57.女心と贈り物はなんとやら。

 

「オネ、オネ!黄色と青色!どっちの水着がいい?」

「ううーん…そっちよりコッチの水色の方がいいんじゃないか?」

「えっそれ? …大好きな色だけど…ちょっと布が小さくない?」

「泳ぐんなら布が少ない方が動きやすいだろ」

「でも…あんまり胸が出るのはちょっと…」

「ん~…そうだな…。浜辺にいる時は上着を羽織って隠せばいいよ、この白い上着はどうだ? 似合うとおもうぞ」

「! そうね! そうする!」


 数メートル先でショッピングinガールズトークが繰り広げられている。

 水着を選んでる様子は男子禁制な雰囲気がして、男の俺が聞き耳を立ててはいけない気もした。 だがしかし、女子がワイキャイしている様は平和らしく微笑ましい光景――と、普段ならほっこりしてしまうのだろうが、現在進行形で気が重い案件を抱えていて気もそぞろなのだ。


「サクマ! どれにするか決めた?」

「…あ、はい、もう選びました」


 俺が小さめの麦わら帽子に黒のハープパンツと黒のサンダルに淡い白色の上着を見せると、オネットさんとフィエルさんのテンションが明らかに下がったのを察知した。


「地味…可愛くない…」

「面白味がないな…」

「男の水着なんてほぼほぼ地味ですよ…?」


 男用の水着で面白味を探す方が難しい。


 南東の開拓地サフィーナ・ノーフ島のイナブへ行くために、オネットさんとフィエルさんに俺、三人そろって大通りへと買い出しに来ている。

 オルディナ王都は内陸部にある国だけど、海辺の街用の品も取り扱っている店はあった。

 その店には既視感を覚える水着が並んであったのだが…水着というより、夏に着るようなキャミソールワンピースとか、ショートパンツに近いデザインの物が多い。 近代日本でよく見るビキニタイプに近い水着もあるけど品数が少なかった。もしかしたら人気が無いデザインかもしれない。

 その水着に使われている布も速乾性が良く、伸び縮みする素材で作られているとか。 市井で売られている傘もそうだが、なんだかファンタジーから離れた素材のように感じる。

 ともあれ、帽子も突っ掛けさんだるにも可愛らしいリボンがついていたり、花の装飾が施されてあったりと女性用の商品が多い。 世界は違えど着飾るのは女性が多いということなのだろう。

 ちなみに男性用の水着はハープパンツとボックスタイプの二通りしかない。 色も地味な物ばかりだ。


「サクマ! そっちよりこっちがいいんじゃない?」


 フィエルさんが俺に見せて来たのは淡いライム色のフリフリキャミソールと、インディゴ色のショートパンツ。


「………どう見ても女性用ですよね?」

「でも、絶対にサクマに似合うと思うの!」


 キラッキラな眼差しでフィエルさんが言いきった。

 いやいやいや…そんなかわいい顔で言われても俺の心の問題がありますがな。 いくらガワが中性的なショタだろうが中身は三十五歳独身男だぞ、心が羞恥死するわ。むりムリ無理断固拒否!

 女性用水着を断りつつ、南の海を楽しむための必須アイテムを購入して店を出たのであった。


「――あ、雨、晴れてる!」


 店を出ると、フィエルさんが天を見上げて声を上げる。 雨雲の隙間からは青い空と太陽がチラりと見えていた。 ここ数日はずっと雨ばかりだったから久々の太陽光だ。


「お、ほんとだ。 雨期もさっさと終わればいいんだけどな。 …明日も晴れるといいな、なあサクマ?」

「…うぐ、……それを今言いますか?」

「ぶはっ、そこまで神妙な顔つきになるなよ。 相手が姫様だろうと茶会は茶会だ、堂々しとけって」


 …そうなのである。今なうで俺の頭を悩ませている案件。 明日、アリェーニ姫殿下とお茶会イベントが待ち受けているのだ。

 王族であるアリェーニ姫殿下から正式な招待状が今朝、俺の元へとやって来た訳で。 明日の十一月読の日、昼過ぎに王宮に招待されている。

 その招待状を持ってきたのはお姉ちゃん大好きっ子のミーティ騎士だ。 ぎゃーぴー文句を言いながら招待状を持ってきたあたり笑えたが。


「うう…一体全体どんな顔してお茶飲めばいいのか…」

「どんな顔って…。 サクマは中身アレだけど顔はどこぞのお貴族様っぽいし、澄ました顔でお茶飲んで姫さんが喜びそうな話をすればいいんじゃないか?」

「中身アレってなんですか、アレって!?」

「アレはアレ、アレでソレな感じ」

「アレソレで話されてもこれっぽっちも伝わらないんですけど!?」

「殿下とお茶会ならおめかししてお城に行かないとね! まかせて!私がサクマの髪を綺麗に結ってあげる! あ、そうだ。 サクマは王宮に着ていける用の服って持ってるの?」

「へっ!? あ、あるには…ありますが…」

「どんな服!?」


 ずずいとフィエルさんが真剣な眼差しで聞いてくる。

 メルカートルで宮廷技師のフラーウさんに買ってもらった豪華な衣装があるのだ。 まさか、また袖に腕を通すとは思わなかったけれど。


「今あるのなら見せて見せて!」

「ええぇ…?」

「サクマ、フィーがこうなったら止められないぞ」


 ぼそりとオネットさんの一言。 フィエルさんの勢いに押され、俺はしぶしぶ鞄の奥底にしまっている服を引っ張り出して見せた。


「わっ、すっごい良い生地の服! あ、この服はメルカートルで着てた服ね。 ええと、今の時期なら…夏っぽい色がいいから…これ! これにしましょ! これなら王宮でも大丈夫!」


 道端の隅っこ。 三人頭を突き合わせて鞄の服を取り出して会議になってしまった。 フィエルさんが笑顔で指を指すのは一着の淡い色で統一された準正装服。


「サクマ、装身具アクセサリーはある?」

「あ、い、いえ、流石にそれは持ってないです…が…」

「なら買わなきゃ! ええと…あと髪飾りも必要ね…。 …うん、今から装身具屋さんに行きましょ!」

「ええっ!? で、ですが、そんな気合入れなくても…!?」

「何言ってるのサクマ! 格好はきちんとしないとダメよ! ほらほら行きましょ!」

「ぅええっ…」


 フィエルさんがずんずん俺の手を引いて歩き出す。 オネットさんはそのあとに続きながら止める気配はない。 君ら他人事だと思って楽しんでいるな!?


「――サクマ君?」

「へ?」


 名を呼ばれて反射的に振り向いた先には――見覚えのある男が立っていた。

 長い黒鳶色の髪に丸い眼鏡の細い目、前髪ぱっつんのひょろり身長。 双眼鏡を買った時にお世話になった商人のカボ・カオフマンさんだ。 なんだか服もよれていて疲れた顔をしている。


「か、カボさん…!」

「やあ、こんな所で偶然だねぇサクマ君。 また何か買い物にでも来たのかな?」

「ちょっと買い出しに…。…何かあったんですか? なんだか…お疲れのご様子で…」

「いやぁ…それが僕の口から詳しい事は言えないんだけど…一週間ほど前だったかな。 あらぬ疑いをかけられて宮廷に呼び出されてたんだよ…」


 がっくりとうなだれるカボさんの目元にはうっすらと隈が出来ていた。 多分だが、ドミナシオンの密偵だったオゾンさん関連で詰問されたのかもしれない。


「疑いって…大丈夫だったんですか?」

「それは勿論さ! 疑いが晴れたからこそ、こうやって家に帰れる許しが出た訳でね。…よかったけれど、こんな忙しい時に限って店が休業になるわ長年仕えてくれた者には裏切られるわ…飛んだ災難だよ、まったく…」


 ぶつぶつとカボさんが小さく愚痴る。 何しろドミナシオンの密偵が御者だった訳だから、その主人であるカボさんにも捜査の手は伸びたのだろう。


「…ねえ、サクマの知り合い?」

「あ、フィエルさん。 カボさんとは東支部の狩人組合で知り合った方で…」

「たしかに…東支部で何度か見た気がするな」


 不安そうな表情のフィエルさんが俺の肩に両手を添えた。 反面、オネットさんは興味なさそうな表情でカボさんを見ているが、腰に下げている剣にこっそり指を掛けている。


「サクマ君、その…美しいお嬢様方は一体…」

「えっと…一緒に暮らしてるというかなんというか…」

「サクマの姉のフィエルです!」

「同じく、この二人の姉のオネットだ」

「「姉……!?」」

「(何お前まで驚いてんだよ、サクマ)」

「(あたっ、ほっぺた突かないでくださいよっ!?)」


 思わずカボさんとシンクロするように「姉」という言葉に衝撃を受けてしまった。 そういえばそんな設定だったな、忘れてたわ。


「ご挨拶が遅れて失礼を…! 私、商人をやっているカボ・カオフマンと申します。 オネット嬢とフィエル嬢ですね、お二方もとてもお美しく……!」

「「………」」


 うっとりとした声でカボさんはオネットさんとフィエルさんを熱い眼差しで見つめた。 あ、こいつ、さりげなく二人の胸を交互で見たな…! 俺にはわかる、わかるぞ…! だが、その僅かな視線にも気づいたのだろう、オネットさんとフィエルさんの表情が真顔になった。


「サクマ、サクマ…! 早く離れましょ…!」

「…そうだな、フィー。 早く行こうか」

「ええっ、あ、そ、そうですね…」

「えっ!? そんな、せっかくお会いしたんです! もう少しお話でも…!」


 完全に警戒モードに移行した二人が距離を取るが、カボさんは食い下がるように後ろをついてくる。 おいおい、さっきの目線でアウト判定になってしまったことに気づいてくれ!


「カボさんすみません…! おれ達装身具屋を探さなきゃいけないので…」

「…おや、装身具屋をお探しで? なら、おすすめのお店がありますよ!」

「「「へっ?」」」


 先ほどの下心満載な表情とは打って変わり、完全な営業スマイルでカボさんが言った。






「我が道具屋マルクト店でようこそ!」


 案の定といえばいいか、案内されたのはカボさんのお店だった。 宮廷から脱出した直後にナンパしようとして失敗しかけたら商売か。 商人らしくちゃっかりしてんなこの人。


「なんだ、ちゃんとした店を持った商人だったんだな…」

「ほんと…てっきり危ない人なのかと…」

「あ~…一応ちゃんとした商人なんで…」

「聞こえてますよ、お嬢様方…」


 カボさんが悲しそうに店の扉を開けて中へと案内してくれた。

 数日休業していた店内の棚の品には埃がかぶらないように清潔な布がかけられている。

 さらに奥の部屋へと案内されて待機していると、ビシっとした服装に着替えてきたカボさんが底の浅い長方形の箱を複数抱えてやってきた。


「ご希望は男性用と女性用の髪飾りと、男性用の袖口釦カフスボタン襟締飾りネクタイピンでしたね。 店に出すつもりで入荷したんですが…一週間も宮廷に滞在していたのでお披露目が遅れた物なんです。 良ければ見てやってください」


 そう言って、カボさんは手際よく複数の箱をテーブルの上へと広げた。 その浅い箱の中には様々な形のアクセサリー装身具が均等に並んで収められ、どれも繊細な作りで鮮麗されている輝きを放っていた。


「わあ…! 素敵!」

「へえ、洒落たモンあるな」

「…以前、店に来た時にはなかった部類ですね?」

「サクマ君わかっているねぇ。そうなんだよ、これらは大陸外からの品でね。 いつもは魔道具ばかり作ってる森人族の職人が気まぐれに作った品らしいんだ。 倉庫の中に眠らせておくのはもったいないと仲介の商人から私が買い取った物でね!」

「き、気まぐれに作った…!? これが…!?」


 森人族の気まぐれアクセサリーか。 気分転換にここまでの物を作れるとかどんだけ器用なんだ。


「宝石ではなく魔石で作られてるんですね。 …どれも魔術式の付与はされてませんが」

「なんと…サクマ君も魔石に詳しいのかな? 素晴らしい目をお持ちだ。まさにその通りだよ! これは一般的な高価な宝石で作られてる訳ではないし、希少価値の高い純魔石といっても小指の爪より小さな石が施されているから、値段もお手頃に提供できるという訳さ! 勿論、値段が控えめだとしても匠の手で生み出された珠玉の品々。 品質は私が保証いたしますよ」


 バチン!とカボさんのウィンクが飛んでくる。 それはやめい、ウィンクはいらんいらん。


「むむむ……どれも素敵で迷うわ…!」

「ん、これとかどうだ? 青の宝石に銀の装飾、サクマに似合うんじゃないか?」

「あ、それもいいわね! ん~~~…こっちも似合うと思わない? 白金の装飾に深紅の釦!」


 カボさんの職人への熱い熱弁を横に、フィエルさんとオネットさんがアレやコレやと吟味している。 そこまで真剣に悩まんでもいいのになあ…。 俺は完全に蚊帳の外状態だ。

 フィエルさん曰く、身に付ける服も装飾品も靴までしっかり統一しなきゃダメ。 とのことだ。

 うぐ、明日の事を考えると胃がぎゅっとする。


「……カボさん…アリェーニ殿下が喜ぶ話ってなんでしょうか…」

「はっ!? アリェーニ殿下とは、…あの王族の…!?」

「あ、はい、そうです…その…色々な縁でお茶会にお呼ばれされてまして…」

「なんて名誉な…!」


 カボさんが衝撃とばかりに両手をわなわなさせている。 …多少のオブラートに包んで話すべきだったかな。まあいいか。


「服装とか身だしなみは二人の姉が見てくれるのでどうにか…。ただ…おれ自身が腰が引けているというか…圧倒的に話題不足なんです…!」

「わ、話題不足…?」

「何を話せばいいかこれっぽっちも浮かばないんです!」

「…ええ…? 何も、浮かばないのかい…? 光栄な場なのに…」


 カボさんが呆然と呟く。 ええ、ええ。それはよくわかる。 名誉で光栄な場でめったにない場だというのはなんとなくわかるさ! けど!


「だって相手は王族のお姫様ですよ…!? 一体全体、どんな話題が喜ぶのか嫌がるのか検討がつかないんです! 生まれた地域や生活環境、職の違いだけでも話が合わない時があるっていうのに…! 一般国民のおれと一国の王族の王女様なんですよ!? そもそもおれは手土産とか何か持って行かなきゃいけないのでは…!?」


 何をもっていけばいいんだ!? あれか! ドラマとか映画でよく見る花束!? ……いやいや落ち着け俺。 花束はマジでいらないってリアル姉が愚痴ってた!


「ううっ…殿下は花束なんて喜ばないのは確実…! 広い庭に綺麗な花を沢山持ってらっしゃるし…! なら…小物とか…? 女の子が喜ぶ物さえどれがいいのかもわからない…!」


 ぬいぐるみはどうだろうか!? …いや、あれもダメな部類だ。 妹が親戚のおっさんが毎年ぬいぐるみを誕生日プレゼントしてきてマジ苦痛!って愚痴ってたのを聞いたことがある。

 あとは服とかアクセサリーに女子が好きそうな小物…。 いや駄目だ…アリェーニ殿下がどういうタイプの小物を好むのかまったくもって知らない!

 相手の趣味を下調べもせずにプレゼントを贈る行為は難易度の高い博打…!

 悲しいかな、男女間の価値観の違いというのは溝が深い。

 男は女の好みや気持ちを少しも理解してくれないだとか、6°Cの指輪とオープンハートのネックレスを選ぶ男は糞で適当に選んだのが丸わかり!と姉と妹が延々愚痴っていたのを俺は聞いたことがある。

 アレを聞いた後は女不信気味になったよな、俺。 男の純情という貢物をメ〇カリで売りさばくなど…! オープンハートが糞と言うけど、あっちこっちでハートマークかわいい~って言ってるじゃん! それなら現金が良いっていうのかと聞けば、「そういう考えが駄目なんだよ糞童貞」と罵倒が飛んで来た訳で。

 だったらはっきりと「これほしいの!」ってリクエストすればいいんじゃないんですかねぇ!?

 まあ、俺は誰かにプレゼントなんて贈ったことないけど! せいぜい母の日とかに贈ったり、誕生日プレゼントをせがむ姉と妹に贈ったぐらいか。 しかも、物だとどれも不評ですぐにゴミ箱行きだった。 一番まともに喜ばれたと言えば……そこそこ良い値段がするメーカーのチョコや有名な店のショートケーキとか高いタラバガニ…。


「はっ…お菓子…! 食べ物なら無難なのでは…!?」

「それは駄目なやつだろ」

「えっ、なんでですかっ!?」


 閃いた! と、希望を見出した直後にオネットさんに撃沈された。 何故にィ!?


「相手は舌が肥えた王族だぞ? 手作りだろうが買ってきた物だろうが、口に入れて食べる物は必ず毒見役が間に入ることになるし、手元に残らない物ってあんま喜ばれないだろ」

「お相手が高貴なお方なら、食べ物を贈るのは私もあまりお勧めしませんねぇ…」

「…あ、でも、お茶の席には直接姿は見せないだろうし、最悪食べ物でもいいとは思うけど…」

「…………」


 オネットさん、フィエルさん、止めのカボさんの総意で食べ物はアウト!アウトです!  現代日本でも手作りのお菓子とか食べ物は駄目っていう話題も聞いた事あるしな…。どちらも世知辛い世の中だ…。


「やはり…お茶会は辞退すべきでは…」

「おいおい、今更何言ってんだよ、招待状受け取っただろ? 辞退する方が一番ダメだっつーの。 そもそも呼ばれたのはサクマなんだ、もてなす側は姫殿下の方だろーが。 悩むなら手ぶらで行っちまえ」

「て、手ぶら…!? 手ぶらでいいんでしょうか…?」

「変な所に気を遣うの、サクマの悪い癖だと思うぞ」

「ううっ…そうでしょうか…」

「そーだよ」


 オネットさんにわしゃりと頭を撫でられた。


「ん~、そこまで気になるのなら、生活でよく使いそうな日用品とか消耗品とか贈ったらどう?」

「日用品…ええと、茶飲みお碗とか石鹸とか…そんな感じの物でしょうか…」

「そうそう! 服とか身に着ける装飾品を贈っちゃうと変に勘違いされちゃうかもだし」

「勘違い…ですか?」

「例えば男性が女性に首飾りを贈ると、いつも一緒にいてほしいとか、傍にいたいって意味に捉えられるじゃない?」

「ええっ…!?」


 いわゆるあれか。 男性が女性に服を贈ると「その服を脱がせたい」っていう意味になるとかと似たようなヤツか。


「そうですねぇ…指輪とか首飾りとか、輪になった装身具は一般的に求婚する際に贈られる品ですし…。 国や地方によっては飾りの形や色合いの違いで魔除けや幸運のお守りになったりしますから、慎重に選ばないといけませんね」

「それはまた…下手に贈ってしまったら大騒動ですね…」


 ここまでくるとどれもこれも地雷に見えてきて、もはや贈らない方が無難に思えてくる。


「だから日用品とか消耗品がいいんじゃないかって思ったの」

「たしかに…一番無難っぽいですね」


 ちなみにこちらの世界でも、花束や花の種類で花言葉がいくつか分かれるそうだ。 色や組み合わせで意味が真逆になったりとなかなかに複雑らしい。

 日本でも花言葉は創作のネタになるから多少は知ってはいるが…正直、恋人向けだとか意味深すぎるとか、更には種族や国や地域によって違ってくるあたり難易度が高過ぎる。それ全部把握なんてできやしない。 誰かにプレゼントなんて日にゃ気遣いで禿げてしまいそうだ。

 そんな話題の末、俺が選んだ日用消耗品は――


「この装飾がついた羽筆と、墨壺に上質な用紙を一揃いで包んでください…」


 文房具セットである。 アリェーニ殿下は現在進行形で魔道具について修行中らしいし、文房具には困ってはいないだろうが、予備の一個や二個あっても困らんだろうということで選んだ。

 もちろん筆記用具関連にも送る意味があり、「精進、勉強頑張れ」って意味合いになるそうだ。 心の底から恐縮案件だが完全にスルーである。そこまで気にしていたら本格的に手ぶらになっちまう!


「では、贈り物なので飾り紐で包装いたしますね」


 カボさんが出来た定員らしく手早く包装しを用意し始める。 女の子が好きそうなリボンでデコもしてくれるサービス付きでありがたい。

 仕事モードのカボさんはカッコいいと思うんだけどなぁ、何故彼女が見つからないのか…。 職業商人だし良い物件だと思うんだけど。

 ともあれ、文房具のお値段は合わせて十五万オーロ。 匠な職人が作った物らしく高い買い物になった。 沢山稼いでるから財布にはダメージ少ないけど!


「う゛う゛…大丈夫でしょうか…」

「大丈夫大丈夫! サクマが悩んで考えた末の贈り物でしょう? そういう気持ちって伝わるし、きっと喜んでくれるわ。 私だったら感激して抱きしめちゃう!」

「うう…フィエルさんの心遣い…痛み入ります…」

「弱気になってるサクマに…はいこれ!受け取ってね!」

「ぅはえっ!?」


 と、フィエルさんがシンプルな包みの箱が差し出してきた。


「オネと私で選んだ髪飾りと袖口釦に襟締飾り! 私達からの贈り物ってことで」

「おっ、贈り物って…え、お金は…!?」

「いいの! いっつもサクマには助けられてるから、せめてこれぐらいはお礼させて!」

「ぅええっ…!?」

「良いやつ選んだからさ、明日ちゃんと身に着けて行けよ? …ふっ、サクマに任せってたらとんでもない物選びそうだしな、良かったんじゃないか?」

「サクマったら服には無頓着だもんね。 せっかくの王宮のお茶会なんだから、ちゃんと綺麗で可愛くし…かっこいよくしないと!ねっ!」


 優しさが染みるぅ…。 けど、フィエルさんは俺を着飾ることに楽しみを見出してるぅ…。


「で、次はオネ!」

「えっ!?」


 フィエルさんがずいっと取り出したのは、これまた綺麗に包装された包みだった。 油断していたのだろう、オネットさんは目を真ん丸にしている。


「オネは最近髪の毛伸びて来たでしょ? せっかく綺麗な赤毛なんだもの。 オネに似合う髪飾りを選んだつもり。 …受け取ってくれる?」

「フィー…」

「あ、勿論、私用にも遠慮なく買ったから気にしないでねっ!」

「…ありがとう、フィー。 大事にするよ」


 おおう…目の前でイケメン女子と清楚系美少女が贈り物を受け渡す構図…百合みのオーラを感じる。


「おお…麗しき姉妹愛…なんて素晴らしい光景でしょう…」

「…ここは黙って見守るべき所ですよ、カボさん…」


 涙腺弱いのか、カボさんが感激して拝んでいた。 俺も思わず拝むポーズしそうになったのは内緒である。

 さて、旅支度も明日の装備品もバッチリ決まった。 旅の前の決戦は明日のお茶会…!


「……あ、話題…話題について考えてなかった…!どどど、どう話を繋げればいいんでしょうか…!?」

「まーだ悩んでるのかよ。 サクマの故郷の話とか魔物狩りの時の話とか、姫さんが知らなさそうな珍しい話をすればいいんじゃねぇの?」

「………なるほど…!? オネットさんさては天才…!?」

「……いや、それぐらい思いつけよ」


 割と秒で解決した。









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