響だと思う。食事中だけど、気になるので確認してみよう。


 開書オープンでフィロの書を出現させて読んでいく。フィロ様のお言葉は前回更新したときのままだ。まあ、これについては予想通り。

 次に『スキルリスト』のページ。ここで早くも変化が見つかった。なんとスキルが二つも増えてる。増えたスキルは友好フレンドシップ共感シンパシィ



友好【フレンドシップ】

□発動条件□

 動物や魔物などに餌を与えることによって確率で発動。

□ 効果 □

 対象生物と友好関係を結べる。友好関係にある生物は、敵対行動をとらなくなり、好意的に接するようになる。ただし、対象の意に沿わない行動を強要することはできない。また、使用者から敵対行動をとると友好関係が解除されることもある。



共感【シンパシィ】

□発動条件□

 常時発動。ただし、明確な効果を発揮するためには対象が近くにいる必要がある。

□ 効果 □

 友好フレンドシップの影響下にある生物の感情・意図がある程度と理解できる。また、逆にスキル使用者の感情・意図も相手にある程度伝わる。



 なるほど。妖精には林檎をあげた。スライムはトイレでぷるぷるしてたから、排泄物が餌になったのかな。それで友好フレンドシップがうまく発動したと。まあ、餌付けに成功したってことだね。あと、妖精やスライムと意思疎通がスムーズにできるのもスキルのおかげみたいだね。こっちは共感シンパシィか。お互いの頭の中が覗かれるような感じで、あんまり歓迎したくない気もするけど、現状ではとても便利だね。それに、今までの感じから伝えようという意志がなければ、それほど思考だだ漏れにはならない気がする。


 妖精たちと仲良くなれた理由はスキルの恩恵で間違いないと思う。でもスキルは何で増えたんだろう。原因として思い当たるのは実績だよね。案の定、新たに【印象が大事】と【友達】の二つが解放されていた。【印象が大事】は解放条件が敵対生物5種と遭遇で、特典が友好フレンドシップの習得。【友達】は解放条件が友好関係にある生物と一定時間ごく近い距離で過ごすこと。特典は共感シンパシィの習得。


 ただ、前回実績を解放したときには頭の中でピロンと音がしたのに、今回はそれがなかった。なんでだろう。昨日は、俺のすぐ隣で妖精が眠っていたから、そのときに【友達】の実績が解放されたのかもしれない。俺も寝てたから、音に気づかなかったのだろう。

 だとしたら、【印象が大事】の方は、妖精が飛び込んで来る前の一眠りで解放されたのかも。ということは、寝ている間に少なくとも5体の敵対生物と接近遭遇していたことになる。石壁のおかげで無事だったけれど、石壁を不審に思うような知能のある生物だったら、大変なことになってたかもしれない。


 やっぱり、早急に安全対策が必要だね。少なくとも柵くらいは作りたい。こりゃ、昼ご飯もフルーツ2種盛りになっちゃうかもなぁ。


 さて、柵はもちろん作るんだけど、できることなら、危ない生き物は近づかないようにしたい。特に、うぅうぅ唸る謎の存在は根源的なところで相容れない気がする。姿さえ確認できていないのに、なぜだかおぞましい存在なのだと感じた。もしかしたら、これは妖精の感情なのかもしれない。でも、俺にとっても、あんまり良い存在ではないのは間違いなさそう。

 友好フレンドシップを使うことも考えたけれど、発動は確率とあったし確実ではない。それに一体と友好的になっても、そのほかに襲われたなら意味がない。あと、人間とか妖精が餌とかだったら、そもそもどうしようもない。


 何か禍々しい存在だったし、魔除けとかで追い払えないかな。魔除けといえばイメージするのは……十字架? でも、十字架ってこっちの世界で意味があるものなのかな。たしか、元はキリストが張り付けられたアレのことだよね。そういう宗教的な背景はこっちじゃ意味がないだろうから、効果のほどは望み薄かな。

 もっとダイレクトに神様の像とかにすればいいかも。神様といえばフィロ様! フィロ様ならきっと力を貸してくれるでしょう。念のために託宣オラクルで確認をとっておこう。偶像は禁止とかだったら怒られるかもしれないし。


 良かった。問題なく許可をもらえました。しかも、効果はあるとのお墨付き。ただ、邪を遠ざけるには相応の神気がいるとか何とか。要は大っきく作らないと効果はないよってことみたい。まあ、石材には困らないし、早速作ってみましょう。


 場所は、住居の近く。滝の側に作ろう。大きさはとりあえず、5mくらいにしておこうかな。そのサイズだと切り出すのは無理だから、崖の一部を彫り出すという感じ。実際に作業すれば途方もなく時間がかかるんだろうけど、製作クラフトならば一瞬で終わらせてくれる。


 こうして、住居近くに荘厳な神像ができあがった。

 うん、荘厳……かな? なんかイメージと違うけど。凜々しいのは凜々しいんだけど、どこからどう見ても幼女像だね。


 フィロ様にお伺いしたところ、神様には定まった姿はないとのこと。とはいえ、信仰する者のイメージとして幾つかの姿が定着してるみたい。その中から、俺のイメージに一番合致する姿が像として形作られたのではとのこと。

 俺、幼女の姿をイメージした覚えはないんだけどな。ただただ尊い存在をイメージしてたはずなのに。たしかに、『のじゃロリ』は尊い存在だけど、そういうことじゃないと思います。でも、最近、のじゃ口調は老婆というより幼女というイメージがこびりついてるのは否定しない。まあ、嫌いじゃないし、良いと思います。


 さて、神像は無事完成したけれど、重要なのは効果のほど。解析アナライズで確認してみる。見事に、『創造神フィロデフィーナの像』という解析結果が出た。フィロ様ってそんな名前だったのか。しかも創造神って一番偉いんじゃないかな?

 魔除け効果もかなりのものみたいで、半径50mに禍々しい存在を寄せ付けないみたい。ただ、野生動物やそれに近い魔物までには効果がないとのこと。柵はやっぱり必要だね。


 ともかく、フィロ様の像のおかげで、この辺りの安全性は格段に向上したはず。せっかくだし、お祈りをしておこう。こっちの作法はしらないし、日本式でいいよね。あ、でも日本式もわかんないや。仏様方式でいいか。祈る気持ちが大事なのです。

 手を合わせていると、妖精やスライムがやってきて真似をしはじめる。意味はわかっていなさそうだったので、神像のありがたさを含めて説明すると、妖精は嬉しそうに謎の踊りを踊り始めた。スライムはよくわからないのか、平常運転でぷるぷるしてる。あ、そういえばスライムには魔除け効果が適用されてないみたい。このスライム限定なのか、それともスライム全体なのかはわからないけど、意図せず追い出すことにならなくて良かった。


 よし。それじゃあ、このまま柵を作ろうかな。ちょっと時間が掛かりそうだから、スライムには食料確保をお願いしたい。できれば水浴びしたあとで。何が食料になるかは妖精に聞けばわかるから。あ、ちゃんと林檎だけじゃなく、柿もとってきてね。

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