創作の輪

 追加で描いた絵を含めて、全ての絵が無事に描き終わった。自分の中では納得のいく出来上がりだった。

 どうしても直接水無瀬さんに出来上がった絵を見せたくて、すぐにメールでは送らず、パソコンから描いた絵をプリントアウトして学校に持っていった。放課後になって、いつものようにコロラドに水無瀬さんを誘った。

 席に着くなり、注文したコーヒーにも手を付けずに、僕は鞄の中からクリアファイルを取り出した。水無瀬さんはホットコーヒーにガムシロップを2個入れ終わって、スティックの砂糖1個を入れているところだった。


「じゃーん、絵ができたから持って来たの。どうしても直接チェックしてもらいたかったからさ、電子データは帰ったらメールで送るね」


 クリアファイルから印刷した絵を水無瀬さんに向けて掲げると水無瀬さんはもう完成しているとは予想外だったのか驚いていた。


「えっ! もう出来たの? 3日前くらいには完成にははまだ一週間以上かかるって言ってなかった?」


「3日前くらいには確かにまだ一週間以上かかるかなって思ってそう言ったんだけど、休みの日に作業しているうちにどんどん出来上がって行っちゃったから、実際に見せて驚かそうと思って」


 サプライズは成功だ。印刷してきた絵を渡した。


「すごいっ、素敵。色が入るとまた別物だねっ」

 水無瀬さんは絵を宝物でも見つけたかのように楽しそうに見ている。


「三善くんに頼んで良かった」


 水無瀬さんがニコッと笑った。僕もニコッと笑い返す。


「ふっふふー実はね、私からも報告があるの」


「新しいアレンジがやっとできたの! こんなサプライズがあるなんて思ってなかったから、残念ながら音源は持ってきてないんだけどね」


「じゃあもう今週くらいには完成する?」


「ううん、まだ実際にはこの後ボカロとオケのバランスを調整するミックスって作業が一応残ってはいるの。三善くんの絵をクレジットとか入れて動画にするのも一日くらいかかるから、完成にはもうちょっと時間がかかるの」

もう完成かと思ったけれどもう少し道のりは長そうだ。


「どうかしたの?」


「いやね、今の私たちみたいに、色んな人が協力し合って一つの動画が作られていたりするんだよなって思って。私は今まで一人で曲作って、どこかから既に出来上がっているイラストを描いた人の許可をもらって、曲に一枚だけ貼り付けていただけで、誰かと共同で一つのものを作ったのは初めてだからね」


「そうだね」


「ネット上でやりとりして、絵を描いてもらったり、動画を作ってもらったりしている人もいるみたいだけど、私の曲はまだまだ未熟だったし、リアルで全く関わり合いのない人にいきなり絵を描いてなんて頼む勇気もなかったから」


「うん。上がっている動画それぞれに物語があって、それって素敵なことだね」


「誰かが自分の心の中に存在するものを表現して、それが誰かに評価されるって昔は発表の場が少なかったからごく一部の人にしかできなかったけど、今はインターネットが発達したおかげで気軽に発表できて、気軽に聞くことができるから創作をする人にとっては幸せな環境だよね」 


「それに、そのおかげで三善くんが友達経由とは言え、私の作った曲に出会ってくれたわけだし。そのおかげで、私と三善くんが出会ったからね。よく考えてみると、これって奇跡みたいな事だと思わない?」


 黒崎さんにあんなことを言われたので、僕は奇跡で片付けたくはないなと思うけれど奇跡で考えるのも悪くないと思ったので、否定はしなかった。

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