39.就職活動編
双眼鏡を買った数日後の夜、俺は寄宿舎の男専用西館の廊下をラフな格好で歩いていた。
「はぁ~…サッパリサッパリ~」
男共有風呂で一風呂浴びて綺麗になった直後だ。
今まで何度もオネットさんとフィエルさんとでお風呂を共に入っていたが、他の人も使う女専用の共有風呂に入ることは流石に憚られた。
見目が子供だろうがチン毛が無かろうが、俺は男だ。 フィエルさんは特に残念そうにしていたけど、断固としてトイレとお風呂は西館にある男専用のものを使わせてもらっている。
西館に行く度に男狩人達から疑問顔で二度見三度見されて鬱陶しく感じていたが、一週間もすれば俺の存在に慣れたようだった。
西館の廊下は照明がぽつりぽつりとあるだけで少し薄暗い。
中央館の食堂からは酒盛りをする賑やかな声が微かに聞こえていた。 毎日酒飲んでる野郎どもの多いことよ。
そんな賑やかな中央館を通らず、俺は中庭へと飛び出した。 東館へ戻るには中庭を突っ切った方が近道だからだ。
中庭から空を見上げれば雲一つもない満天の星空に少し欠けた双子月が浮かんでいる。 明日も天気が良さそうだ。
(――今日も何も起こらなかったな)
城を出てから十日経ったが、いまだ密偵も現れなければ怪しい影も気配もなかった。
当たり前だが、何月何日の何時に襲撃します、なんて予告を密偵側がしてくる訳でもない。 いつ襲われるかわからない状況で日常生活を送るのは精神衛生上よろしくない気もする。
なのに、フィエルさんとオネットさんは自分がやれることを日々にこなし、笑顔で過ごしていた。
そんな彼女達を見て俺も何かせねばと気持ちばかりが焦る。
(今日や明日で解決できるような問題じゃないんだ。 慎重にかつ柔軟で臨機応変に対応しなきゃな…)
まあ、それができたら何の問題もないのだが。
戦力外通知を受けた俺は、狩人資格を取ろうと決意してからコソコソと情報を集め始めた。 流石の脳内辞書も人族の狩人制度について詳しい知識がなかったからだ。
調べた結果、狩人資格は十五歳以下の子供には与えられないという決まり事を知った。
将来を担う子供を安直に死なせない為の処置なのだろうが、俺の外見年齢はどう見積もっても身長百三十五センチの十歳前後。
魔道具で姿を誤魔化そうと思えばできるが、血の契約違反に引っかかる可能性もあるし、実技試験でバレる危険性が高い。 だから幻術術式は無しの方向で。
実技試験を受けられないのではと途方に暮れた時、狩人職の
手引書曰く、魔物を狩った経験があるという前提の元、組合の実技試験を合格し、狩人上級者が納得できる技量と判断力があれば特殊ケースとして十五歳以下の子供も狩人資格が貰えるそうだ。
甘い物中毒者のテセラちゃんも狩人っぽいし、彼女もその特殊ケースにあたるのだろう。
早い話が、現役狩人の試験官を叩き伏せて上級狩人からOKが出たら合格になる。
納得できる力を示せ、実にシンプルな試験だ。
(実技試験か…おれ、魔術しか使えないけど大丈夫かな…)
手引書には実技試験で使う武器種は問わないとはあったが、魔術に関しては記述が無かった。 そこは組合に聞けばはっきりするだろう。
あとはオネットさんの目を暫く誤魔化しきれるかどうか。 それについては対策を考えている。 どちらにしろ時差でバレるだろうが、資格を取ってしまえばこちらの物だ。
(…さて、湯冷めする前に戻ろう)
双子月を見上げながら大きく息を吐いた瞬間、それは空から降って来た。
「――ヤッホー、元気ィー?」
「っ?!?っ!!!?」
あまりにも驚いて垂直に飛び上がってしまった。 上から落ちて来た影がふわりと揺れる。
「アレ、驚いタ? アハハ、ゴメンゴメーン! リーだヨ、リー!」
「~~~っ、はっ、あ、リーウス、さん…!?」
降ってきたのは、動物を模した黒いお面に布面積の少ない黒い服を纏った小麦色の肌が眩しい女の子だった。
茶猫色の髪の毛から覗くフワフワな猫耳と長い尾っぽが特徴のオルディナ隠密所属、獣人のリーウスさん。
宮廷での騒ぎから実に数週間ぶりの再会だ。
「…どっ、どうしてここに…」
「ご主人からサクマに連絡ゥ」
「カダム宰相から、ですか?」
「アタリ~」
リーウスさんが笑ったのだろう、お面から覗く口元にはちらりと八重歯が覗いていた。 ケモ耳尾っぽと相まって猫っぽい子だ。
「そういう連絡ってたしか、隠密の護衛が担当してるんじゃ…あ、もしかして」
「気づいてなかっタ? 交代制でリーとシー、もう一人の隠密とで聖女サマの護衛やってるんダァ」
ステルス隠密護衛はリーウスさんとシーカーさん達だったのか。
城から出て一週間は立つが、彼女達は完全に気配を消していて姿を現さない。 オネットさんが近場にいるなとわかる程度らしいが。
「そうだったんですね、おれ、てっきり別の人かと…あれから大丈夫でしたか? その…すみませんでした。お名前とか出しちゃって…お叱りとか受けたんじゃ…」
「ン? アー、平気平気ィ。 お仕事の量が増えたぐらいかナ? サクマのおかげで減給免れちゃっタ~」
アハハとリーウスさんが全く気にする様子もなく笑う。 仕事量が増えるって結構キツイんでは。 俺が口を出す訳にもいかないか。
「あ、カダム宰相はなんと? 緊急の知らせですか」
「深刻な知らせじゃないヨ、コレをサクマに渡しといてってサ」
「…これは…?」
リーウスさんが俺に差し出した物は人差し指ほどの銀の板切れだった。 先端部分には魔石が施され、反対側には細い鎖が付けられている。 見た目はオシャンな首飾りにも見えた。 その表面には、コウ・サクマと小さく名前が彫られてある。
「宮廷書庫の特別使用許可書。 好きな時に出入りしていいんだっテ」
「あ、これがそうなんですか」
国王陛下にもお願いしていたオルディナ宮廷にある書庫の許可書だった。
書庫の閲覧許可には厳しめの審査と素行調査を行うようで、本来なら許可が下りるのに数か月かかるそうだ。 だが、俺は国王陛下のお言葉もあって特別に許可書が作られることになったのだ。
いわゆる俺だけのフリーパス券。
狩人資格も大事だが、他にも色々と調べたい事もあったからありがたい。 この大陸のことや他種族の事、地球からやってきた人物がいるかどうか調べたかったのだ。
それに、コレを理由にできそうで丁度いい。
「アハハ、サクマ目がキラッキラ。 本が好きなんだネェ」
「あは…は…」
本のことになると顔が緩むのをどうにかしたい。
「じゃ、確かに届けたヨォ。 リーは別件のお仕事に戻るネ」
「あ、リーウスさん、届けてくれてありがとうございます」
「ン~? 礼を言う程でもないヨ?」
慌ててリーウスさんに向かって礼を言うと、リーウスさんがキョトリとした表情でこちらを振り返った。
「へ? あ、いや…わざわざ仕事中に届けてくれたんですよね? 礼儀というかなんというか…」
「アハハッ、サクマは律儀だナァ。 でも、リーそういう子嫌いじゃないヨ」
「――はっ?」
お面から覗く口元がニカリと笑みを浮かべた瞬間、俺の頬をザラリとした何かが撫でた。
「ンン~、良い匂いだけど石鹸の味しかしないヤ、残念」
お面を外したケモミミ少女が舌なめずりをして笑った。 この子、今っ、俺の頬っぺた舐めたっ!?
「じゃあ今後ともよろしくネ~」
そう言ってリーさんは音もなく屋根の上へと飛び上がった。 屋根伝いには見覚えのある影もちらりと見える。
サバトラ色髪にケモミミ褐色肌のシーカーさんだ。 彼女が今晩のステルス警護役なのかもしれない。 そして、二つの影は瞬く間に闇夜へ消えていった。
「……残念って何…」
ぽかーんと夜空を見上げながら呆然と呟くが、返答は返ってこなかった。
「サクマ、どうした? 魔物に化かされた顔してるぞ」
「…あー、いえ…通りすがりの猫にからかわれただけで…、…なんで二人して下着姿なんですか、服着てくださいよ」
寄宿舎の借りている部屋へ戻ると、オネットさんとフィエルさんが互いの髪の毛をタオルで拭き合ってキャッキャウフフしていた。 別にそれはいい、むしろ俺抜きでいちゃいちゃしてくれ。
湯上り直後だったのだろう二人は、寝間着姿を通り越して半分下着姿だった。 ええい、きちんと寝間着とか服を羽織ってくれよ。
「えへへっ、寝間着に着替えようとしてたのよ? けど、オネったら髪の毛しっかり乾かさないんだもの」
「フィーも人のこと言えないだろ? あたしはいいんだ、丁寧にしなくたって」
「私はオネより長いから乾きにくいだけよ!」
二人のやり取り可愛い~~、じゃなくて。 俺はなるべく視線を向けないよう、床に落ちている二人の寝間着を持ち上げてて差し出した。
「早く服を来てください、目のやり場に困るんです」
「なんだ、お互い素っ裸は何度も見てるのに、サクマはまだ恥ずかしいのか?」
「一緒にお風呂入らなくなったからかな?」
「それとこれとは違います…」
ごそごそと背後から布がこすれる音を聞きながら、俺はドアの方を凝視した。 まったく、俺がクソガキだからって二人は油断しすぎだ。
ふと、そのドアに施した術式に目が止まる。 この部屋全体を覆うように俺が仕掛けた結界術式だ。
術式には特に異常もなく正常に機能しているようだった。
「…密偵は、おれたちに気づいてるんでしょうか」
襲ってこないとはいえ、相手側がこちらに気づいてないとも限らない。 なんだか密偵が来るのを心待ちにしているようで少し気が滅入る。
「さあな。 まだ知らないかも知れないし、機会を窺ってるのかもしれない。 …外で気ぃ抜くなよ」
俺の問いに淡々としたオネットさんの声が返ってきたが、次の言葉は柔らかな声になった。
「…ここはサクマのおかげで安全だからな」
「そうよね、安心して寝られるもの」
「そうそう。 二十四時間ずっと緊張し続けていたらどうしたって疲れるモンだ。 寄宿舎や部屋に術式で結界を張ってくれたのは助かるよ」
振り返ると、寝間着に着替えたオネットさんとフィエルさんがにっこにっこと微笑んでいた。 あ~その笑顔ズルイですよ。
「…それぐらいしかできませんから」
「十分、むしろ上出来だ」
彼女の言う通り、ここに寝泊まりすることが決まった時に部屋と寄宿舎全体に術式結界を仕掛けたのだ。
借りている部屋には、オネットさん、フィエルさん、そして俺しか入れない結界術式を施した。
術式に関しては浮島で見たセキュリティ術式を参考にしたのだ。 もし、窓やドアから第三者が入ってこようとすると結界術式が発動し、強固な壁となって敵の侵入を防ぐ効果がある。
更に寄宿舎全体にも結界を仕掛けた。 こっちは敵の侵入を防ぐというより探知するだけのもの。
俺たち以外で寄宿舎を使用している新人狩人は男で十六人、女二人の合計十八人。 寄宿舎の肝っ玉お母さんのミテラさんや、他の従業員、外から物資を運んでくる業者と合わせると人の出入りは更に多くなる。 それらを細かく判別するには難しい。
事前に、オルディナ側が寄宿舎にかかわる全ての人間を調査をして危険はないと太鼓判を貰ってはいる。 だが、入ろうと思えば関係者じゃない人間も寄宿舎に侵入できる隙はあるのだ。 そこで思いついたのが探知術式だ。
寄宿舎の結界内に、殺意、捕縛、拉致という確固たる意思を持ち、フィエルさんに害を及ぼそうと考えている人物が入れば、自動的に通信魔石へ知らせが届くように仕掛けた。
どちらも直筆術式で、俺以外には魔術文字が見えないよう念入りに偽装した。 定期的に術式を施した箇所をチェックをしなければいけないのが難点だが。
考えられる限りの防犯をしているものの、それでも隙も穴もある。 せめて、二人がもっと安心出来る場所があれば――
(…今、俺ができることといえば)
「オネットさん、フィエルさん。 お二人にお話があります」
「うん?」
「なあに?サクマ」
ベッドサイドに腰を落とし、一呼吸置いて俺は切り出した。
「おれ、明日から単独行動しようと思うんです」
「えっ、サクマが一人で? どこかに行くの?」
「…ここ数日ぐらいコソコソ調べものしてたみたいだけど、その為か?」
「えっと…まあ、そんな感じです」
狩人組合で案内所で調べものしてた事がオネットさんに筒抜けだった。 このイケメン女子の目を掻い潜るのは至難の業だ。 だが、そんな彼女にも隙はある。
「朝、フィエルさんを医務室に送ったあと、宮廷の書庫で調べ物をしたり、街で仕事を探そうと考えてます」
オネットさんは基本、狩り以外の活動時間はフィエルさんの側に付きっぱなしになる。 寄宿舎と東支部の狩人組合、そして更に狩場である東の平原が彼女の活動範囲だ。
東の支部の他、北、西、南にも狩人支部はあるのだから、そのどこかで実技試験を受ければ暫くはバレないだろう。 ついでに宮廷書庫で調べ物にも集中できる。
「サクマができる仕事…まさか、宮廷技師?」
「あ、いえ、それは色々と約束事が面倒そうなので…。 おれでもやれそうな食堂の皿洗いとか掃除とか…できることはあると思うんです」
「宮廷書庫…許可書ができたのか?」
「はい、先ほど隠密のリーウスさんから受け取りました」
そう言って懐から書庫閲覧許可書を見せると、オネットさんがニヤリと笑った。
「ちゃんと仕事探せるか? お前、本読みだすと没頭するだろ。 気づいたら夕方になってそうだな」
「ふふっ、そうよね。 サクマは本を読むのが大好きだものね」
「そ、そこは…注意します…」
確かにありそうだから困る。 俺が知りたい事は確実に時間もかかるだろうし。 まあ、そっちは長期的に考えるべきか。
「それでなんですが…もし、おれがしっかり稼げるようになったら、オネットさん達の資金集めに協力させてください」
「…サクマ、それは…」
「え、サクマ、そんなこと気にしてたの? そんな事しなくたって…」
「いいえ、タダ飯食らいは嫌なんです」
なるべくはっきりと言葉を紡いだ。 オネットさんとフィエルさんがぱちくりと瞬く。
「おれが今持ってる手元のお金を渡すのがダメなら、せめて働いて協力させてください。 …日々こうしてご飯代や宿代も出してもらってますし…おれも手伝いたいんです」
必死の訴えにオネットさんが困ったように目じりを下げた。 働く事に反対はしない、けれど、細かい事は気にするなと目が語っているようだった。
「…じゃ、稼いだ額の一割だけなら受け取る」
「なんですか一割って、お小遣いにもなりませんよ。 八割でいいでしょう」
「八割!? ほぼまるごとじゃないか!」
「じゃ、五割で勘弁しておきます」
「勘弁って…あのなぁ…」
それ以上は下げませんと口を一文字に閉じる。
「ふふふっ、何を言っても曲げない顔してるわね、サクマ」
フィエルさんが間に入るよう、俺の頭を撫でてくれた。
「サクマの気持ち、とっても嬉しい、ありがとう。 けど、無理しちゃダメだからね?」
「…はい、わかってます」
「お前ら…あーもー、わかったわかった…。 皿洗いとか掃除で稼ぐんだろ? 微々たるもんだろうに」
「だとしてもしっかり受け取ってくださいよ、言質取りましたからね」
「なんでお前そんなに嬉しそうなんだ」
「お手伝いできるのが嬉しいので」
訝し気に見てくるオネットさんに向けて、俺は良い笑顔で答えた。
――引っかかったな、心の中でガッツポーズ拍手喝采。
「オネ、稼いだ額じゃないわ! サクマが協力してくれるのよ、感謝しなきゃっ」
「ハイハイ…まったく…サクマ、あたしらに全部貢ぐなんてことはするなよ、ちゃんと自分の将来の為に金貯めとけ」
「はい、わかってます」
オネットさんは街中での子供もできる仕事は掃除や皿洗い、雑用等の先入観がある。 しかし、狩人職で稼げば単位は違う。 ここで俺が狩人になってガツンと稼げば、安全な場所へ移るのも多少は早くなる筈だ。
言質は取った、あとは狩人職の資格を取って稼ぐだけ。
「あ、一応夕食時には寄宿舎に戻ってくるつもりですが…何かあれば通信魔石で知らせてください、飛んで行きますから」
「…サクマなら本当に飛んできそうね」
「鳥より早く飛んでくるだろ、こいつなら」
「へ? 勿論、術式で飛んでいきますよ。 ちょっと危険ですが、やろうと思えば瞬間移動もできますから」
「「…危険ってなに」」
二人の顔が真顔になった。 慌てて説明するものの、瞬間移動の術式は使うなと固く禁じられたのだった。
※※※※※
「――じゃ、夕方に。 サクマもお仕事探し頑張ってね」
「はい。 あ、ケット先生様、フィエルさんのことよろしくお願いします」
「毎朝毎朝同じこと言うんじゃないよ、耳にタコができる」
翌日、いつものようにケット先生様がいる医務室へフィエルさんを送り届けた。
ちなみに今日の俺とフィエルさんのヘアースタイルは、サイドの髪を三つ編みにしてハーフアップにした髪型だ。
ケット先生様は相変わらず冷たい眼差しをしているが、彼女の机の上には俺が渡した紅茶とお酒があった。 朝から一杯飲んでいたようだ。
「さあ、いつまでも突っ立ってないでやることやっちまいな!」
「「はーい!」」
ケット先生様の一喝でフィエルさんは医務室の定位置へ、俺は脱兎の如くその場を離脱した。 朝から目が覚めるようなドスの効いた声である。
(さて、まずは宮廷書庫で軽く情報収集だな)
昼には西地区の狩人組合支部へ行って実技試験を受けよう。
そんな事を考えながら廊下を進んでいると、聞き捨てならない単語が聞こえた。
「――ええ? 聖女様って…ドミナシオン帝国にいる、アノ?」
「お前知らなかったのかよ。 西のデウチ村で魔物に襲われて怪我をした村人を、旅の途中だった聖女様が奇跡の力で癒したんだってさ。 ちょっと前から農夫達の間で話題になってたぞ」
魔物を捌く広間の付近、廊下の曲がり角の付近度で三人の狩人達がわいわいと喋っていた。 思わず俺は廊下の壁に張り付いて耳を澄ます。
「なんでも、ドミナシオンで酷いを扱いを受けてオルディナに逃れてきたって噂だぜ。 帝国は魔力持ちを集めて奴隷にしてるって噂もあるし…」
「へぇ~、帝国側はなにかと物騒だもんなぁ…。 …もしかして、聖女様って
「デウチ村を通りがかったのならここに向かってたってことだろ? 今頃は王宮にでも招かれてるんじゃねぇの」
(――うわ…デウチ村での一件が流れてきてるのか)
思い返せばデウチ村で村人の傷を癒した一件は割と派手な行動ではあった。 王都に噂が流れてくるのは当たり前か。
(…一応、オネットさん知ってるかもしれないけど…連絡しておこう)
こういう情報は共有しておいた方がいい。 懐の通信魔石を取り出し、狩人達が聖女の噂をしていたと文字を書き込んでフィエルさんとオネットさんへと飛ばした。
「聖女様ってどんな人なんだろうな、美人か?」
「以外に平凡だったり老婆だったりしてな!」
「バッカ野郎! 怪我を治してもらった村人の話だとすげぇ綺麗な――」
「おーい、んな所でくっちゃべってねぇでこっち手伝えー!」
「「「へーい」」」
そんな呑気な噂話をする狩人達は、仲間に呼ばれたのか奥の部屋へと進んでいく。 フィエルさんの容姿についても情報は流れてるのだろうか?
知らぬ顔で聞いてみるのも有りかと迷っていた時、後ろから肩を誰かに掴まれた。
「おう、坊主。 こんな所で何してんだい」
「ひぇっ!!?」
驚いて振り向くと、大柄の無精ひげの中年男、オゾンさんが立っていた。
「おっと、すまねぇな、驚かせちまったか?」
「っ、あ~っ、い、いえ…オゾンさんは…お仕事ですか?」
「うん? ああ、組合に頼まれてた品を届けにな。 もう終わったから店に戻る所さ」
「そうなんですか。 おれも街に行く所で…」
――この人なら頻繁に狩人組合に出入りしてるだろうし、狩人達の噂とか耳にしているかもしれない。
「…オゾンさん、良ければまた馬車に乗せてくれませんか?」
「おう、いいぞ、またお使いかい?」
「はい、市場まで買い物に」
「もう街へ行くところなんだが、すぐに行けるか?」
「あ、はい!すぐに行けます」
噂話を聞きたくて、俺はオゾンさんの馬車に同乗させてもらうこととなった。
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