贈り物をしよう/出発の時


「さて……」


 夜、マナカーゴ内。俺は自分の寝所で、修理道具を広げていた。

 剣の手入れをするために、ウェンディから渡された砥石セット。それに、ウイングから貰った魔法書。最高学府で使用するもの、というのは伊達ではなく、本書には魔晶の作成法、再活性化法が載っていた。


「えーとどれどれ……」


 魔法書を開く。


『魔晶の作成には、マナ濃度が高い鉱山で採れた水晶、宝石などの鉱石が用いられる。

 これらは形成される過程でマナを含有し、魔法刻印を付与する工程で、破損が起きにくい。


 作成方法は以下を参照のこと。


 1.鉱石を研磨して球体に仕上げる。

 2.六属性魔法の紋章を象った刻印を付与。

 3.マナリヤからマナを充填、魔法刻印を活性化させる。


 魔晶作成にはマナリヤが必要だ。作成者のマナリヤが強大であるほど、高品質の魔晶の作成が見込め――』


「――ん!」

「おわっ!?」


 突如、パーテーションの外からトウモロコシが突っ込まれ、俺は驚いて魔法書を取り落とす。手の甲の赤いマナリヤからして、パティの手だ。


「あ、ありがとうパティ」

「⋯⋯ん!」


 俺がトウモロコシを受け取ると、手は引っ込んでしまった。

 これはあれだ、遅くまで勉強していると夜食を運んでくるという、トウモロコシの妖精――。


「……美味い」


 などと馬鹿なことを考えつつ、トウモロコシを齧り、再度魔法書を開く。


「えーと⋯⋯」


『――が見込める。


 マナを込める工程は、途中までは魔法発動と同様である。

 マナを吸収し、マナリヤと魔晶を接触させる事で、マナが流れ込む。


 但し、一度マナが枯渇した魔晶は破損し易く、充填する際には注意が必要である』


 なるほど。マナ充填の工程は、魔法発動と一緒か。

 この短剣の魔晶には、すでに魔法刻印がされているので、マナを充填さえできれば再活性化できるって事になる。


 早速やってみよう。俺は短剣を持ち上げ、柄に嵌められた魔晶と、右手のマナリヤを接触させる。


「⋯⋯⋯⋯っ」


 通常は、マナを集中し、魔法を発動して発散しないと体内が熱くなるが、今はそれが起こらない。

 体内に巡る力の奔流はマナリヤを通じ、朽ちた魔晶に流れ込んで、その光りを取り戻――。


「うわっ!」


 ――さなかった。

 うまく行ったと思いきや、爆竹のような音を立てて、魔晶が砕け散ってしまった。


「さっきからうるさいですよ。眠れません」


 パーテーションがめくれ上がり、ゼラの顔が現れる。暗闇に浮かぶ無表情に、お化けの類かとチビりかけた。

 これはあれだ、夜中まで起きている子供を迎えに来るという悪霊だ。

 余談だが、ゼラとパティの生活スペースは俺の隣である。


「悪い。これやるから許せ」

「もぐ」


 トウモロコシを口に突っ込むと、ゼラの顔はパーテーションの向こう側へ消えて行った。悪霊退散。


 騒音対策にマナカーゴの外へ出て、もう一つの短剣にマナ充填を試みるも、結果は同じく爆散であった。


「うーむ、コツがいるのか⋯⋯?」



 ***



 翌日。本日は安息日であり、冒険者稼業も剣術訓練もお休みだ。

 俺は一人、クインの町の魔法店を訪れた。店主は俺の顔、というか仮面を見て嫌な顔をしたが、構う事なく店先のカゴを物色する。


「おうおう坊主、また来たのか? 昨日は二度と来ねえって言ってたクセによ」

「これ、魔晶の再使用可否ってどうやって判別してるんだ?」

「そりゃおめえ、魔法師ギルドに持ってかねえ事には分かんねえよ。なんだ、もしかして昨日の短剣、魔晶を再活性しようとして失敗したのか? え?」


 絡んでくる店主を無視しつつ、カゴ内の武器を手にとって眺める。しかし俺の目には、どれも同じ朽ち具合に見える。


「うーん⋯⋯」

「なあ、素人が魔晶の再活性化なんて現実的じゃねえぞ? 大人しく金貨二十枚の買っちまえって、な?」

「あいつに金貨二十枚出すくらいなら、俺はその金で猫を飼うね」

「誰かへの贈り物なのか? それにしちゃ、ケチる方向に全力だなオイ⋯⋯」


 なんとでも言うが良い。

 今は銅貨一枚だって惜しいのだ。ゼラのわがままの為に、金貨二十枚もかけていられない。


「事情は知らねえがよ、金をかけたくねえ相手なら贈らなきゃいいんじゃねえか?」

「贈らないと、トウモロコシの妖精が⋯⋯!」

「お、おう? 冒険者ってのはよく分かんねえ連中だな⋯⋯それで?」


 うーむ、こうなったら近くの鉱山まで魔晶の元となる鉱石を掘りに⋯⋯いや、そんな暇はない。

 この町の魔法師ギルドとやらに赴いてみるのも手だが、それもまた金がかかりそうだ。


「おいおい無視すんなよ坊主! そ、れ、で!?」


 と、頭を悩ませていると、店主に肩を掴まれた。


「なんだよ⋯⋯いきなり叫ぶなよ⋯⋯ハゲるぞ……」

「もうハゲてんよ! 魔晶の再活性化を試みたんだろ? どんな風に失敗したんだよ」


 なんなんだこのハゲジジイは⋯⋯そんなに俺の失敗談を聞いて笑い者にしたいのか……。


「どんな風にって⋯⋯パンって割れた」

「ははあ。マナを急激に流しすぎたんだな、そりゃ。まだおめえはガキだから、その辺の加減は難しいんだろう」

「はあ⋯⋯? じゃあ、あんたは出来るのか?」


 店主はしたり顔になり、俺が手に取っていた短剣をふんだくる。そしてマナリヤを魔晶に当てると――。


「⋯⋯ほらな?」


 魔晶が、仄かな光を帯び始めた。


「な⋯⋯!?」

「これじゃ再活性化には程遠いし、またすぐダメになるけどな」

「是非教えてください! いやーやっぱりプロは違いますねえ!」


 俺は店主に向かって、直角に腰を折る。前世の営業時代に培った、完璧な角度だ。


「変わり身はええな! プライドねえのか!?」


 そんなもの、パティから向けられる拒絶の目を思えば、いくらでも捨ててやる。

 店主はハゲ頭を指で掻きながら、ふぅ、と息を吐いた。


「まあ態度を改めたのは善しとしてやろう。だがこっちも商売だ、教えるにしてもタダとはいかねえ」

「まあそれはそうですよね。何をすれば良いですか? 肩でも揉みましょうか。あ、それとも育毛剤を」

「ぶっ飛ばすぞおめえ⋯⋯いやな、東大陸の魔法薬を仕入れて欲しいんだよ。最近、仕事中に腕の筋をやっちまってな、困ってんだ」

「はあ⋯⋯それは、行商にでも頼めば良いのでは?」


 というか薬くらい、この町の雑貨店にも置かれているだろうに。

 ちなみに我が『自由の翼団』は、魔法薬を自給自足しているので、買う必要はない。


「ほら、最近王都でゴタゴタしてんだろ? そのせいか北大陸の税関がトンデモなく値上がりしてんだ。お陰で東大陸の品が薄くなっちまって」

「ほうほう」

「だからよ、どこかの雑貨屋に置かれてたら、多少値が張っても構わねえから買ってきてくれ。こんなもん冒険者ギルドに依頼するまでもねえし、おれぁこの店を離れらんねえし⋯⋯」


 俺は道具袋の中からガラス瓶を取り出し、店主の鼻先に突き付けた。


「こんなんでいかがでしょう。飲んでよし、つけてよし。打ち身、青痣によく効きます」

「ほう……? 見たところ、それっぽい色だが……本物か?」


 どどめ色の液体を見て、店主は眉を潜める。

 俺は店主から短剣を奪い返し、自分の指先に切っ先を当て、出来た傷口に瓶の中身を垂らした。

 するとすぐに傷が塞がり、それを見た店主の顔が驚きに変わる。


「こりゃあいいや。よし、交渉成立だな!」

「ありがとうございます。サービスで頭に塗ってあげましょう」

「いらねえよ、触んな気持ちわりい!」


 というわけで、俺はハゲ頭の店主から、魔晶再活性化のコツを習った。

 やはり実際に生業としている人から習った方が早い。マニュアルだけ見ても車が運転できないのと同じだ。……同じか?


「そうそう、ゆっくりマナを流し込むんだ」

「おお……!」


 店主の指導を受けて数回試行したところ、すっかりコツを掴む事が出来た。

 マナリヤも体の一部であり、筋肉などと同様に、自らの意思で加減が出来る。

 それを意識し、少しずつ水差しを傾けるようなイメージでマナを流し込む。

 魔晶が弾ける事もなくなり、朽ちた剣に嵌められた魔晶は、仄かな光を灯した。


「いやしかし、この短時間でコツを掴めちまうたあな。こりゃ、おれの教え方が上手すぎたか?」

「うーん……」

「何とか言えよ」


 自画自賛する店主を尻目に、俺は再活性化した魔晶を試してみる。

 火の魔晶が嵌められた短剣は小さな火花が散るだけで、風の魔晶は微風が吹くだけだった。


「くそう……ダメだこれじゃ」

「ま、いくら再活性化しても、元々が廃棄品だからそんなもんだ。魔法刻印がすり減っちまってんだな」

「頭皮マッサージしても、髪が蘇らないのと一緒⋯⋯か」

「いい加減にしろよてめえ」


 うーむ、これをゼラに渡しても『なんですかこれはゴミですか。ゴミはゴミ箱へどうぞ』と鼻で笑われるのがオチだ。


「ま、そんな坊主に良い商品があるぜ?」


 俺が肩を落としていると、店主は棚から一振りの短剣を取り出した。

 新品らしき短剣、しかし柄に嵌められた魔晶は無色透明だ。


「なんですか、これ」

「魔法師ギルドから納品されたんだが、魔晶の活性化がされてねえ不良品だ。おめえがマナを充填してやりゃ、すぐ使えるようになるぜ」

「それなら、あんたが活性化させて、金貨二十枚で店に並べれば良いじゃないですか」

「間違って破損させたら返品できねえだろ?」


 つまり、万が一破損させたらただのゴミと化すリスクがあるし、魔法師ギルドに返品するのも手間だから、俺に売ってしまおうという魂胆か。

 しかしまあ、コツは掴んだ。マナ充填、魔晶の活性化だけすればいいなら、値段によっては一考の余地はある。


「……いくら?」

「この切れ味、鍛冶師ギルドの逸品だなあ。ほれ、羊皮紙もこの通り」


 店主が手からぶら下げた羊皮紙に短剣の刃を走らせると、まるで抵抗なく、綺麗に裂かれる。


「だから、いくらですか?」

「おっと、更にこの魔晶! 風魔法印が綺麗に刻印されている! これは一級魔法師の仕事だなあ!」

「じゃあなハゲ、達者でな」

「おいおい待てって、ちょっと商品説明しただけじゃねえか! 金貨一枚でどうだ?」


 金貨一枚。マナ充填の工程を省いただけなのに、かなり破格の値引きに思える。


「おめえが失敗した時のリスクも鑑みてと、東大陸の薬代を差っ引いて、さらに勉強させてもらった良心的な値段設定だぜ。まあ、もし失敗しても、よく斬れる短剣として使えるからよ」

「うーむ……うぐぐ……買った!」


 悩んだ末、俺は短剣を購入した。

 なんだか、ハゲの手のひらの上で躍らされたような気がしなくもないが、もし失敗したら自分で使おう。そうしよう。

 その時のゼラへの対応は……その時に考えよう。



 ***




「……で、できた!」


 時は深夜。

 俺はマナカーゴの外で、魔晶へのマナ充填を行った。

 結果は成功で、無色透明だった魔晶は、鮮やかな緑色の光を湛えている。


 試しに近くの木に向かって振ってみる。瞬間、魔晶が輝きを増し、射出された真空の刃が、枝を斬り落とした。


 これは便利だ。魔法に比べて威力は劣るが、発動までのタイムラグが無いのが大きい。

 マナ充填さえすれば、寿命が来るまで再利用できるのもまた良い。貧乏性の俺にとって、このコスパは魅力的だ。


「しかし……これをゼラにあげるのかぁ……」


 これを渡したところで『ほう。ようやく後輩としての立場が分かってきましたか。これに免じてパティ子には私からよく言っておきましょう』とか威張られるのがオチだ。


「⋯⋯くそう」


 せめて、精一杯恩に着せよう。

 そんなセコい事を考えながら、俺は明日に備え、寝所に戻った。



 ***



 翌朝。

 剣術訓練の為にマナカーゴの外へ出て、一足先に準備運動していると、少し遅れてゼラがやってきた。


「おはようございます。今日の朝ごはんはなんですか」

「それはギルドに行ってからだ。それより、ほら」


 鞘に収まった短剣をゼラに放る。

 それを受け取ったゼラは短剣を鞘から抜き、刀身と魔晶を無感情な瞳で眺める。


「朝ごはんですか」

「食えるもんなら食ってみろ。それ、あっちに向かって振ってみろ」


 近くに生えている木を指差す。

 ゼラが短剣を軽く振ると風が発生し――。


「おわーっ!? ⋯⋯オレの帽子!」


 ――木ではなく、そこから五メートルほど横で伸びをしていたウイングの帽子を吹き飛ばした。

 ウイングは風に巻かれて飛んで行った帽子を追いかけ、彼方へ走って行ってしまった。


「おお……」

「バカ、団長ひとに向かって振るな!」

「手が滑りました。これは私にくれるのですか」

「⋯⋯まあな。魔法、使いたいって言ってただろ。根本的解決にならないかもしれないが、それで我慢してくれ」


 ゼラは無言で刀身や魔晶をペタペタと触り、様々な角度から眺める。

 その顔には相変わらず無表情が張り付いており、嬉しいのか不満なのか判別できない。


「⋯⋯なあ、何も言わないなら表情で表してくれないと、こっちも困るんだが」

「私とて、好きで無表情でいるのではありません。私が偉いひとの跡継ぎだという話はしましたが、その教育のせいなのです」

「無表情でいる事が、教育⋯⋯?」

「周りは『せいてき』だから、感情を読まれることなかれ、と。赤ん坊のころから毎日のように言い聞かされてきました」


 せいてき⋯⋯政敵?

 やっぱりこいつは、どこかの貴族の子女だったのだろうか。立ち振る舞いは優雅さのかけらも無いし、むしろ野生児っぽいが、このワガママさは貴族っぽい⋯⋯のか?


「まあ、私は顔立ちは整っていますから、表情がなくても、こう⋯⋯色々大丈夫でしょう」

「ふわっとしてるな⋯⋯故郷に帰りたいとは思わないのか?」

「それは思いますとも。その前に、アンジェリカのパイを口にしてからです。シャーフ後輩の百億万倍美味しいという、伝説のパイを」

「盛り過ぎだ。そしてそんな単位は存在しない」


 まさかこいつ、俺がアンジェリカを探し出すまでついてくるつもりか?

 結局感謝の言葉もなかったし⋯⋯こんなクソガキを連れて、いつ探し出せるかもわからない旅をするとは、気が重くなる。


「まあ、でも、そうですね――」


 ゼラは短剣を鞘に納め、俺の前に立った。


「魔法は割と冗談のつもりでしたが、ありがとうです。嬉しいですよ」

「冗談だったのかよ⋯⋯」

「私も貰ってばかりでは悪いので、お礼として、私を一生養う権利をあげましょう」

「それも冗談だよな?」


 冗談だと信じたい。こんなクソガキを養う余裕など、俺にはない。

 しかし、ハゲに媚を売った俺の苦労はなんだったのか⋯⋯。


「ゼラ公ァ! オレの大切な帽子になにしやがる!」

「私ではありません、これはシャーフ後輩がやれと命じました。さて一足先に走って来ます」


 俺が肩を落としていると怒り狂ったウイングがやって来て、ゼラはその俊足で逃げてしまった。


「クソ、逃げ足早えな⋯⋯シャーフ、あいつを見かけたらオレの代わりに⋯⋯」

「ビンタしておけばいいですか?」

「それもだが、伝えとけ。今日の夜に発つぞ、ってな」


 発つ――出発するということ。

 それはつまり、次の目的地へ向かうということ。


「いや団長、路銀は? 南大陸を横断できるほど貯まったんですか?」

「今の貯蓄なら、まあ一か月分は持つだろ。そんだけありゃ、サンドランド王都までは辿り着けるぜ」

「いやいや、サンドランド内じゃ仕事にありつける保証が無いから、その分を稼ぐって話だったんじゃ……」


 サンドランドの王都は南大陸の中心、砂漠のど真ん中にあり、つまり道半ばまでの路銀しか貯まっていない、という事になる。

 もし、砂漠の真ん中で立ち往生にでもなったら、『自由の翼団』は壊滅だ。


「ふっふっふ、それがな……稼げるアテが出来たんだよ」

「アテ?」


 冒険者ギルドが少ないという南大陸だが、流石に王都まで行けばギルドもある、という事だろうか。

 俺としてはパティの治療が最優先なので、旅を急いでくれるのはありがたいが、ウイングの様子だと、どうやらそうではないらしい。


「見よ、これを!」


 ウイングは荷物の中から世界地図を広げ、南大陸のある地点を指差す。

 そこにはバツ印がつけられており、王都から南下した場所ではあるが、特に何も記されていない。


「ここになにが?」

「六大魔法師が一、土のプリトゥは知ってるな?」

「ええまあ、名前は……」

「その魔法師サマが、代替わりしたんだと。そして隠遁先に選んだのがここだ。ここには古い時代の遺跡があるんだとよ」


 それは、つまり――。


「つまり、新たなプライマルウェポンが手に入る! それを手に入れる為に冒険すりゃ、オレもネタが手に入る! 売れば路銀も稼げる! 更にはパティ子の薬代も稼げるぜ!」

「売っ……売っちゃっていいんですか? プライマルウェポンを手に入れるのが、団の目的なんじゃ……」

「んなもん、団員の治療が先に決まってんだろ? 治ったらパティ子にも働いて貰うぜー」


 ――と、一石三鳥の策であった。

 しかし、これは賭けだ。もし他の冒険者に先を越されてしまったら、砂漠の真ん中で立ち往生してしまう可能性があるのだ。


 だったら、もうしばらくクインの町周辺で路銀を稼いだ方が良いのでは。俺がそう考えていると、ウイングは神妙な顔になった。


「……パティ子の魔炎障害だがな、経過が良くねえ。治療が遅れると、どんな高ぇ魔法薬を投与しても治療出来なくなる可能性がある」

「なっ……」

「行くしかねえぞ。お前さんの大切なもんを守りたきゃ、な」


 俺はその言葉に、否応なしに頷かされた。

 行くしかない。賭けるしかない――否、勝ち取るしかない。

 何があっても、どんな事をしても、パティを治してみせる。

 それが出来なかった時、俺はこの世界で生きる意味をひとつ、失ってしまうのだから。


「行くぞ、南大陸に!」

「……はい!」

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