次回作

「なんか美咲がすごく怒っていたみたいだけど、どうかしたの?」


 授業が終わった後、すごく不安そうに水無瀬さんが話しかけてきた。清水さんは授業が終わるとすぐに何処かへ行ってしまっていた。


「んーちょっとね、ただの誤解だったみたい。誤解は解けたから心配ないよ」


「そう、だったらいいんだけど。私にとっては美咲と三善くんの中が悪いのは嫌だから気になっちゃって」


 確かに、水無瀬さんからしたら僕と清水さんの中が悪いのは居心地が悪いだろう。もしかしたら今まで表面化してなかっただけで、僕と清水さんの微妙な関係は水無瀬さんにとって居心地が悪かったのかもしれない。それだったら申し訳ない。


「水無瀬さんは清水さんにもあのことは言ってないんだね」


「特に話す必要はないから。もちろん美咲が聞いてきたら教えるつもりだけれど、そういう話題にならない限り自分から教えたりはしないかな」


「ボカロを聞いてることも教えてなかったりする?」


「ううん、それは隠してないから他にも知ってる人は知ってるよ。まぁ美咲はあんまりボカロには興味ないみたいだけど」


 この前はわからなかったから晃には言わなかったけれど、大丈夫だったらしい。きっと晃に教えたら喜ぶだろう。


 水無瀬さんは清水さんと僕の仲がこじれたわけでないことを確認して安心したのか自分の席に戻っていった。


 ちょうど水無瀬さんが席に着く時に清水さんが帰ってきて、二人は一言二言かわすと僕の方を見た。二人が一緒に僕に向かって親指を立てたので、僕も親指を立てた。

 これで仲直りと言うことだろうか。




 休み時間にお菓子を買いに購買部のあたりを歩いていると偶然黒崎さんに会った。会ったというよりも黒崎さんが遠くにいた僕を見るなりこっちに向かってきたのだけれど。


「彼女から連絡があって、昨日上がった動画を見させてもらったよ。やっぱり僕の考えに狂いはなかったよ。素晴らしいものが出来上がっていた。とてもいいものを見せてくれてありがとう。曲自体も前より人間っぽく歌っているし、後半部分は前の動画よりも素晴らしいアレンジになっていたよ」


 黒崎さんはいつもよりなんだか表立って少し興奮しているようだった。とはいえ、やはり周りに聞こえないように気遣ってくれたのか声は小さい。


 それにしても予想外だった。

 黒崎さんがこんなに自分のことのように嬉しそうに褒めてくれるとは思わなかった。素直に今までで一番うれしい。


「もちろん、今回の件で少し君を気付つけてしまった部分があることは申し訳なく思う。すまない。」


 人の目もあったので首を振る程度だけど、黒崎さんは軽く頭を下げていった。


「そんなことないです、黒崎さんのおかげです」

 と言って、僕も黒崎さんに会釈をした。


「水無瀬さんにもよろしく頼むよ。当然、きみたちの次回作も期待しているからね」


 黒崎さんは今までで僕が見た中で一番爽やかだったと言ってもいいくらいの笑顔で言うと、そそくさと何処かへ行ってしまった。


 次回作。

 そんなことは全く考えてもいなかった。


 当然のことながら、水無瀬さんは次の曲を作って投稿するだろう。僕はその曲のために、また絵を描くのだろうか。今回初めて曲に合わせて絵を描いて面白かったので、できることならまた描きたい。


 でもそれは水無瀬さんが決めるべきことだ。決して僕が次の曲のためにまた絵を描きたいと押し付けるべきではない。あくまで主役は水無瀬さんの曲なのだから。僕の絵はあくまで主役を引き立てるためにある。僕自身の描きたいという気持ちではなく、水無瀬さんの意見を尊重するべきだ。


 水無瀬さんが僕に絵を頼むか、それとも別の人に頼むのかは、きっとこれからこの曲が聞いた人たちにどう受け入れられるかによって変わるだろう。


 それを考えると今回の動画をたくさんの人に見てもらいたいなと思った。

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