19.検査と修理と短期観光編
体を巡る魔力が、ぐつぐつと煮えるような熱を放ちはじめた。
(こんな大きな術式に触れるのは初めてだな)
ちょっと緊張するが落ち着いて慎重にやればいい。
一呼吸置いて魔石へと両手を伸ばした。ゆっくり魔力を巡らせて両手へと集める。
「この亀裂を持ってきた魔石で繋ぎ合わせて塞ぎます。同時に漏れ出してしまった魔力を補充していきますね」
監視者たちに向けて声をかけるが返ってくる返答はない。そちらに気をそらす余裕はないので続行する。
両手の先に現れた術式が光り輝き始め、魔石と魔石を結合させる為の修繕術式を編み上げた。
(魔石の魔力と俺が持ってきた魔石を反発しないように繋げて、馴染ませて――亀裂を埋める)
術式が発動すると、じりじりとスローモーションのように亀裂が消え始めた。亀裂が短くなる度に体にある魔力がドバドバと消費されていくのがわかる。
その消費量に引っ張られるように身体の中の魔力の核が暴れそうだった。大きな魔力を調整し出力を安定させるのが一苦労だ。
繋いで、馴染ませ、埋めて、間に俺の魔力で魔石の中を満たす。その動作を何度も繰り返した。
(――っよし、埋まった)
時間がどれぐらいたっただろうか、五分かもしれないし十分たったのかもしれない。 時計が手元にないから何とも言えないが、時間の流れがとても短く感じた。
「亀裂が消えました。 漏れた魔力も補充したので十分なはずです。――次は破損した術式の修復をします」
息を長く吐き出し、一拍おいて大きく吸い込んだ。
まだまだ俺の魔力量は尽きてはいない。むしろ元気が良すぎて暴れ出しそう。
今度は更に繊細な作業だ。集中しろ、俺。
魔石内部の術式の海を潜りぬけて目的の破損箇所を探し出す。
膨大な術式の中核に、魔力の流れが途切れた箇所を見つけた。破損した術式だ。その箇所を一つ一つ丁寧に魔力で包み込む。
小さな針穴に細い糸を通すように、丁寧に、慎重に、正確に。弾けた術式を直していった。
カチリ、音にするとそんな感じだろう。
「――術式、元の状態に戻りまし、た」
気づけば、俺の足元には額から流れた汗が床を濡らしていた。
ふらりと両肩から力が抜けそうになるのを耐え、監視役の三人の方へと視線を向けると、
「…イロアス隊長?」
「――」
扉の方にいる筈の監視役たちは唖然としてこちらを見ていた。
クゥスさん、カンテロさんは床にしゃがみこみ、瞬きもせずに目を見開いている。なんだか二人の顔は汗まみれで顔色は青さを通り越して白くなっていた。まるで幽霊でもみたかのような表情だ。
その横にいる女騎士キエトさんすら壁に片手をつき、額に大きな汗を浮かばせている。そしてイロアス隊長は他の三人のように汗まみれの顔ではないが、なんとも言えない表情で棒立ちで立っていた。その彼の足元にはガントレットが落ちている。
「…後は再起動するだけです。おれがしても大丈夫ですか?」
「――、あ、ああ…構わない」
歯に物が挟まったかのような喋り。なんだか今の空気は妙な感じだ。
気を取り直して目の前の魔道具に意識を向けた。
起動するにも、この大型の魔道具は随分と魔力を要求するような作りだ。 だからこそ大きな魔石が多数必要なのだろう。一度起動してしまえば術式と魔力回路は安定し始める。
術式の数と魔力消費量を計算すれば、ざっと見積もっても千年は動き続けるようにできていた。
修理する前の魔力残量だと、起動時間は二百年と少しぐらいしか残されていなかった筈。 俺自身の魔力で補充をしたので時間は伸びただろう。
「起動した瞬間、おれは先ほど見せた羊皮紙の術式を発動して結界魔道具の効果を防ぎます。多分、反動で気絶してしまうかと…十分以内に結界外へおれを運んでいただけますか。…下手をしたら死んでしまうので」
「…、…ああ、わかった」
「お願いします」
そう頭を下げ、俺は結界魔道具を見据えた。
(気絶っていうより、俺の心臓と脳、血管しか守らないから仮死状態一歩手前って感じか)
結界魔道具に触れたからこそわかる。この結界魔道具はとても強固な術式だ。
ここで俺がこの魔道具の術式を完全に防いでケロっとしてたら、それこそオルディナ王国にとって俺は脅威判定されてしまうかもしれない。
結界魔道具と俺の身体の術式が反発し合わないギリギリのラインで防ぐ事にしたのだ。 なけなしの凡人アピール。
「起動させます。…三、二、一」
ゼロ、と声を発した瞬間、結界魔道具と胸に忍ばせた羊皮紙の術式を同時に発動させた。
ぶつりと俺の視界は歪んで真っ暗になり――
(――放置されたり、しない、よ な)
そこで俺の意識は沈んだ。
※※※※※
細い体が石畳に崩れ落ちるのを、私はただ唖然と眺めるだけだった。
中心にある結界魔道具は無事に起動し始めたようだ。
魔石の内部にある術式が光り輝き、大陸を横断する為の魔力が渦を巻くのが目に見える。
あの少年が修理をしている間、私の目からは不審な動きはなに一つ感じ取れなかった。
細い両手から放たれた術式の輝きや魔力操作、それは驚くほどに繊細な動きでひとつの乱れすらなかった。
「…クゥス、カンテロ。…何か気づいた事はあるか」
「………」
「………」
返事がない。二人の技術者へ視線を動かせば、床に座り込んでピクリとも動こうともしなかった。その顔は哀れに思う程に真っ青で汗まみれになっている。
すぐ側のキエト隊員ですら青い顔で額に大粒の汗を浮かべていた。
(…私も、ああいう顔をしていたのか)
少年が修理し始めた瞬間、私達は身動き一つできなくなったのだ。
何もしていない通常時、あの子供の身体からは至って普通で僅かな魔力しか感じなかった。何処にでもいる有り触れた魔力量。森人の血を引く混血児と言われれば納得する所もあればどこか引っかかる所もある。そんな奇妙な子供だった。
少年が魔力操作をし始めた瞬間、それは一変した。
小さな身体をから爆発するように凝縮された魔力があふれたのだ。それはあまりにも濃く強いもので、同じ空間にいた私は膝から崩れ落ちぬようただ耐えるしかなかった。
修理が終わるまで四十分程かかっただろうか。この場にいた者は皆、長時間、緊張状態で拘束され続けたような疲労と苦痛を感じた筈だ。
それほどまでに、この空間を渦巻いた魔力は尋常じゃなかった。
「…ばけもの」
カンテロ技師のボソリとした声が、静かな空間にやけに大きく響いた。
「…あんな魔力量…ありえない…」
クゥス技師に咥えさせられていた唾液まみれの帯を手で掴み、唖然と呟いている。
「森人だって…竜人だって…ありえない…。あんな、化け物だ…」
たしかに山人族、竜人族、果ては種族随一の魔力量を誇る森人族すらはるかに凌ぐものだった。大陸外の他種族とは何度か会ったことはある。それと比べても異常な魔力の濃さは私でもわかった。
地上にいる種族が持ちえない魔力量。それはまるで、
(…神話に出てくる精霊王か、神竜のようだ)
神話の中で神にもっとも近い存在。
先ほどまで異常な魔力を放出していた子供は、白銀に輝く長い髪を石畳の上に広がせたままぴくりとも動かない。
その幼い顔と細い身体は男とも女とも、生きている人とも判断がつきにくい。横たわったままの姿は血が通わない人形のような雰囲気があった。
国の重要な結界魔道具に触れさせたのは、真意を見極めるためだった。
口から出たデマカセだろうとも怪しい動きをすれば捕らえるだけ。魔道具の技術があって多少直せる腕があるのならば人材としては儲けもの。どちらでも構わなかった。
所詮、魔道具はいつか壊れるものだ。それが二百年先か今かの違いだけ。
結界があろうとなかろうと、北と南の現状を考えても大して変わるものかと結界魔道具を餌として利用した。
その結果が、まさかこんなことになるとは。
「キエト、ソレを結界外へ運んでやれ」
「…ぁ、わかりました!」
壁に寄り掛かっていたキエトに向けて命令を出すと、動揺した表情を押し隠し、石畳の上の少年を抱き抱えた。力ない腕と脚がだらりと揺れる。
キエトがそのまま部屋を出ようとした瞬間、カンテロが引き留めるように声を上げた。
「こ、このまま放置していればソレは死ぬんでしょう…?結界外に出せばどうなるか…このままここに…!」
「か、カンテロ、貴方何言い出すの!」
「ですが、クゥス先輩!アレは異常だ!抵抗ができない今のうちに…!」
「カンテロ・ムジャン」
「!」
同年代であろう青年のその瞳は完全に怯えきっていた。魔力や魔道具を扱う者にとっては、先ほどの異常な魔力は苦痛で衝撃的だったのだろう。哀れな事だ。
「その判断はお前がしていいものではない」
「…ぁ、…っ」
「オルディナ国王がお決めになることだ。お前が決めていいものではない」
キエテに目配せで急げと命ずる。彼女はわずかに頷き、黒茶の長い髪を揺らして駆けだしていった。その姿を見届け、カンテロはがくりと床に崩れ落ちぶるぶると身体を震わせる。何やらブツブツと独り言すら聞こえてきた。あれでは暫く使い物にならないだろう。
「…クゥス・ルルゴス。修理前と後、比較しろ」
「あ、…は、はい…」
クゥスがよろよろと立ち上がり、中央の魔道具へと近づいて注意深く目を動かす。上へ下へ、左右へと視線を動かし、中心の魔道具の周りをぐるぐると練り歩き始めて数分。ぽつりとクゥスが呟いた。
「――まるで新品のようですよ、これ…」
感嘆と驚愕を通り越し、その声は呆れが混ざっていた。
「術式も亀裂も完璧に直ってる…事前に報告しましたが、二百年分程の魔力しか残っていなかったんです。…なのに、それすら補充されて…これはもう新品の結界魔道具ですよ…」
「…腕は確かなようだな」
「確かもなにも…あんな真似、森人だってできませんよ。まさかあそこまで壊れてしまったなんて気づけなかったんです。あの破損なら作り直す方がまだ早い。なのに、わざわざ手がかかるような複雑で難解な修繕技術を…たった四十分か五十分で直すなんて…ありえない…」
私には魔道具や魔石への付与加工の知識や技術はない。 学べる素質と資格はあったが、私は騎士の道を選んだ。扱えるのはせいぜいが両手で数える程の術式を知っている程度。 その程度でもこのオルディナ領では上級者の枠に入ってしまう。
クゥス技師の話によれば、大陸外の魔道具や術式に精通している森人や山人、それも有名な技術者を十人かき集めてやっと直せれるような事を少年はたった一人で修理してみせたらしい。
「そうか、ありえないか」
そのありえない光景を、私は目撃したということか。
床に落ちたままのガントレットを拾い上げようとして、自身の指先が微かに震えたのを自覚した。
「――それは、凄まじいな」
この大陸では失われた技術力、大陸外でも名が通る程の腕なのだろう。そして、その異常なまでの魔力量。
(聖女どころの騒ぎではなくなってしまったな)
王都にいる
「――結界魔道具は直った。外側の結界を起動させる。あとの修繕は貴職らに任せよう」
「…はっ、わかりました、イロアス様」
「……わかり、ました…」
「暫くすればサブラージ技師もここに到着する。国の為、心して勤めよ」
そう言い残し外側の結界を起動させて部屋から出た。あの二人は暫くこの一室に缶詰めになるだろう。
「おーい、イロアス殿!結界、無事に戻ったようだな」
細く長い通路を砦へと進むと大柄な熊に似た男、アルクダが出口付近で手を振っていた。
「アレは…サクマは?」
「無事だ。まーたあの坊主が死にかけたのかと思って大騒ぎになったぞ。あの赤毛の…オネットだったか。あのお嬢ちゃんすげぇ怒ってたわ。イロアス殿ん所のキエト隊員に喧嘩ふっかけてたぞ」
「…ほう」
ドミナシオンでは暗部に身を置いていたという報告も聞いている。鮮やかな赤毛に燃えるような翡翠色の鋭い瞳の女。 睨まれた時、妙な既視感を感じた。
「…どこで見たのだろうな」
何が?とばかりにアルクダが首をかしげる。
「ともかく、嬢ちゃん達に何が起こったか説明してやってくれ」
「…ああ」
亡命してきた聖女にドミナシオンの元暗部。そして、結界を飛び越えてきた大陸外の混血児。ここに来て随分と騒がしくなってきたものだ。
大陸外でも不穏な話はオルディナ王国にも届いている。
(あの子供…オルディナ王国にとっていい存在となるか、悪い存在となるか…)
それを判断なさるのは、ラウルス・ヴァシス・オルディナ国王陛下だけ。私は王の命に従い盾となり剣を振る、それだけだ。
地上へと出た途端、赤毛の元暗部に切りかかられた事は報告しようと思う。
※※※※※
…まっくらだ。
暗闇の中で意識が浮上した。
怖いという感情は湧かない。むしろ、心地いい浮遊感だった。
一番最初に目を覚ました場所、筒状の水槽に浮かんでいた時のような安堵感がある。
ふと、そこで周囲の暗闇が動いていることに気がついた。ああ、暗闇ではない。これは――
無数の魔術文字だ。
幾千、何億、何十兆もの魔術文字が重なり合い、蠢いていた。
ここは…俺の体の中か。
魔術文字が重なり組み上げられ、そして別の術式へと姿を変えていく。その動きは規則正しく正確で、一切の乱れもない動きだった。
その大きな流れの大元、中心核へと俺の意識は吸い寄せられた。魔力の源、俺の急所――心臓だ。
あ、破損箇所、ここにあったんだ。
大きく脈打つ心臓の表層の一部。ほんの小さなかすり傷があった。直りかけのその傷はマイクロメートルよりも小さい。ナノよりもさらに小さなものだった。
俺に直せるかな。
普通の魔道具を直すような方法では無理なのは知っている。だが、その特殊なやり方は
そっと手を伸ばし、小さなかすり傷が消えるように術式を組み上げた。
うわあ、ほんとえげつな…。
触れた瞬間、俺の心臓に刻まれた術式を少し理解した。
大河の流れのように情報が俺の意識の中を通り過ぎていく。俺の身体はエグいほどの情報量が詰まっていた。
クデウさんがのたうち回る程の濃さなのがよくわかる。よくもまあ蓮コラよりもグロくて激しいモノを作ったなあと感心を通り越してドン引きしてしまう。しかも、破損した術式はゆっくりと自己修正していく仕組みすら組まれてあった。驚きの高機能ぶりである。
ゆるりゆるりと俺の念じるまま、かすり傷がゆっくりと消えていく。完全にその傷が消える頃、ふと、俺は勘違いをしていたことに気がついた。
ああ、そっか。…俺の体、弄ろうと思えば弄れるんだ。
強化術式が効かないというのは勘違だった。
ただ、やり方が
メンテや修理や改造だって思えば出来るはず。勿論、あの結界魔道具よりも難解で複雑で手間と時間がかかるだろうが。
必要な時は調整する練習をしよう。今回みたいに術式の反発で動けなくなる事が無いように。
途方も無い作業だろうが細々しい事は嫌いじゃない。のんびりやっていけばいいのだ。
うん、そうだな、そうだよな…。心穏やかに暮らせるのなら万々歳だ。
この世界には締め切りも時間に追われることも無いのだ。
誰かに後ろ指を刺されることも、近所の白い目を気にすることも、親の冷ややかな目を気にすることも。同級生の家族写真が貼り付けられた年賀状を見て空しさを覚える事もない。
よくわからない体の不調や痛みに悩む事さえなくなったのだ。
スローライフを目指してみたいなあ。
前の俺の体はボロボロになるほど忙しない日々を送って壊れた。
クデウさんからもらったこの第二のチャンス。この体で今まで諦めていた事、やりたかった事をするのもいい。
うん、まずは絶対にしたい事は決まっている。
拳で岩を粉砕することだな!あれ、カッコいいよな。厨二だろうが何だろうが笑うがいい。一人、部屋の隅っこで二重の極みを見様見真似で練習してた俺がいる。憧れて何が悪い。
さて、そろそろ起きないと。あんまり潜ってると居心地よくて爆睡しそうだ。
こぽりと水泡が浮き上がるように、俺は表層へと意識を向けた。
「んん…」
「んむぅ…?」
ふにふに、むにむに。
「…ふ、…ふふっ」
「んぅ???」
めっちゃ柔らかい。暖かくて確かな弾力がある何か。
その何かに俺は顔面を埋めていた。フワフワな枕とも毛布とも違う。…この感触は覚えがある。たしかこれは、
「…ん?あ、サクマ、やっと目が覚めた!?」
「むぁ?」
「身体は大丈夫?どこか痛い所はない?」
天使のおっぱいだった。
添い寝してくれていたフィエルさんの胸に顔面を埋めていたらしい。
ありがとう、世界。ありがとう女神様。フィエルさんのおっぱい枕、最高です。
「…永眠したい」
「えっ」
フィエルさんがギョッとした声を上げた。
※※※※※
「サークマ、これも食っとけ」
「むぐ…ンググ」
「ん?しっかり噛めよ、ほら、飲みモン」
「…むぐっ、ぷはっ…いや、あの、オネットさん、流石にこんなに食べれな…」
「サクマ!野菜も食べてる?」
「あ、はい、食べてます…」
フィエルさんとオネットさんに挟まれ、俺はレタスを頬張った。シャッキシャキでうまい。
結界魔道具を修理してからなんと丸二日も経過したらしい。俺の身体のメンテの方が時間がかかるという罠。
気付けば、俺はオルディナの国境南門の南にあるプエンテの街にあるオルディナ管轄の宿へと運ばれていた。
目が覚めた直後、二人のお説教が始まってしまった訳で。
二度目のぶっ倒れを見せられ、どれだけ心配したかと二人は切々と語った。俺は神妙な顔で二人のお小言を黙って聞き続けた。
言うこともこと切れた頃合いに、心配をかけて申し訳ないと頭を下げて謝ったら二人は何ともなくて良かったと笑って許してくれたのだ。
女性が何かに怒ってブチ切れマシンガントークしている時、横から正論や茶々を入れてはならない。これ、母さんと姉と祖母で学んだ。
それから何故か怒涛の介護プレイが始まった。
フィエルさんやオネットさんに甲斐甲斐しく髪の毛を梳かされ、服を着せられてプエンテの食堂へと連行された。
目の前には胃に優しい料理から新鮮そうな野菜、美味そうな肉料理、暖かなスープとパンがテーブルに乗せられている。
「ほれ、ピーマン」
「あ、どうも」
「オネ!オネも野菜食べて!」
「あたしよりサクマだろ?」
オネットさんはピーマンが苦手らしい。
俺はオネットさんの皿から移動してきたピーマンを素直に咀嚼した。うまいのに。苦味がね、うまい年頃だよな。肉とは相性いいし。
「サクマは偉いわね、オネみたいに好き嫌いなくて」
「…むぐ…」
「えー?肉が一番だろ、肉」
まるで弟を褒めるかのように俺の頭を撫でながらフィエルさんがにっこにこしている。
(…はて、なんでこんなに甘やかされているのだろうか?)
おかしい。フィエルさんとオネットさんがどちゃくそ甘い。一体、何が起こっているんだ…。若いお嬢さん二人に挟まれ甲斐甲斐しくされる俺。
(…うーん、ぶっ倒れたことで母性とか保護欲とか刺激してしまったとか?)
それでなくとも元病弱キャラという追加設定がある。このままでは俺は堕落してしまうかもしれない。
「おれ、お二人に心配をかけないよう身体をムッキムキに鍛えますね」
「え?」
「あ?」
フィエルさんとオネットさんがフリーズした。なんでや。
「身長だってもっと伸ばします。逞しい体になれば性別も間違われなくて済みますし」
「…サクマが…ムキムキ…」
「…うーん…」
二人はどこか遠い目をしている。
クデウさんのように発狂しながら頑張れば身体改造は可能だろう、多分。170センチ越えは目指したい。是が非でも。
「…まあ、変に気張らなくても勝手に成長すんだろ」
オネットさんがポンポンと俺の頭を撫でた。勝手には成長しないボディなんだ。残念。
「あと五年は小さいままでいて…」
フィエルさんが切実な声で俺の手を握った。五年て長くない?
その時、柔らかな声が降ってきた。
「あら、元気そうね」
パンを頬張りながら見上げた先には、
(……デッカ)
でっかい胸がたぷんと揺れていた。
いや、だって大きかったのだ。二度見するぐらいには大きかった。仕方がなかろう、男ならば目が吸い寄せられてしまうものだ。
大きな胸の谷間を惜しげも無く見せた美女が、ゆったりとした足取りで俺らのテーブルへと近づいてくる。
「こんにちは、目が覚めたようで安心したわ。小さな魔術士くん」
二十代後半ぐらいだろうか。淡い桃色の長い髪にタレ目がちな青紫色の瞳をした美女だ。たゆんと揺れるたわわな胸。何カップだあれ、Gカップはあるだろ。
そんな美女の服装は中華圏の息吹を感じるデザインだった。中ベースに洋と日本の服装を足して二で割ったような雰囲気。改めて思い返すと、オルディナ領の人々の服装は独特な雰囲気があった。
「ええと…どなたでしょうか…」
俺に話しかけてたよな?
見覚えのない美人なお姉さんである。一度見たら忘れはしないほどの胸の大きさだ。
「ああ、貴方は意識がなかったものね。わたしはフラーウ・サブラージ。オルディナ王国の魔道具関係の宮廷技術者よ」
砦の技術者であるクゥスさんとカンテロ君の師匠、ということか。
こんな美人なお姉さんが師匠とか、カンテロ君、羨まし過ぎる。
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