クリスマス
まだ2週間以上もあるというのに世間はすっかりクリスマスムードで、煌びやかな装飾が街のあちこちに飾られている。学校では、クリスマスまでにいかに相手を見つけるか、クリスマスに誰と過ごすかという話題で色々と盛り上がっているようだった。
僕にとってクリスマスなんてほとんど関係のないイベントだ。この歳になって、サンタクロースは実在するのか、なんて議論をする気は僕には毛頭ないし、ロマンチックな日を一緒に過ごす相手もいない。そして、過ごしたいと思える相手も近くにはいないのだ。
僕にとっては、クリスマスのせいで面倒な事に巻き込まれないかどうかの方に関心がある。毎年なんだかんだ言って、変なことに巻き込まれる。去年のクリスマスは、誰が企画したのか知らないけれど、彼女の有無を問わずクラスの男子全員強制参加の男子会という名の野球に夜まで強制的に参加させられたりした。
しかも、その野球でピッチャーの投げた球が肩に当たってケガをすると言う、散々なおまけまでついてきたっけ。
体育終わりの更衣室。
好きな人は誰かと言うようなことでクラスの男子全体が盛り上がっていた。特に自分から話す様な事もないし、他人の恋模様に興味はあまりないので、適当に相槌を打って聞いているだけだった。
段々とあの子に彼氏はいるのかなどと、クラスの女の子一人一人のことに話題が移っていった。段々と話題の人が変わって行って、清水さんの話になった。
「そういえばさー清水さんこの前の打ち上げのときの私服めっちゃ可愛くなかった? なんかすげー印象変ったわ」
「確かに制服とは違った印象で私服は可愛かったなー」
「清水さん、男子に対してはきついよなぁ。女子と接する時とは違っていつもツンツンしてるわ。でもそこがまたなんか良いっていうか」
「そうだねぇ、ツンデレって感じだよなぁ」
「いいよなぁーツンデレ。清水さんは可愛いから似合うわー」
「なぁ、祐一はどう思う? 清水さんのこと」
「えっ?」
不意に、ある男子が僕に話を振ってきた。突然会話には参加していなかった僕に話が降られたので、他の人の注目が集まっている気がした。
「うーん、確かに男子にはきついと思うけど、あんまり話さないから分からないなぁ」
「あぁ、そっか。祐一は女の子と話してるの見ないし、恋とか興味なさそうだもんな。でも本当どの男子にもきついよなぁ、清水さん」
なんだかその言葉には悪意があるように感じた。
とはいえ、そんなことを感じたのは僕だけで、他の人は何も気にせず話が続いていった。もしかしたら話を振ってきた男子は、清水さんが授業中に僕の事を見ている事に、気がついていたのかなと思った。それ以外の理由で、わざわざ会話に参加していなかった僕に話を振ってくるはずがない。
だからと言ってそれを彼に問い詰めて確かめるのも野暮というものだ。
清水さんの後に水無瀬さんの話題も出たけれど、地味だしあまり話したこともないからわからないという話ですぐに終わってしまった。
確かに水無瀬さんが男の子と話しているところはほとんど見ないので仕方ないだろう。でも水無瀬さんがあんなにいい曲を作ると知ったらみんなはどう思うのだろうか。
みんなが知らないということを残念に思うと同時に、自分だけがこのことを知っているという優越感のようなものがある気がした。
着替え終わって教室に戻る時に、晃が横に来て後ろの男子に聞こえないように小さな声で言ってきた。
「さっきのみんなの会話で聞こうとお前に思ってたこと思い出したんだけどさ、なんか最近水無瀬さんと話してること多いけどなんの話してるの? ってかもしかして恋してるとか言わないよな」
作曲の話はもちろん話せないけれど、水無瀬さんがボカロを聞いていることも隠した方がいいのかわからなかった。
言おうか迷ったけれど、どこから作曲の話がばれるかはわからないので、一応ボカロを聞いているということも隠すことにした。
パッと思いついた嘘が好きな海外ドラマが一緒だったからそのドラマの話をしているという嘘だった。恋の件についてもきっぱりと否定しておいた。
「ふーん、そっか」
晃はあまりドラマなどの実写には興味はない人なので、特にそれ以上追及が入ることはなかったので、安心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます