夏の日・9

 ***



 とは言ったものの、どうやってゼラを乗せようか。

 なにせ怠惰を溶かして遊惰で固めて無精を振りかけた様な奴だ。脱いだ物は脱ぎっぱなし、洗濯は他人おれ任せ、食器は下げない洗わない――ともかく『幽霊探しに行くぞ』なんて言ったところで、『ゼッタイニイヤデス』と返されるに違いない。

 しかしそれは無償タダだったらの話だ。少しばかりの出費は覚悟しなければなるまい。


「ゼラさん、今お時間よろしいでしょうか」


 オデッサさんから出された問題集を前に硬直しているゼラに、下手下手に話しかける。


「ぐぁー⋯⋯数字はニガテなんだよー」


 ちなみに隣ではアルもツンツン頭を抱えていた。

 ゼラは首だけをこちらに向け、俺の顔を見る。


「なんですかいきなり。気持ち悪いです」

「気持ち悪いとか言うなよ⋯⋯ちょっと頼みたい事があるんだ」

「私はいま"かけざん"と戦っているのです。これが解けなければオヤツが遠のくのです。死活問題です」


 問題集を覗き込むと、単純な二桁の掛け算だった。これに頭を悩ませるとか、こいつらの学力はどうなっているんだ。


「可哀想に⋯⋯」

「あわれみの目をやめなさい」

「リンゼルの授業体制も問題ですわねえ。中等部まではどれでもひとつ授業を取れば進学できてしまうんですものね」


 オデッサさんがやってきて、やれやれと言った風に頬に手を当てた。


「よいですか、将来どんな職に就くにせよ、最低限の語学と数学は必要ですよ」

「て言ってもさー、冒険者になりゃいいしー」


 アルは唇を尖らせ、その上にペンを乗せながら器用に抗議する。


「なりません。例えば他の冒険者とパーティを組んだ時など、報酬の配分はどうするのです。計算ができないと、良いようにちょろまかされますよ」

「オレ、そこまでバカじゃねーよー⋯⋯」


 アルを横目に、俺はゼラに耳打ちする。彼女の耳がある頭頂部に向かって。


「それでゼラ、頼み事なんだが⋯⋯」

「さっきも言いましたが、いまいそがしいです」

「それが終わってからでも良いんだ。ちょっと町まで付き合ってくれないか」

「雨が降っているのでいやです」

「いやっ⋯⋯頼む、そこを何とか」


 ゼラは視線を問題集⋯⋯ではなく、机の上を歩く小さな虫に向けて、完全に無視の姿勢だ。くそう、少しはマシになったかと思いきや、こいつはすぐこれだ。


 ――冒険者時代は生活の為に働いていた。学生の今は学園に在籍する為に剣術の授業に出ている。しかしゼラにとって、俺からの頼み事は、この校外学習バカンスを過ごす上で必要ではないのだ。


『必要ない事はやらない』。これがゼラの基本スタンスである。

 しかしここで引き下がる訳にはいかない。あんな人混みの中で、幽霊の歌を追うなんて芸当は、ゼラに頼るしかないのだ。


「帰ったらずっとハンモック使っていいからさ」

「⋯⋯⋯⋯」

「あっそうだ、厨房を借りて久しぶりにパイを焼こうか。お前の好きな虫⋯⋯じゃなくて魚とかたっぷり入れてさ」

「っ。⋯⋯⋯⋯」


 ゼラはピクリと肩を動かしたが、頑として返事をしない。食欲よりも外出の面倒臭さが勝ったらしい。

 結局、どんなにおだててもゼラは首を縦に振らず、日が沈みかけていた事もあり、交渉は翌日以降の持ち越しとなった。



 ***



 さて、寝る前にやる事がある。剣術の修行だ。

 別荘の庭で、カシムさんと向き合い木剣を構える。遠くに聞こえる町の喧騒を背に、木剣を打ち合う音が響く。


「はい、ここまで」


 何合か打ち合い、すっかり辺りが暗くなった頃、俺の木剣が宙を舞い、乾いた音を立てて地面に転がる。そこで本日は終了となった。

 相変わらず敵う気がしない。汗だくになりながら地面に座り込んでいると、カシムさんはにこやかに笑う。


「足運び、姿勢、それから体力は随分と向上しましたな。これならば大人相手でも十分に立ち回れるでしょう」

「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯それでも、サンディさんには敵わないんですよね⋯⋯」

「今のままでは、そうですな。成長の劇薬として師匠の力を借りられればと思いましたが」

「本当に劇薬ですよ。目を焼かれるかと思いました」


 息を整え、カシムさんと連れ立って別荘に戻る。

 ちなみにゼラとアルは、問題集を終わらせる事が出来なかったので、剣術の授業は免除。代わりにオデッサさんから厳しい補習を受けている。

 流石にもう補習は終わったらしく、各々の部屋に帰ったようだ。


「では、汗を流してからお休みなさい。明日も同じ時間に」

「はい。……あの、カシムさんは幽霊探しはしないんですか?」

「申し訳ない、明日は仕事で別の場所に赴かなくてはなりません。衣装のアレコレです」


 ああ、『アクアリムス』の衣装協力をしてるって言っていたっけ。

 洋裁店と教師のダブルワークとは、この老人も大変である。

 それもあってフェズの町を校外学習先に選んだのかもしれないが。


「明後日以降は私も一緒に行きましょう。くれぐれも無理はしないように」

「わかりました。それでは、お休みなさい」

「はい、お休みなさい」


 カシムさんと別れ、風呂でさっと汗を流し、自室に向かう。

 薄暗い廊下を歩きつつ、そういえば昨晩、この別荘で幽霊らしきものを見た事を思い出した。

 アレは……違うか。歌ってなかったし。というか見間違いの可能性が高い。


 霊魂の存在自体は信じている。転生前の俺自身がそうだったから。

 だが、道路端に根を張っていた地縛霊時代、道行く人、誰の目にも留まらず、『ああ、"霊感"ってのは嘘なんだなあ』と、ぼんやりと思ったものだ。


 幽霊の正体見たり、枯れ尾花。おおかた、何かの見間違いだ。歌う幽霊なんてものも、追いかけていけば正体に辿り着けるだろう。


「どうやってあの猫の機嫌を取るか、か⋯⋯ん?」


 廊下の先、俺の部屋の前に、うずくまる影があった。

 もしやこの別荘に出ると言う幽霊――と思いきや、ツンツン頭の少年、アルだった。


「よ、ようシャーフ! おつかれ!」

「おつかれ。どうしたんだ、こんな所で?」

「い、いやー、オレも"しんぼく"を深めようと思ってなー!」


 薄明かりの下のアルの顔は、心なしか青ざめている様に見えた。

 ひとまずアルを部屋に入れ、事情を聞く。


「⋯⋯見たのか?」

「⋯⋯うん。ちょっと腹減ったなーって、厨房のお菓子をつまみ食いに行ったんだけどさ⋯⋯廊下の端に、白い、フワフワしたのが⋯⋯」


 どうやらこの少年も、俺と同じ幽霊ものを見たらしい。


「ごめんな⋯⋯シャーフの事『顔が良いくせにビビリ』とか思って⋯⋯幽霊、ホントだったよ⋯⋯」

「そんな事思ってたのか⋯⋯まあいいよ、俺も怖いから一緒に寝ような。なっ」


 アルとシーツに潜り込む。

 たとえ枯れ尾花と理解していても、怖いものは怖いのだ。これは、人が暗闇を忌避するような、原初の感情、本能だろう。


 しかし、町でも幽霊を探さなくてはならないのに、別荘にも幽霊が出現るとは。

 いっその事こと、幽霊同士、別荘の方に協力を仰いでみるか? 怖いけど。


「⋯⋯んぐー⋯⋯んぐー⋯⋯」

「寝るの早っ。⋯⋯俺も寝るか」


 明日からは本格的に幽霊捜査だ。英気を養っておかなければ。



 ***



 翌日。

 昨日までの雨は嘘のように晴れ渡り、夏らしい陽気が窓から射していた。

 朝食後、庭で軽く運動をし、カシムさんはアルとゼラを連れて海へ。俺は町へと繰り出した。


「シャーフは海行かねーの?」

「シャーフ君は昨日の剣術授業の補修です。あまりにも酷かったですからな、ほっほ」


 ⋯⋯と、対外的にはそうしておいた。

 アルはそうは思わないだろうが、俺だけ遊び歩いていると思われない為の配慮である。


「さて⋯⋯」


 カシムさんから事前に受け取ったフェズの町の地図を開く。カシムさんはこれをフリでリカさんから貰っていた。

 所々、赤字でバツ印がされている。これは"歌"によって昏倒したり記憶を失った人の、被害現場だ。

 バツ印は十数個ほど。幽霊騒動が起こり始めてから一週間でこの数って事は、日に二回も起きている計算になる。

 ついでに、昨日俺が通り魔に刺された位置にもバツをつけておく。


 しかし、事件の発生場所はランダムだ。町の入り口、広場、大通り、海辺⋯⋯何の規則性も見受けられない。線で繋いでも何かの紋様が浮かび上がるでもない。


 なら、ひたすら足で稼ぐしかあるまい。

 歩き回り、騒ぎが起きた場所へ急行し、幽霊を追うのだ。遠くまでアンテナを張れるゼラの協力が欲しかったが、いないものは仕方がない。


 まずは、昨日俺が被害に遭った場所を調べてみようと思い、大通りへ向かった。



 ***



 相変わらずの人混みを掻き分けながら、昨日と同じ大通りを歩く。

 昨日は雨で視界が悪かったのであまり見る余裕が無かったが、ここには飲食店、それに魔法店や鍛治工房などがある。冒険者ギルドもあるが、今は用は無い。


っつい⋯⋯」


 昨日は雨が降っていたから気温が下がっていたが、今は真夏、しかもこの人混みと来た。ダラダラと流れる汗を拭いながら、日陰となっている路地裏に避難する。昨日俺が刺された場所でもある。


 しかし、特に何も無い。人の往来はまばらにあるが、歌など聞こえないし、俺の血痕も雨に洗い流されてしまっていた。

 まあ、早速見つかるとは思っていなかったし、次の現場に向かってみよう――。


「⋯⋯もし、そこのお方」


 ――と、踵を返そうとしたところ、不意に話しかけられる。

 その女の声には聞き覚えがあった。


「⋯⋯⋯⋯女神ユノ?」


 またぞろ、あの胡散臭い女神の登場かと身構える。しかし、すぐに違和感に気付いた。

 いつも女神ユノが俺に話しかける時は、俺が死んでいて真っ暗な時か、周りの時が止まっている。曰く、『人の営みに干渉しない為』だそうだが、今は違った。

 周りの『時』が止まっていない。大通りの喧騒もそのままだ。怪しげな占い師の格好をした女神ユノは、建物と建物の間に挟まるようにして、俺に向かって手招きしてた。


「なにやってんだ……? というか、久しぶりだな」

「すみません、この――な格好で。こ――近くは妨害が酷――てですね……。思った――に干渉でき――いのですよ……」


 女神は申し訳なさそうな口調で話すものの、電波の途切れたラジオの様に途切れ途切れだ。よく見ると、その姿はまるで幽霊の様に半透明だ。先の風景が透けて見えてしまっている。


 これが『女神』という天上の存在だから、透けていても『まあそんな時もあるか』と驚きは少ないが、それでもいつもと違う様子に、何か重大な事が起きているのではないかと身構えてしまう。


「どうしたっていうんだ……? それで何の用だ。また『最近どうですか』か?」

「こほんこほん。あー、あー⋯⋯聞こえますかね? ええ、それもあるのですが⋯⋯」


 ユノが何度か咳払いをすると、段々と姿がはっきりとしてくる。言葉も明瞭になった。

 しかし、依然として周りの風景は動き続けたままだ。そのせいか、いつもよりも小声で女神ユノは続ける。


「今日は警告に来ました」

「警告⋯⋯?」

「はい。本当なら規則に抵触するのですが、このままでは危険と判断したので、上には内緒で⋯⋯。時空停止の権能も貸し出し許可が降りなかったので⋯⋯。なので、こっそりと聞いてくださいね」

「え? 時空停止アレって会社⋯⋯じゃなくて天界から貸し出してるのか?」

「そんな感じですよう。一回使うのにも手続き面倒なんですよ?」


 何というか、お役所って感じだ。

 今まで『天界』と言ったら、神々がおわす荘厳な空間を想像していたが、この胡散臭く所帯染みた女神を見ていると、どうも普通の企業のオフィスを想像させられる。


 ⋯⋯もしかして、この女神ユノが自称する『女神ユノの名代』って言うのも、

『株式会社天界 転生営業部 女神ユノ課』

 みたいなのをカッコよく言い換えただけなのではなかろうか。流石に天界に株式はないだろうが。


「はあ、それで、警告って言うのは?」

「はい、それがですね、この町には『悪魔の使徒』が潜んでいます。それがとても危険で危ないのですよう」

「危険が危ないって。いや、と言うか、悪魔の使徒ってなんだ? 悪魔って確か『母の心臓』を狙ってるっていう⋯⋯」

「しっ! どこで聞かれてるか分かりませんから! ビークワイエット!」


 女神ユノは焦ったように、口元に人差し指を立てる。この御方の方が声がでかい。

 マナの発生源である『母の心臓』の事を聞かれるのがまずいのか。


「⋯⋯というか疑問なんだが、そっちは神様だろ? 悪魔なんてチョチョっとやっつけられないのか?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ええまあ、それは、やんごとなき事情があるんですよう」

「⋯⋯人の営みには不干渉って規則やつか?」

「ええ、ええ。ですからこうして、せめて警告だけでもと」

「⋯⋯だが、これも疑問なんだが、悪魔は『人』のうちに入るのか? どちらかと言えば、人よりも神様そっちの敵なんじゃ」

「うっ⋯⋯。それもまた、事情がありましてですね⋯⋯」


 俺の指摘に、女神ユノは言葉に詰まったようだった。


「実は、悪魔やつはこの世界の現地人を従えているのです。自らの能力を分け与え、その対価として己の手先とするのです⋯⋯明日葉、ではなくシャーフ様も見たことがあるでしょう?」


 そう言われると、思い当たる節がある。

 狼頭の戦士マルコだ。悪魔の能力を分け与えられていると言うのなら、あの異形の頭も、影の兵士を出現させた異能も頷ける。


「⋯⋯マルコ以外の、あんなのが居るっていうのか。この町に」

「そうなんですよう。この町に。ですから、逃げた方が良いと」

「で? 悪魔の使徒は、この世界の現地人だから、天界サイドは手出しができないと。人の営みのうちだから?」

「⋯⋯はいぃ。それに、使徒は天界からの干渉を妨害する力もありまして。使徒が近くにいると、私もほらこの通り、こそこそと活動せざるを得ないのですよう」


 前に言っていた『妨害電波』ってその事か。あの時はマルコが近くにいたからだろう。

 しかしこの女神、役に立たない⋯⋯いや、危険を顧みずに警告に来てくれただけありがたいと思おう。


「分かった、十分に気をつける」

「⋯⋯って、逃げないんですか? 死んじゃいますよう?」

「俺を不死にしたのは貴女だろ。それに、この町にはまだやる事があるし、大切な人たちもいるんだ」


 そう返すと、女神ユノは人差し指を立て、俺に突きつけた。


「それです」

「⋯⋯どれだよ」

「確かに貴方は死んでも死にません。ですが、死とは肉体が朽ちるだけではないのです」

「何が言いたいんだ」

「貴方のアキレス腱――つまり精神的支柱が、他者への愛と知られたら、使徒は間違いなくそこを狙うでしょう。大切な人を喪う痛みに、貴方はまた、いえ、まだ耐えられますか?」


 つまり使徒は、俺ではなく、俺の大切な人を狙ってくるという事か。直接的ではなく、間接的に精神を攻撃してくる――確かにそれは効きそうだ。

 女神ユノの問いに、首を横に振って答える。


「ですから逃げた方が良いでしょう。あの学園都市は安全です、腕の良い魔法師が沢山いますから、使徒も下手な事は出来ないでしょう」


 俺は、もう一度首を横に振った。


「⋯⋯だが、この町でやらなきゃいけない事があるんだ。俺にとって、それを成し遂げられない事も、同じくらい怖い」

「頑固ですねえ⋯⋯貴方の大体の事情は把握していますが、それは今、と言うより三年後に必ずや成し遂げなくてはならない事なのですか?」

「タイムリミットを設けた張本人が何言ってんだ。何もしなければ二十年後にはこの世界は滅びるんだろ。なら、今のうちに、機会があるうちにやるべき事をやるしかないだろ」


 この東大陸で剣の師と巡り合えたのは幸運だった。ほぼ言いくるめられる形ではあったが、ウイングの伝言を伝える道を提示してくれたのには感謝している。

 最短で三年後。この機を逃しては、恩を受けた人々に報いる事も難しくなってしまう。


「そうですか⋯⋯ならば私には、これ以上口出しをする権利はありません。ただこれだけは言っておきます。力を使う事を恐れてはいけません。貴方に授けた力は膨大なものですが、私は、貴方がそれを正しく使えると判断して授けたのですから」

「⋯⋯急に女神様っぽく喋るなよ。調子狂うな」

「まあヤバくなったら、パパっとハルパー召喚して、サクっとやってしまえば良いんですよう。神の名のもとに許しますから」

「って言うけどな、あの剣、俺が一度死ななきゃ出てこないだろ。最後の切り札にはなるだろうが、俺はなるたけ死にたくはないぞ……」


 反論すると、女神ユノはぽかんと口を開けた。

 それから『やべっ』とでも言いたげに、ばつが悪そうな苦笑を浮かべた。


「……なんだよ、その顔」

「ああ、いえー、そのー、ご説明を忘れていたなあと思いましてー……」

「……まさか、死ななくても出てくるのか? あの剣」

「ええまあ、はいー……声に出して呼べば顕現しますねえ。というか今まで呼んだこと無かったんです? 命の危険に直面した時も?」


 そう言われれば、自らハルパーを求めた事はない。だって説明されてなかったのだから。


「……えっ、なに? 俺が『ハルパーおいで』って言えば、出てくるの?」

「あ、いえ、そこはきちんとロックが掛かっています。剣の名を口に出しただけで出てきたら危ないですから。もー、それくらい考えてますってばー」

「ああそう……じゃあ一応聞いとくけど、なんて言えば?」


 女神ユノは懐から紙片を取り出す。


「ええとですねえ……『巨人を討ち、魔眼の怪物を討伐せしめた神なる剣よ。女神ユノの名の下に命ず。我が手に宿り、我が敵を打ち倒したまえ。出でよ、ハルパー!』ってな感じです」

「いやなげえよ。それにそんな中二病全開のセリフ言わなきゃいけないのか。十文字以内に収めてくんない?」

「いえだって、当初の計画ですと、貴方を『女神の信託を受けた勇者』に祭り上げる予定だったんですもん。ちょーっとばかりカッコよくしてもいいじゃないですか」

「ふざけんな。今からでいいから縮めてくれ」

「ええー? せっかく頑張って考えたんですよう?」

「頑張って考えたなら伝え忘れるなよ……」


 結局、協議の末『我が手に宿れハルパー』と、俺の希望通り十文字まで縮まった。女神は不満を漏らしていたが、ひとまず本日はこれにて退散するとの事だ。


「あまりグダグダしていると使徒に感づかれますので。では、先々気を付けてくださいね」

「ああ、ありがとう」

「それと、もし更なる力が必要な場合は、魔法師の迷宮を訪れるとよいでしょう。そこにいる魔法師に、私からちょちょいと話を付けて、彼らの『固有魔法ユニークスペル』をそのマナリヤに宿せますので」

「ああ……」


 カーミラさんから引き継いだ『プリティヴィマータ』や、ラーシャの『ルナリー』の事か。後者はまだどんな効果か試せていないが。

 迷宮ダンジョンを巡って新しい魔法を取得するとか、まるでRPGの様である。


「……これもアレか。勇者がなんたらっていう計画の名残か」

「ご明察です! まあ計画はご破算となったわけですが。もう最後に『紺碧の地』に辿り着いてさえいただければ、それでオーケーとします!」

「ああそう。じゃあ使徒とやらに気を付けて帰れよ」

「貴方も。ではでは、また会いましょう――――」


 瞬きをする間に、女神ユノの姿は幻の様に消え去ってしまった。

 さて、寄り道になってしまったが、改めて歌う幽霊の捜索と行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る