第3話 スキルを使ってみる
「
おお、『フィロの書』が見えなくなった! 手に触れてる感じもないし、本当に姿が消えるとかじゃなくて、物理的に存在しなくなったみたい! これはすごいな。どこに行ったんだろう?
確認のために、ちょっとだけ歩いてから呼び出してみよう!
「
おお、出てきた!
けど、受け止め損ねて地面に落ちちゃったよ。ちゃんと手を出してたのに。これ、もしかして左手と右手の中間に出てくるのかな? 毎回、両手で受け止めろってことかぁ。ちょっと面倒くさいな。いや、大した問題じゃないけど、ユーザフレンドリーなフィロ様ならなんとかしてくれるんじゃないかなって思っちゃうよね。人間は欲深い生き物なのです。
でも、地味だけど割と重要なスキルだった。『フィロの書』は結構重いからね。森の中を持って歩くには向かないから助かった。欲を言えばアイテムボックス的なものが欲しかったところだけど。
それにしても、オープン、クローズっていうよりは呼び出しと消去だよね。『フィロの書』って名前だけど、本というよりはゲームのウィンドウって感じなのかなのかも。
次は
あ、もしかして、孤独に耐えられなくなってた時のためのものなのかも。
寂しくなってきたら『フィロ様のありがたいお言葉』で孤独感を癒やすんだね。文章も緩い感じだから深刻な事態を感じさせない効果もありそう。そこまで考えているなんて、さすがフィロ様だよ。
よし、それじゃあ、いざというときの予行練習だ。お言葉のページを開いて……と。さあ、フィロ様、お言葉をお願いします!
「
おお、唱えたとたん文字が滲むように消えていった! それと同時に新しい文章が浮かび上がってる。ちゃんと更新されたみたい。
”アレな文章で悪かったのぅ!
痛い文章でわるかったのぅ!
せっかく若い者向けに言葉を崩してやったというのに!
もうやめる!
後悔しても知らんからな!”
わわわ! フィロ様がご立腹です。
あの緩い感じは、やはりフィロ様の気遣いだった模様。気遣いにはしっかりと感謝したつもりだったのにお怒りのご様子。アレな文章という表現がお気に召さないみたい。おかしい。正直は美徳なはずなのに。
それにしても
というわけで念じ念じ。フィロ様、無力な俺からスキルを取り上げないでくださいっと。そして、
”はぁ~、お主、良い性格しておるのぅ……。
まあ、よい。
気まぐれでも一度は手をさしのべたんじゃ。
多少、無礼があったところで
授けた能力を取り上げたりはせぬよ。
お主の言う痛い文章はやめさせてもらうがのっ!”
おお、良かった。フィロ様は寛大だった。フィロ様、最高!
加護をくれたのがフィロ様でよかったよ。他の神様ならプチッと消されてた可能性もあるし。地球の神話に出てくる神様とか割と狭量だからなぁ。わかっているなら自重しろって話なんだけど、この性格はどうにもならないんだよね。これが俺の個性なんだと思う。個性は大事にしなさいって誰かが言ってたから、このままでいいんだよね! 仕方がない、仕方がない。わはは。
ところで、フィロ様は『気まぐれに手をさしのべた』って言ってるね。ということは何か目的があって呼んだわけじゃないのかな? 気になって
どうやら、そもそも俺を呼んだのはフィロ様じゃないらしいね。時空の歪みを察知して確認したところ、転移したばかりの俺を見つけたってことみたい。おそらく、どこかの国が勇者召喚を試みたけれど何らかの原因で失敗したんじゃないかって話。本来なら召喚者の近くでチート能力を授かった状態で呼び出されるはずが、なかなか危険な森の中に何の能力もなしに転移しちゃったっぽい。なかなかのハードモードですね。
失敗で意味もなく転移させられちゃったのは可哀想だってフィロ様は思ったようで、これは想定通りの転移なんですよって見えるようにフィロの書を用意してくれたみたい。本当にフィロ様は気遣いが細かいよね。まあ、俺が色々と台無しにしちゃってるけども!
何にせよ、特に使命とかないのならありがたいね。もしかしたら、本来の呼び出し元には何かしらあったのかもしれないけど、それは考慮しないでいいでしょう。だって、フィロ様のフォローがなければ間違いなくのたれ死んでただろうし。向こうもそう思ってることでしょう。というわけで、好き勝手生きていいわけです! やっふー!
いろいろ状況がわかったところで、スキルの確認に戻りましょう。あとは、
「
おお、すごい! 全く知らない木のことなのに、知ってた知識を思い出すみたいな感じで情報が出てくる。なるほどなぁ。
この木は『リコルの樹』っていうらしい。真っ直ぐ伸びて、しかも丈夫。建材としては優秀みたいだね。生活拠点を作るときには利用するとよさそう。この近くに人が住んでいるところはないみたいだから、拠点作りは避けて通れないんだよね。まあ、森で生活していく力があるんなら、わざわざ人里に向かう必要性を感じないけども。正直、社会性とかないからね、俺。
まあ、いいや。とにかく
それでは、手当たり次第に
■
結構、歩いたなぁ。食べられる果物も見つけたし。『アポンの実』と『ムディンの実』っていうみたい。見た目は完全に林檎と柿なんだけどね。味もほぼ同じ。現地人と話をする予定もないし、別に林檎と柿でいいよね。ちなみに林檎は『精神の果実』、柿は『生命の果実』っていう別名があるみたい。すっごい大げさ。
そういえば林檎と柿のシーズンっていつだっけ? 林檎はよく覚えてないけど柿は秋ってイメージ。そういえば林檎も台風シーズンのあとくらいだから秋かも。ということは、今の季節は秋なのかな? それにしては紅葉って感じじゃないよね。葉っぱも青々してる。気温も高いし、どっちかというと夏っぽいよね。そもそも四季とかあるのかな。異世界だしよくわかんないね。やっぱり林檎も柿も、それっぽい別の何かなのかもしれない。食べられるなら何でもいいけど。とりあえず、持てる分は確保。
さらに歩くと水が流れるような音が聞こえてきた。もしかして、川かな?
音を頼りにさらに歩くとやっぱり川がありました! 水は本当に大事だからね! 果物からも水分補給できるとはいえ、飲み水が確保できるのは有り難いよ。とくに手当たり次第に『
おっと、フィロ様への改善要求はあとでするとして、早速のどを潤そう。もちろん、飲む前にもしっかり
ふぅ、生き返る……!
川の近くだからか涼しいし、ちょっと休憩しよう。
そういえば、さっき川の水を
とりあえず、『図鑑』に
おお、表示が増えてる! どうやら、【はじめの一歩】という実績を解除したみたいだね。ちょっと詳細を確認してみよう。ふむ、図鑑登録数が50を超えると解除されるのか。お、実績解放の特典があるみたい。特典は……、スキル『
こうやってスキルが増えるのか! なるほどね!
早速、スキルの詳細を確認しましょう!
製作【クラフト】
□発動条件□
素材を用意し、製作したいものを念じながら『クラフト』と唱える。
□ 効果 □
素材が消失し、完成品が出現する。
ええ!? これ、すごくない? 材料さえあれば、技能も時間もなしに物ができるってことだよね。すっごい便利! なんか物作りの喜びとかは全くなくなっちゃいそうだけど、そんなものはサバイバル生活では二の次なのです。余裕ができたら手作業でやればいいんだしね。これは早速、使ってみるしかないでしょう!
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