27.検査と修理と短期観光編

 

 スルスで補給を終えた俺達は、再びオルディナ王都へと向かって出立した。まっすぐ東へと進んで四日目、オルディナ領の中間地点を通過したらしい。

 その四日の間で二度ほど魔物ともエンカウントしたが、イロアス隊長と女騎士達がものの数十秒で殲滅してしまい、俺ら亡命三人組とフラーウさんはただ馬車内で能天気に見物をするだけだった。

 馬車組のここ数日の議題はもっぱらただ一つ。 腰と尻への負担をどう軽減するかどうか。

 会議の結果、ドミナシオンで活躍した空飛ぶ絨毯を解体してクッションへと転生させるという俺の案が通った。

 フラーウさんの許可と監視の下、中身は襲って来た羊系魔物の毛をたっぷり使って術式で結合させて素材をもふもふするように仕上げた。

 特製クッションは馬車組の尻と腰への負担は大幅に軽くし、馬の手綱を握る御者のお兄さんも大喜びの一品となった。


「ほんとサクマくんの腕は素晴らしいわぁ。…サクマくんが良ければオルディナ王国の宮廷技師に就職してみない?」


 フラーウさんが青紫色の瞳をうっとりさせながらクッションをもふもふしている。 低反発と衝撃吸収のバランス調整をした術式を組み込んだから不思議な感触になってるだろう。


「…お給料はいかほどでしょうか」

「サクマ、お前何乗り気になってんだよ」

「ええっ、サクマ、宮廷技師になっちゃうの!?」


 オネットさんとフィエルさん両サイドからツッコミが飛んでくる。 だがしかし、


「なんの問題もないのなら王都で暮らすのが利便性高そうですし。仮に住む街は決まったとして…次に問題が出てくるとすれば…それは「住む場所」と「仕事」です」


 衣、食、住。 それらを支えるのが収入源となる仕事である。

 金は命より重い、とは言わないが。 健康な体が無ければ元気に仕事ができないし、お金がなければ健康を保つ食事も服も住む家も維持することができない。切っても切り離せない生活事情である。


「お仕事はとても大事です」

「「………」」


 神妙に呟くと、三人から微妙な視線が飛んできた。


「なんだか切実な声と顔ね」

「まるで稼ぐことの辛さを知ってみたいだな」

「あら、その歳でお仕事の経験あるとか?」


 若干、声にガチ感がでてしまったのかもしれない。

 やっべ。俺は人里離れた孤島で父親と二人っきりの生活をしていた設定だった。


「…父親の知り合いの方が…夢半ば挫折して貧困にあえぐ独身男性の仕事事情を聞かされました。 仕事は大事だと! 宮廷勤めなら安定した収入なのでは…!」


 行政機関の職につけるのなら衣食住はそれなりに手厚い保証があるだろう。 熱い期待を込めてフラーウさんを見つめると、艶やかな唇がにっこりと微笑んだ。


「もちろん手厚いお給料は出るわよ?ただ、色々と約束事があって…」

「ま、また契約ですか」

「宮廷内や魔道具に関する情報漏洩を防ぐために家族構成や素性を調べて…」


 めんどくさそう。 俺は手のひらドリルを発動した。


「…この話はなかったことに」

「ええ~?! 乗り気だったのに?!」


 フラーウさんがショックだと言わんばかりに声をあげる。

 宮廷に勤める以上、お国に関わるから色々とお約束事があるのは当たり前か。給料が安定して高い分、それなりの理由があるというやつだ。


「サクマくん程の腕前なら特典だってつけちゃうわよ、本気で考えてみない?人手が足りなくて困ってるの!即戦力が欲しいのよぉ~!」

「あはは…職に困った時にでも改めて…」


 明確な返事はせずに曖昧に流しておいた。日本人の悪い癖。

 しかし面倒なのは勘弁だ。 何せ前世の仕事は何から何までブラックだったのだ。 今世はそこそこに給料が良く、長時間労働を要求されないホワイトな職業に就きたい。


「オネットさんとフィエルさんはどうするんですか?」

「私?…そうね…考えなきゃいけないわね…」

「仕事なぁ…」


 オネットさんとフィエルさんに話題をふると、二人揃ってどこかぼんやりと視線を泳がせた。


「あたしはコレしか取り柄がないから…傭兵とか護衛とか…魔物狩りが生業の狩人にでもなって稼ぐしかないな」


 腰にある短剣の柄を握って見せた。オネットさんらしい脳筋職業だ。


「私は…どうしよう。オネみたいに戦えないし…あ、動物の捌き方は覚えがあるからオネと一緒に狩人になるのもいいかも」

「フィーは血生臭い職は駄目」

「サクマよりは短剣使えるわよ?」

「おれを比較対象にしないでください」

「そうだぞ、サクマの剣の腕前は五歳児より酷いんだから比較にならない」


 この散々な言われよう。


「うーん、オルディナ王国に着くまで考えてみるわ…」


 そう言ってフィエルさんは少し拗ねたように顔を背けた。


「…必死にドミナシオンから逃げてきたから…。どんな仕事に就きたいかなんて考えもしなかったんだもの」

「…そうだな、あたしもだ」


 オネットさんとフィエルさんが困ったように小さく笑い合う。そんな二人を見て俺は閃いた。


「フィエルさんは書店の看板娘とか似合うと思います」

「それなら食堂の看板娘とかじゃないか?」

「二人とも私に変な幻想抱いてない?」

「「いやいやそんなことはない」「です」」


 俺とオネットさんが同タイミングで片手をブンブン振った瞬間、フラーウさんが吹き出してクスクスと笑いだした。


「うふふっ、ほんと三人とも仲がいいわねぇ」


 仲良し。フィエルさんとオネットさんはいつも仲良しこよしだが。 俺も?とばかりに横をチラ見すればオネットさんが満更でもない顔をしている。


「そりゃ裸の付き合いもあるし?」

「強制混浴させられる男児の気持ちをそろそろ察してください」

「え、一緒に入るの嫌なの?」


 フィエルさんが衝撃と言わんばかりに目を見開いた。

 いや、のた打ち回るほど嫌ってわけじゃないんです。むしろ棚ぼたラッキーすけべ…いやいや、俺のこと男だと認識してほしいなという複雑な男心がですね。


「…おれも男なので…下半身を異性に見られるのには抵抗があります」

「「あんなにちっちゃくても?」」

「………」


 あんまりにもひどいコメントだな!? 俺が絶望している横でフィエルさんがぽそりと呟いた。


「でも…サクマと出会ってからそんなに経ってないのに、なんだか遠い昔の話見たいね」


 たしかに、考えたら彼女達と出会ってまだ一ヶ月もたっていない。 浮島から出てきてからというもの色々と起こりすぎた。

 忙しない日々よりも落ち着いた日々がいいに決まっている。 目指せ、スローライフ。


「そうねぇ、あなた達になら…、っ?!」


 フラーウさんが言いかけた瞬間、馬車がガタリと止まった。 馬車の外からは馬の足音やら慌ただしい気配がする。


「…また魔物か?」

「どうかしら…ヘラフィ近くのデウチ村で一泊するって聞いてたけど…何かしらねぇ」

「おかしいな…隊長達が一斉に駆け出してる。…なあ!何があった!?」


 オネットさんが馬車から身を乗り出して近場の女騎士へと声をかけた。

 気付けば馬車の周りに居たはずのイロアス隊長や、レフィナド副隊長、キエト、テネル、セルペンス、ネーヴェの六人の姿が見えない。

 俺も身を乗り出して辺りを見渡すと、馬車の進行方向に隊長達が馬で駆けていく姿が見えた。

 彼らの向かう先には真っ白な煙が天へ上っている。


 周りに残っているのは陽キャ系女騎士アルアクル隊員と、お姉様大好きっ子ミーティ隊員だけ。

 彼女達は煙が上がっている方角、隊長達の背を見つめているようだった。


「あなた達は動かずにここで待機してて!」

「わかってる!けど、何があったか知る権利ぐらいあるだろうが!」

「…ああもう、仕方ないなぁ!」


 オネットさんが声をあげると、珍しくアルアクル隊員の茶色の瞳が苛立ちげに細まった。


「泊まる予定だった村が…デウチの村が魔物の群れに襲われてるっぽいの!」

「魔物の群れに…?!」


 あの煙が上がってる真下はデウチ村ってことか。


「…家が燃える程なんでしょうか」

「馬鹿ね、火を吐く魔物なんて上位魔物は大森林の奥にしか出ないわ。 あれは魔物避けの為の炎と煙よ。…効果は望み薄みたいだけど」


 ミーティ隊員も珍しく攻撃的な態度は鳴りを潜め、煙が上がる光景を静かに見据えていた。


「し、心配しなくとも!我が部隊のイロアス隊長とレフィナド副隊長達が村に向かって殲滅しに行ったので!」

「当たり前よ。キエトお姉様もいるのよ。魔物の群れなんかものの数十秒で倒してしまうわ」


 アルアクル隊員とミーティ隊員が鼻息荒く言い放つ、つまりは。


「…アルアクル隊員とミーティ隊員は、おれらの護衛兼お留守番ってことですか」

「何よ、不満でもあるの?」

「えへへ、アルルはどちらかというと防御特化だから!」


 バレたかとばかりに二人は明後日の方向を仰ぎ見たその時、ずしんと地鳴りがした。


「うわ、わっ」

「きゃっ、なにこれ?!」

「な、なんだ…?なんの音だ」

「大地の精霊王のお怒りかしら…?」


 近場の森からメリメリと木々が軋む音が鳴り、地面がゆらりと揺れて馬車もガタリと飛び上がった。

 馬車の外を見渡せば、ミーティ隊員とアルアクル隊員が辺りを警戒し始める。 その間にも地鳴りがする度にガタガタと馬車が揺れた。

 居残り組が息を呑み、あたりの様子や状況を掴もうと息を潜める。


 ずしん、めきめき、ずしん、めきめき…。


 徐々に大きくなる地鳴りを聞いた時、頭にとある映画の場面が過った。

 ジュラシックでパークな所で大きな奴が大暴れするタイトル。


「…な、何か…大きいモノが移動してる音じゃ…」

「は?移動?アンタ何を言って…」


 ミーティ隊員が胡散臭そうな目で見ているが構ってられなかった。

 山が見える森からは地鳴りと共に沢山の鳥が空へ羽ばたき、馬車の横を何匹もの小動物が通り過ぎていくのだ。 まるで何かから逃げるように。

 絶対近くになんかきてる!しかも重量感あるやつ!


「御者のお兄さん!馬車を早く動かしてください!何か来ます!」

「だ、だけどイロアス隊員に此処を動くなと命令されて…」

「命令も何もここは危険ですってば!」


 馬車の御者が座っている壁側を内側からバンバンと叩いてせっつくが、御者のお兄さんは馬車を走らせてはくれなかった。

 俺は痺れを切らして手綱を引ったくろうと馬車から飛び出した時、近場の木々がめきめきと轟音をたてて左右に倒れ大きな音が響いた。


「ぶしゅぅうぅ、ふごっふごっ」


 それは鼻息だった。 見覚えのあるような鼻先が倒れた木々の間から覗いてる。 一気になんとも言えない獣臭が充満した。

 次に見えたのが真っ黒な蹄、短い手足に短い黒い毛に覆われた丸い胴体。大きな鋭い牙。

 ――猪だ。 真っ黒で大きな猪が地響きをたてて歩いてくる。

 あまりにも俺が知っている猪とはサイズが違った。まるで二階建ての一軒家ぐらいの大きさがある。

 その大きな黒い猪が、俺らの方へと鼻先を向けてふがふがと鼻を鳴らした。


「…ふがっふごっ!しゅーーーっ、ガッガッガッ!」


 ぶわりと黒猪の背の毛が逆立ち、黒い猪の真紅の色の瞳が俺らをロックオンしたのが気配でわかった。

 一方、俺らは誰一人あまりのことに言葉を発せず固まっている。 固まっている場合じゃない!


「――逃げますよ!」


 ばちん!と音が鳴らせてお馬さんの尻を引っ叩いた。 その衝撃で馬は素直に駆け出し、馬車もガタガタと揺られて走り出だす。


「サクマ!掴まれ!」


 オネットさんが差し出してきた手を反射で掴んだ瞬間、俺は気付けば馬車の中に転がり込んでいた。


「ぶはっ、お、オネットさん助かりました…!」

「おう、サクマも察しがいいな」


 にやりとオネットさんが見下ろしている。

 慌てて彼女の腕の中から抜け出して馬車のドアから後方を見ると、ミーティ隊員とアルアクル隊員も馬で駆け出して黒猪と距離を離しつつあった。

 後方の黒猪はこちらを追いかける気満々なようで、前足をずしんずしんと大地に叩きつけてダッシュの準備を始めている。

 猪と言ったら猪突猛進。突進攻撃ということだろうか。


「あんなデッカイ魔物見たことない…こっち追っかけて来る気だな」

「わ、わたしもあんな大きな魔物見たことがないわぁ…」

「ほんとに大っきいわね、この馬車で逃げ切れる?」


 フィエルさんが心配気に言った瞬間ズドンと地面が大きく振動し、衝撃に驚いた馬車を引く馬の鳴き声が上がる。 再び後方を見れば、大きな黒猪は地鳴りを響かせて走り出していた。 巨体なくせに走る速度は割と早い。


「あ、アルアクル隊員が…!」

「…弾かれたな」


 こちらを守ろうとしてだろう。アルアクル隊員が果敢に黒猪へ立ち向かい、ばしんと大きな鼻先一つで後方へと放り投げられてしまった。

 吹き飛ばされる瞬間、盾の術式を発動したのが遠目からでも見えた。あれなら地面に落ちても擦り傷程度で済むとは思うが。


 ずどんずどんと黒猪と馬車の距離が徐々に縮まろ、地鳴りを響かせ向かって来る様はなんとも迫力満点過ぎた。

 どうすべきか考えあぐねている間にミーティ隊員の姿が視界に入り、


「あ、ミーティ隊員が…」

「…全然効いてないな」


 盾の術式を発動させて側面から剣で攻撃をしているが、黒猪の分厚い剛毛の毛皮に阻まれ剣先は届かないようだった。

 ミーティ隊員が乗っている馬も黒猪の速度に負けて距離を離され始めている。 馬車との距離も縮まる一方だ。 もはや大きさが大型トラックと小さな三輪車。 あんな巨体と衝突したら馬車はひとたまりもないだろう、踏み潰されるか跳ね飛ばされるかのどちらかだ。


 俺が魔術を使えば突進攻撃はほぼ防げるだろうと思う。

 もしくは、イロアス隊員を待てば倒してくれるかもしれない。 だが、彼らはデウチの村で他の魔物を殲滅しているはずだからすぐには動けない。

 馬車を付け狙っている以上、攻撃を防ぐだけではフィエルさんとオネットさん、フラーウさんも危険にさらし続けることになる。 今この場でどうにかしなければ、


「…うーん、いけるかな」

「おい、サクマお前…、なっ!」


 何をする気だとオネットさんに肩を掴まれそうになったが、その指先は俺の服を掠めるだけだった。

 ひょいっと馬車から飛び出したのだ。

 地面に片足が着く寸前、遠ざかるオネットさんに向けて叫ぶ。


「フィエルさんとフラーウさんを頼みます!」

「サクマ!このバカー!」


 バカとは酷い。遠ざかる馬車から無茶すんじゃねぇーぞ!とオネットさんの声が響いた。

 彼女は男勝りなおっぱいがついたイケメン系女子だが、根は優しくて面倒見がいい子だ。 フラーウさんとフィエルさんは彼女に任せるのが一番だろう。


 衝撃を緩和する術式で着地すると、面前には地鳴りを響かせて黒い巨体が迫ってきていた。 距離にして百メートル程。

 その赤い目には俺が見えているのかいないのか、真っ直ぐと俺へと向かっている。


「何してんのよ、この馬鹿!アンタ死にたいのっ!?」


 黒猪の後方を走るミーティ隊員の叫び声をスルーしながら、術式を他者に見られないように首にある魔道具で認識阻害の効果を範囲指定で発動しておく。


(…猪の肉ってうまいのかな?)


 肉が固いだとか臭くて食べれないという話は聞いた事があるが。 ともあれ突進してくる黒猪に向けて俺は片手を前へと突き出した。

 魔素を取り込んで巨大化した魔物だとしても全て生きている生物だ。 なら、急所は似たようなものだろう。 そこを断てばいいだけの話。


 高火力の攻撃術式は必要ない、狙うは一箇所だけ。


「ふごっ!シューっ!ガッガッガッ!」


 黒猪が鼻息荒く、俺を突き飛ばそうと鼻先と長い巨大な牙をこちらに向けた瞬間、俺は簡易的な術式を発動させた。


【脳幹】※【限定】※【粉砕】※※


「ガッ――」


 途端に煙を巻き上げ、轟音とともに黒猪は大地に倒れ伏した。


「…げほっ、し、死んだ、よな?」


 砂埃が巻き上がる中、俺は動かなくなった黒猪を注意深く観察する。

 黒い大きな体は三十メートル先ぐらいで止まり、ビクンビクンと身体の一部を痙攣させていた。 暫く見守ったが、黒猪が動く気配はなかった。

 黒猪の大きな鼻先まで近づき、そっと手を伸ばして触れてみる。


(大っきいなぁ…)


 大きな巨体はまだとても熱く、毛も硬くて皮脂のような滑りも感じた。口元を覆いたくなるような強烈な獣臭もする。


 元気に鼻をふがふがさせていた大きな巨大の黒猪はまさに絶命していた。


 俺が、殺したのだ。


(…美味しいお肉として頂きます)


 俺はなむなむと両手を合わせる。 この大きさだ。ここら一帯の山や森の主だったのかもしれない。それにしても、


(あっさり殺してしまえた…)


 直接的に手に武器を持ったわけでも、飛び道具を使った訳でもない。

 魔術文字も組み上げて脳の一部を断って潰しただけ。 ものの三秒もかからない動作だけでいとも簡単に殺せた。

 ゲーム画面でボタンをポチリと発動させたかのような手軽さで。


(殺した感覚が、薄い)


 こんなモノなのだろうか? もっと怖かったり、両手が震えたりするのかと思っていた。

 生々しくても困るが、あまりさらっとしすぎてもなんだかいけない気がする。


「…あ、アンタ…一体何を…」

「サクマ!だ、大丈夫だった?!」


 気付けば、ミーティ隊員とアルアクル隊員が息急き切って駆け寄ってきた。 アルアクル隊員が少し土や泥で鎧が汚れてしまっているが二人とも怪我もなさそうだった。


「ご心配なく、おれは無傷です。…この黒猪どうしましょう?これ食べれますか」

「た、食べれる…とは、おもうけど…さ、サクマ…」

「…この規格外の魔物…死んだの?一体どうやって殺したのよ。 傷一つないけど…」


  アルアクル隊員、ミーティ隊員がドン引きしているようだった。なんでや。


「脳の一部を…脳幹を断ちました。見た目は無傷ですが」


 術式で断って潰したのは脳の下半分、脳幹部分だ。

 細かな脳の部分は俺にもわからない所が多いが、体の生命維持の司令塔である脳を断てば大体の生物は絶命するだろう。 死んでるはずのゾンビだってヘッドショットすれば倒れる訳だし。

 分かりやすく胴体と頭を切り離す事もできたが、ド派手な出血大サービスな場面は直視したくないから内部だけをミキサーしたのだ。


「「ノォカァン?」」

「ええと…意識とか生命維持とかの神経が集まってる器官で…」

「「???」」


 ミーティ隊員とアルアクル隊員が何言ってんだおめーみたいな顔をしている。マジか。

 身体に対しての一般常識や医学知識って一体何処まで知られているのだろうか?


「あー、えーと…頭の中身を直接攻撃しました」

「「…ああ~…」」


 わかったのかわかってないのか、些か不安になるような頷きだった。


「見目に反してえげつない殺し方するのね」

「………」


 ミーティ隊員の何気ない言葉が俺の心を傷つけた。





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