贖罪

 家に帰って動画を見てみると驚くことに、再生数は一万再生を超えていて、前回の動画の再生数をたったの二日で超えてしまっていた。

 それだけではなくて、コメントも結構な量が書かれていた。もちろん、賞賛のコメントばかりではなく、批判めいたコメントもあるけれど。反応があるって言うのは良い証だ。


 翌朝起きると、水無瀬さんからメールが来ていた。話があるから学校に着いたら屋上に来てほしいという内容のメールだった。


 いつもより少し早めに準備をして学校に行って屋上に着くと、既に水無瀬さんは来ていた。

 水無瀬さんは僕を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ねぇ、あの動画の再生数見た? すごいよね」


 こんなにはしゃいでいる水無瀬さんは見たことがなかった。


「うんっ、すごいよね。びっくりしちゃった」


 はしゃいでいる水無瀬さんにつられて、僕も嬉しくなって声が飛び跳ねる。

「でもなんで急にあんなに再生数が伸びたんだろう。昨日の朝見た時は1000再生もなかったのに、夜には1万超えるなんて」


「実はね、結構有名なボカロPの人がいい動画だってみんなに紹介してくれたみたいなんだよね。いきなり伸びたのはそれが大きいみたい。あとは動画の広告してくれた人もいたからだと思う」


 なるほど、みんながあの動画を見るきっかけがあったから急に伸びたってことなのか。なんて言ったって曲が良いから、色んな人に広まって伸びるのは当然なんだけれど。


「三善くんの絵があったからあの動画が色んな人の目について聞いてもらえて、こんなに人気が出たんだよ。ありがとう」


「そんなことはないよ。僕の絵なんかただの飾り程度で、水無瀬さんの曲自体が素敵だからこそ人気が出たんだと思うよ。それと僕も曲に合わせて絵を描くなんて初めての経験だったから、楽しかったよ。ありがとう」


 水無瀬さんが照れているのがわかった。

 でもきっと僕も照れてしまっているだろう。


「あのね、もう次の曲を考え始めているの。今度は完全な新曲。だから、また出来上がった曲に合わせて絵を描いてもらっていい?」


「あんな拙い絵でも役に立つのなら、いくらでも描くよ」


「本当!? ありがとう。拙い絵だなんてそんなことないよ。実はね、今回新しく上げた動画には三善くんの描いた絵を見ていて思い浮かんだアレンジを採用しているんだよ。あの絵がなければ、あのアレンジは生まれなかったんだよ。私は今後も三善くんとなら素敵な動画を作っていけると思うの」


 水無瀬さんが曲を作るのに僕の絵が役に立っているのなら、それは絵描きとしては嬉しいことだ。

 僕の絵が水無瀬さんの曲を刺激して、水無瀬さんの曲が僕の絵を刺激する。今後、もしそんな関係を実現できたらなぁと思う。


「だから、これからもよろしくね、三善くん」


「こちらこそ、これからもよろしく」


 水無瀬さんがお辞儀をしたので、僕もわざとらしくお辞儀し返した。


「夢は大きく、目指せ、再生百万回だねっ」


 水無瀬さんが軽くガッツポーズをしながら言う。

 

 僕はそれに「えいえいおー」と力強く答える。僕の動きが余程面白かったのか、水無瀬さんはずっと笑っている。


「あっ、でもいくらなんでも百万再生なんてちょっと夢見すぎかな」


「そんなことないよ、きっとね」


「そうだね、二人力を合わせればっ!」


 水無瀬さんが無邪気に笑う。


 僕と水無瀬さんなら、いつか本当に百万再生を狙えるような気がした。


「うん。頑張ろう」


 僕に向かって女の子が心の底から嬉しそうに笑ってくれている。


 それを見て、僕も心の底から自然と笑顔になる。


 あの日以来、はじめてこんなに嬉しい気持ちを女の子と共有している。


 数か月前の自分には想像もできなかった。


 僕はあの日から少しは前に前進できたのだろうか。


 できることなら、そうだと願いたい。


 それにしても水無瀬さんと出会うことができて本当によかった。僕の拙い絵でも、水無瀬さんの夢に役立つというのなら、これからも協力して行こうと思う。


 水無瀬さんの初音ミクが、水無瀬さんの代わりに歌姫になってもらうために。


 それが今の僕ができる、同じような夢を持っていた瞳への贖罪の代わりになってくれるだろうから。

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